「ぺトラさん」
「なぁに?エレン」
「ナマエさんと兵長って、どういった関係なんでしょうか?」
「……またいきなり込み入った事を聞くね」
「え、ダメでしたか…?」


訓練の休憩時間、エレンはナマエさんと兵長が話している姿を遠目に見ながら聞いてきた。


「まぁでも、確かに気になるよね。あの二人」
「はい…。なんとなく兵長は、ああいう……何でしょう…ナマエさんのような人は、苦手そうな……感じがするんですよね」
「そうだね。誰だって最初はそう思うんじゃないかな」
「……でも、兵長は何かとナマエさんを気にしているように思えて…」
「うん。そうだと思う。ていうかかなり気にしてると思う。 」
「ですよね?何ででしょうか」
「何でって…。それは……ねぇ?」
「え?」
「……まぁ、本当のところ、兵長の気持ちは兵長にしか分からないだろうね。でも、ナマエさんはただ馬鹿なだけじゃないって事は、もうエレンだって分かっているでしょ?」
「(今はっきりと馬鹿って言った)…そう、ですね。優しいですし、それに気遣いとかも……。兵士としては、まだよく分からないですが…」
「ナマエさんは兵士としても凄いよ。立体機動は誰よりも速いし上手いし…まぁ壁外でも兵長との関係は変わらないけどね。」
「変わらないって何がですか?」
「うん。壁外でも、ナマエさんの無茶を止めるのは兵長の役目なんだよね」
「無茶?」
「そう。仲間を助ける為に、ナマエさんはいつも無茶しちゃうから。」
「仲間を、助ける…」
「目に入る者の全てに手を差し伸べるっていうか。例えもう助からないように見えても、ナマエさんは絶対助けに行く。だけどそれに集中しすぎちゃって、たまに自分が危ない目に遭う事があるから。そういう時に兵長はナマエさんを制御するっていうか、助けるっていうか。」
「へえ……でもなんだか、大変そうですね…」
「まぁね。でも、それでも兵長はナマエさんを見捨てないし、むしろ大事にしてるんじゃないかな。」
「大事?!っえ、何でそう思うんですか!?」


兵長はナマエさんを大事にしている。そう言えばエレンは目を見開いて声を荒げた。その姿は本当に驚いていて、笑ってしまう。


「っあはは、ビックリしてるね」
「いやしますよ!確かに兵長はナマエさんを気にしているようには見えますけど…っでも、大事にしているようには……」
「そう?私には見えるけどなー」
「えぇ……そう、ですか…?」
「うん。見てれば分かるんじゃないかな?」
「見てれば……ですか」


兵長がナマエさんをいつも気にかけているのは見てれば分かるし態度や言葉はキツくても、それは別に蔑ろにしているからではないと思う。ナマエさんもそれをちゃんと分かっているから、だからいつもあんなふうに笑っているんだと思う。

でもまぁ、その真意には気づいてないんだろうけど。


「エレンにもそのうち分かるよ」
「そうですかね……。」





「兵長兵長、」
「なんだ」
「大きなバッタを捕獲しました」
「んなもんわざわざ見せんな……」
「あ、飛んだ」
「いちいち興味示してんじゃねぇよ。ガキか。」
「あっ兵長」
「うるせぇな」
「バッタです」
「しつけぇよ。もうバッタはいいだろ」
「さっきのより小さいです。」
「そうか。どうでもいい。」


ぺトラさんの言葉が引っかかり、木の陰から二人の様子を窺う事にした。しゃがんでいるナマエさんと立ったままそれを見下ろす兵長。
会話を聞いてると、今のところまだよく分からない。というかナマエさんは本当に子供みたいだ。バッタて。普通にしっかりしている時もあるのに。


「今日も空が綺麗ですねー」
「……そうだな。」
「風が気持ちいいですねぇー」
「……随分とふぬけた顔だな。」
「ふぬけてます?」
「ああ。いつもの事だが。」
「でも兵長も穏やかな顔してますよ?」
「あぁ?」
「ふふ。なんか清々しいですもんねー。天気もいいし」


穏やか…?リヴァイ兵長の顔が穏やか?それはどうしてそう思うのだろうか…?
俺から見ればいつも通りの感じに見える。そもそも穏やかと言われた時の反応が全然穏やかじゃない。あの目つきで返されて何で笑顔で居られるのだろうかあの人は。


「あ、兵長」
「バッタはもういい。」
「違いますよ。お花です」
「……」
「かわいいですねー」
「…そりゃよかったな」
「兵長もかわいいと思います?」
「思わん。」
「えっ思わないんですか」
「気持ちわりぃだろうが」
「えっヒドイ」
「ちげぇよ。俺が花を見てそんなこと思ってたらだ。」
「あぁ……そうですかね?全然良いと思いますよ。じゃあ兵長はお花を見て何を思うんですか?」
「……綺麗だとは思う。」
「…っふは、ですよね!良かった」
「…何がだ」
「思うことが、兵長と同じで」


「………。」


何だろう。話してる事は、大したことじゃないのに。なのにあの二人を纏う空気がだんだん柔らかく思えてきた。よく分からない。不思議だ。そしてナマエさんの笑顔を見つめる兵長の目が少し、優しく感じ始めた俺は二人の空気感に呑まれているんだろうか。


「…ナマエ、」


ぺトラさんの言っていた事はこういう事なのだろうか?そんなふうに思っていると、兵長はナマエさんと同じようにゆっくりとしゃがみ込み、そしてその髪に手を伸ばした。それだけなのに何だかドキドキしてきた。なんだこれ。二人の周りだけ素敵な空間に見えてくる。


「なんですか?」
「……ついてるぞ。」
「え?あ、…葉っぱ」


兵長はナマエさんの髪についた葉っぱを手に取り、それを見せる。そして指を離した。ふわふわと風に乗ったそれは俺の方に飛んでくる。そのままそれを目で追いかけた二人の視線が葉っぱと共に俺の方に向いた。

木の影で座って二人を観察していた俺は、思わずハッとする。


「……あれ、エレン。そんなところに居たの?何してるの?」


俺を見て目を丸くするナマエさんと、眉間にシワを寄せるリヴァイ兵長。


「…あ…え、えっと……、」
「オイエレン……覗きとはいい趣味だな…」
「のっ覗き!?いやそんな、覗いてなんかないです!」
「ほう…ならそこで何してる」
「えとあのっ……きゅ、休憩、です。」
「エレンさっきまでぺトラと話してたよね?そこに居るの全然気づかなかったー」
「え、あ、はい………え聞いてたんですか!??」
「え?いやそんな、会話までは聞こえてないけど……」
「じゃあ何で俺がぺトラさんと居たこと知ってるんですか!」
「いや…エレン何してるかなーって気になって」
「……てめぇ、俺と居ながら他の奴のことを考えてたのか」
「え、いや、考えてたっていうか…、ちゃんと馴染めてるかなーって気になって」
「いい人!」
「ていうかそんなこと言って兵長だっていつも気にしてるくせにー」
「…え?」
「俺はそいつを監視するのが仕事なんだよ。当たり前だろうが」
「なるほど。そうでしたか」
「てめぇ、喧嘩売ってんのか?」
「え、滅相もない!」
「そうか、いいだろう……休憩は終わりだ。訓練に戻る。次は対人格闘だ。こい、ナマエ。」
「えっ?!対人格闘ですか?!しかも兵長と!」
「手合わせしてやる。」
「そんな!勝てる気がしない!」
「ほう…てめぇはそれだけを理由に諦めるのか?逃げるのか?勝てないと思う相手には挑むことすらしないのか」
「………。分かり、ました。そうですね。例え相手が兵長でも、逃げるわけにはいきません」
「ちょ……え……」


いきなり始まった対人格闘。兵長は立体機動装置を外し地面へ落とすとナマエさんを簡単に口車に乗せる。ナマエさんは同じように装置を外しお願いします、と構えた。


「エレン、次はお前だからな。分かってるだろうが容赦しねぇぞ。」
「!?」


そんな、容赦しないのはもう審議所で十分に分かっているのに!しかもこれ絶対当てつけだよ!

目の前でナマエさんが地面に叩きつけられるのを見て、兵長がナマエさんを大事にしているとかそんな事はもう考えられず(ていうかこれを見てるとやっぱりそんなふうには思えないし)、ただただ恐怖に支配された。


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