「オイ、口開けろ。」 「…いや…あの…」 「どうした」 「…どうしたじゃねーよ」 翌日、目を覚ますとリヴァイが私の手を握っていた。何で、いつの間に、と驚いたがこうして側に居てくれたのかと思うと胸にじんわりと温かいものが広がっていった。私が起きるとその手は離れ、少し寂しかったがずっと繋いでるわけにもいかないのでそこは抑えた。そしてそれから何か食べろという事でリヴァイがスープを持ってきてくれたんだけど。そこまでは良かったんだけど。 ベッドで体を起こし座る私と、皿とスプーンを持ち何食わぬ顔でスープを食べさせようとしてくるリヴァイ。待て。何でこうなった。 「さっさと食え。」 「だから自分で食えるんですが…」 「お前力入らねぇんだろ。ぶちまけられても困る。」 「ぶちまけねーよ…」 「いいから食え。」 「っちょ…」 スプーンを口に突っ込まれ食べさせられる。確かにボーっとしてあまり力はないけどだからってこれは。 「ちゃんと噛めよ。」 「いや噛むわっ、ガキか私は…」 「こういう時はガキみたいなもんなんじゃなかったのか?…ほら、」 「………。」 ほらじゃねーよこの野郎。当然のようにスープ食わせようとしてくんな。自分がされたら嫌がってたくせに私にはするのかよ。しかも私はあれ冗談でやってたのにお前は本気なのかよ。このチビ。 いろいろ思いながらも仕方なく素直にそれを口にする。皿を奪う気力もない。なんともむず痒かったが我慢した。しかし食欲がなくてあまり食べれなかったけどとりあえず食べ終え、薬を飲みまた横になる。私は多分リヴァイのように一日や二日で治らないだろう。何日かかるか分からないけどとりあえず明日からはメシくらい自分で食べたい。 「ハァ……」 「…そういや、お前の着替え持ってきた方がいいか?」 「え?」 「別に俺はお前が俺のを着てても構わないが」 「…は……え…?」 そういえば。私いま兵服着てない…?あれ?いつの間に?ていうかこれ…リヴァイの……。 着ている服を確認し、自分のではない事に今更気づく。ていうかリヴァイの服だこれ。 「気づいてなかったのか」 「いや…だって…、私、いつ着替えたっけ…」 「…そりゃ、お前寝ていたからな。」 「は……?」 それってどういう? 問いかける前にリヴァイが平然と口を開いた。 「あのままだと寝苦しいだろうから楽なものに俺が着替えさせた。」 「はあっっ?!?」 その発言にガバッと起き上がり、声を荒げる。頭痛がしたがそんな事よりも。 「オイ、起き上がるな…」 「なっ……だ、だって、き、着替えさせた、って…?!」 「…言葉通りだが。」 「ちょっ…まっ…!」 何それ!?と言おうとすれば咳き込んでしまい言葉が詰まる。するとリヴァイが背中を擦ってきた。 「興奮すんじゃねぇよ…」 「…っええい!触るなッ!」 その手を払い、睨みつける。 「…何だってんだ。」 「何だじゃねーよっ!何勝手にそんな事してくれちゃってんの…?!」 「お前が自分で着替えられるような状態じゃなかったからだろうが。」 「知らない覚えてないっ!ていうかベッドに入った事すら覚えてない!」 「心配しなくてもベッドのシーツもちゃんと替えたぞ。」 「いや抜かりないなっ!ってそうじゃねぇ!!」 「うるせぇな…落ち着け。」 「落ち着けるかぁっ!!」 「何なんだよ……今更お前の貧相な体なんか見ても興奮しねぇから安心しろ。」 「死ね!!!!」 「……やめろ、埃が舞うだろうが。」 聞き捨てならない言葉に枕を投げつけると、簡単に受け止められた。クソ、力が出ない! 「っく……、ハァッ…っはぁ……」 「オイ待て。お前熱上がってんじゃねぇのか…」 「……ごほっ、」 「顔が赤いぞ貧乳よ」 「貧乳言うなっ!!……っ、」 「いちいち反応するな冗談だろうが。いいから横になりやがれ。」 「っよく、ねぇ……。」 言い返していると体が熱くなってきて、枕を置かれ横にさせられた。 「病人がはしゃいでんじゃねぇ。」 「……誰のせいだと…」 「お前がいきなり叫んだんだろうが」 「……。」 大きく息を吐き黙り、毛布を頭まで被る。 確かに兵服だと寝にくいだろうし本来なら感謝するところなのかもしれないんだけれども。でも、なんか。リヴァイに裸を…というか下着姿を見られるなんて本当に今更だけど、なんだか恥ずかしいじゃないか。そりゃあ昔それ以上の事をしていたってのに今更下着姿くらいで騒ぐなって気もするけど。でも。 (クッソ、何なんだ私は乙女か!!気持ち悪ぃな!!) こんな事で照れまくる自分もなんか嫌だ。 ムズムズしているとリヴァイが私の名前を呼び、仕方なく毛布から顔を出す。 「…何」 「俺はこれから本部に行くが、一人で大丈夫か」 「……ガキかよ。大丈夫に決まってんだろっ」 「…悪いな。ちゃんと寝てろよ。」 ジャケットを着ながら心配そうな顔をこちらに向けるリヴァイに、なんとも言えない気持ちになる。そんな顔をしなくても別に一人残されても寂しくなんかないし、ただ寝ているだけなのだから一人でも問題ない。 「…大丈夫だよ。別に…気にしないでいいからリヴァイこそちゃんと仕事してきて」 うん。寂しくなんかない。リヴァイには仕事があるのだ。 「…そうだな。分かった。」 静かに側に寄られ、顔を上げると屈んで目線を合わせられた。 「…行ってくる。」 その声は胸が苦しくなるくらいにとても優しく私に響いた。 「ぁ… う、ん。行ってらっしゃい…」 見つめ合い、今までの離れていた距離が急に縮まったような、そんな感覚になる。それにこんな言葉を交わすのは久しぶりだ。まるで昔に戻ったみたい。いや、むしろ昔よりも。 リヴァイはそのまま立ち上がり部屋を出て行く。ドアが閉まると、静かになり深く息を吐いた。 「…何なんだよ…バカ。」 熱があるからなのかもしれない。こんなにドキドキするのは。いちいち、こんな。馬鹿みたいに感情が変化する。だけど私も変だと思うけど、でもリヴァイだっておかしい。何でいきなりいろんな表情を見せるんだ。 「……」 ダメだ、寝よう。頭痛がひどくなってきた。 考えるのをやめ、リヴァイの居なくなった部屋を見ないように目をつぶった。 ◇ 「ん……、」 人の気配を感じ、目が覚める。 あれからどれくらい経ったのか分からないがリヴァイが帰ってきたのかと顔を動かす。 「あ、ナマエさん。目が覚めましたか?」 だけどそこに居たのはリヴァイではなく。 「……二ファ?」 班員で後輩の二ファが居た。 「おはようございます。ハンジ分隊長に言われて兵長に許可を貰い様子を見に来ました。体調はどうですか?」 「え…わざわざ?大した事ないのに……」 「でも顔赤いですよ?お水飲みますか?」 「いや…自分で出来るよ、大丈夫」 「何言ってるんですか、安静にしておかないとダメですよ。ちょっと待って下さい」 二ファは微笑んでコップに水を入れてくれた。起き上がってそれを受け取りお礼を言う。 「わざわざ悪いね…仕事も出来ないのに手間まで掛けて」 「そんな、気にしないで下さい。手間だなんて事もありませんよ」 「…ありがとう。本部はどんな感じ?」 「変わらずです」 「そっか……」 「何か欲しいものとかありますか?」 「いや…大丈夫。」 「遠慮しないで言って下さいね。もし何かあれば持ってきますし」 「でもまぁ寝てるだけだから…特には…」 「あ、そういえば着替え持ってきました。ここに置いておきますね」 「え、あ、…着替え、」 「兵長に言われてハンジ分隊長がナマエさんの部屋から持ってきてくれて」 「…そっか、うん。ありがとう。」 リヴァイのやつ。わざわざ持って来させなくてもリヴァイの服で良かったのに。ていうかハンジもわざわざ部下に様子見に行かせなくても。 「ナマエさん…」 「…ん?」 「今着てるそれって……リヴァイ兵長のですか?少し大きめに見えますが」 「え……………あ、うん。いやっ……、いや、まぁ、そうだけど。」 「ここも兵長のお部屋なんですよね?」 「…そう……だね。」 「…もしかしてお二人って、お付き合いとかされてるんですか?」 「、はっ?!」 二ファはいきなり若干前のめりで聞いてきた。それも少し楽しそうに。 「前から思っていたんですけど…お二人は昔からの仲だと聞きましたし」 「な、いや、何、言ってんのっ」 「違うんですか?でもナマエさんは兵長のこと好きなんですよね?」 「はいっ!?二ファ急に何言ってんの?!」 「ナマエさん、焦りすぎです」 「いや焦るわ!」 「あはは、焦らないで下さいよー」 「え、何…二ファは私の事をからかいに来たの?」 「そんなわけないじゃないですか。普通に心配して、ですよ」 「熱はあるけど殴る事くらいは出来るんだよ?」 「ちょ、殴らないで下さい。拳を握り締めないで下さい。」 飲み終わったコップを私から取って笑いながら言うニファ。いやほんとに来てもらって有り難いけどさ。 「はぁ…。馬鹿な事言ってないでもう戻りなよ…」 「そうですね、あまり居座ってもお邪魔でしょうし。戻ります。」 「…いや邪魔って事はないけど…。」 「話の続きはまた今度飲みに行った時にでも聞かせて下さいね。」 「続きなんかねーよ」 「では、失礼します。」 私の言葉をスルーし頭を軽く下げ、出て行こうとする。 「……二ファ、」 それを呼び止めた。 「はい?」 「いや……わざわざありがとう。治ったら酒でも奢るよ。」 「とんでもないです。いつもありがとうございます、楽しみにしてますね。」 そう言って二ファは出て行き、また静かになる部屋。私はバサッと横になって天井を見つめた。 私とリヴァイは周りから見ればそんなふうに見えるのだろうか。私がリヴァイを好きというのも、もしかして皆に知られているのかな。そんなに私は分かりやすいのだろうか。そんなに私は顔に、行動に、出ているのか?だとしたらクソ恥ずかしいんだけど。 あぁ熱い。二ファのせいで熱上がった。 とりあえず汗が気持ち悪いから、持ってきてくれたものに着替えようかな。 |