私、何してるんだっけ…なんか、意識がハッキリしない。息苦しいな。なんだこれ。おかしい。ここ、どこだっけ?私の部屋じゃない…。

瞼を開くと自分の部屋ではない事を感じ、体を起こして部屋を見渡す。するとここが古城のリヴァイの部屋である事が分かった。


「……リヴァイ…」


そうだ。私リヴァイの部屋で、ここでリヴァイと話してて…確かファーランとイザベルの事で私が取り乱しちゃったんだっけ。それからどうしたんだろう…寝ちゃったのか…?ていうかリヴァイ居ないんだけどどこに行ったの?それに何で私はリヴァイのベッド使ってんの?リヴァイはどこで寝たの?まだ完治してないんじゃ……


「てか、あつ……。」


私、めっちゃ汗かいてる。暑い。いや、暑いというより熱い。なんかボーっとするし…何だこれ…おかしい。

ベッドから出てリヴァイを探しに行こうとすれば、体に力が入りにくくてそのまま倒れてしまった。


「ちょ…なに…、だる……」


私、もしかして。いやこれはもしかしなくても。

動けなくてそのまま床でうずくまって体を丸めた。寒い。熱いんだか寒いんだか変な感じ。しかも頭痛い。そういえば今何時なんだろう…あれからどれくらい経った?私こんなところに居ていいのか?本部に戻らないと。ていうか本当にリヴァイはどこ行ったの?

ごちゃごちゃと考えながら目をつぶる。起き上がりたくない。





「っオイ、お前…何してやがる。ナマエ、」


声が聞こえてきて目を開けた。


「……え…、あ……リヴァイ」
「何そんなところで寝てんだ。汚ぇだろうが…」
「……。」


体を起こされ、聞かれる。
えっと、立とうとしたら力が出なくて倒れて、仕方ないからそのまま寝てたんだけど。頭の中で返事をして、言葉にはならなかった。なんだか声を出すのも面倒。


「ちゃんとベッドで寝てろ。」


リヴァイは私の服を軽くはたいてから持ち上げベッドに戻した。


「……や…リヴァイ…」
「あ?」
「今、何時で……私は……」
「……もう夜だ。お前はあれから一日中寝ていた。」
「え……うそ…」
「そして察しの通り、俺の熱が移ってやがる。」
「……ぅわぁ…」
「…自分が熱貰ってたんじゃ、世話ねぇな。」
「……本部には…、」
「本部には伝えておいた。心配するな。それより、薬飲め。」
「……。」


やっぱりこれ熱移っちゃってるのか。何もらっちゃってんの私。あぁもう。やだ。なにこれ。きっつ。


「お前が持ってきたリンゴがある。食うか?」
「…いらない…。」
「剥いてやるから少しはかじれ。」
「………。」


聞いておいて断ったらかじれって何だ。選ぶ権利ないのかよ。
思いながらも、リンゴを剥いてくれるリヴァイをボーッと見つめる。立場が逆転してる。だから食べないといけない事は分かるんだけど。ものすごく怠い。めんどくさい。


「まず水飲め。」
「………」
「……お前、俺には散々やっておいて自分はこれか?分かってんだろ、ちゃんと食え。」
「……。」


黙っていると体を起こされ、水を飲まされる。そしてリンゴも食べさせられる。そして薬も飲まされた。何これ、介護か。


「ほら、寝ろ。」
「……リヴァイは…もう、大丈夫なの」
「…ああ。お前が律儀に熱貰ってくれたからな。」
「…返すわ…」
「いらねぇ。引き取った以上お前が面倒みろ。」
「……」


そういえば確か昔もこんな事あったような気がする。ずっと看病したあとに次は私が倒れて。あれは…いつだっけ。誰だったっけ。

横になって息を吐くと、リヴァイはベッドに腰掛ける。


「言い返さねぇのか」


汗で顔についた髪を横に流しそのまま髪を撫でてくる。


「…そんな、気力…ないんですが」
「らしいな。…ちゃんと看病してやるから、とりあえず寝とけ。」


リヴァイの手は気持ちよくてその言葉を聞き心が安らぐ。寝ている間もずっと側に居てほしいなんて言わないけどせめて起きた時にそこに居てくれたら。そんな勝手な事を思いながら、目を開けているのも面倒になり重い瞼を閉じた。





寝ているナマエを見ていて、時間が経つにつれ息苦しそうにしている事に気づいたのは夜明け頃だった。顔に触れると熱く、俺の熱が移ったんだと分かった。しかし朝になれば俺は本部に行かなければならない。時間になっても目を覚ます様子のなかったナマエを置いて、仕方なく古城を出た。置いて行くのは気が引けたが俺は俺で溜まった仕事をしなければならない。

本部に着くとハンジが駆け寄ってきた。



「リヴァイ!もう大丈夫なの?」
「ああ。」
「リヴァイが熱出すなんて珍しい事もあるんだね」
「悪かったな」
「でも早めに治ったみたいで良かったよ!で、ナマエは?」
「……」
「そろそろ返してもらってもいいかな?お城で十分に独り占めしたんだろ?」
「…アイツは、まだ城だ。」
「え?…なんで?」
「……熱がアイツに移りやがった。俺の部屋で寝てる。」
「は?え、本当に?ナマエも?まじでか」
「薬は俺の残った分を飲ませた。寝てりゃそのうち治るだろう」
「あ、そう……て、いやいや。いやいやいや。リヴァイ?」
「…何だ…」
「何でこっちに連れて来なかったの?向こうじゃナマエ一人になるだろう?何かあったらどうするのさ。」
「……熱出してるってのに、本部まで馬に揺られるのは、可哀想だろうが。」
「いや古城に一人残される方が可哀想だし心細いと思うけど。」
「いいや馬に乗って風にさらされる事の方が可哀想で仕方がねぇ。それにアイツはあれでも兵士だ。何かあっても一人でなんとか出来る。」
「……」
「……」
「…あのさ、リヴァイ」
「…何だ。」
「そりゃあさ、本部に連れてきたんじゃリヴァイは仕事だけで側には居れないとは思うけど。お城に居た方が戻った時にナマエの面倒は看れると思うけれど。だからって病人置いてきちゃダメでしょ。」
「……。」
「それはリヴァイの自己満足だろ?」
「………。」
「まったく…一日中側に居たからって里心でもついちゃったの?らしくない。」
「……うるせぇ。悪いか。」
「え、」


本部に連れてきた方が良かった事は分かってる。その方が人も居るし古城が何かと不便である事は分かっていた。それでも。


「俺の熱が移ったんなら、それは俺の責任だ。なら俺が看てやるべきだろ。」


他の誰かではなく、俺がアイツの側で面倒看たかっただけだ。俺が本部に居る間アイツは一人になっちまうがそれでも仕事を終えてナマエを看るのは俺でいたかった。ナマエの事を考えていない、かなり身勝手な理由だが。


「分かっているとは思うけど…随分と自分勝手な言い分だねぇ…」
「……」
「でもまぁ…仕方ない、かぁ…?うん、分かった。リヴァイがそうしたいのなら今回は何も言わない。だけど、ひどくなるようならすぐ本部に連れて来てくれよ?辛いのはナマエなんだからね。」
「…ああ。」


ハンジは肩を竦めて背中を向ける。


「……。」



ずっと、ナマエは俺を良く思っていないのだと思っていた。二人の事で恨まれていてもおかしくはなかったからだ。それにアイツは調査兵団に残る理由を俺とは関係ないと言っていたし、俺から離れるようにハンジの班を選んだ。だから俺もそれから必要以上には近づこうとはしなかった。

だが昨日の態度でハッキリ分かったが、アイツは…ナマエは、俺を恨んだりしていない。そんなふうに少しでも思った俺が悪かった。もっとちゃんと、話しておくべきだった。知っておくべきだった。ナマエの事を全部、知りたい。
アイツは今でも二人の事をあんな抱え込み方をしていたのかと思うと、胸が苦しくなる。眠れないとか言っていたのもそれに関係していたのかもしれない。未だにあんなに取り乱すなんて。


アイツが苦しんでいるのは、俺のせいだ。
なのに、それでも俺に優しさを与えるナマエの事が、俺は。

多分、ずっと。





「…リヴァイ…、」
「……何だ。」


夜も更けた頃、部屋で書類整理をしていると薬を飲んで眠っていたナマエが俺を呼ぶ。振り返り返事をして側に寄った。


「大丈夫か?」


汗を拭いてやると黙ったまま俺を見つめてくる。何か伝えたいのか分からないが、とりあえずベッドに腰掛ける。


「どうした」
「……リヴァイ…」


少し虚ろな目で、手を伸ばしてくる。それを握ってやると力なく握り返してきた。


「……。」
「…ごめん、ね」
「…ごめん?何がだ?」


自分が倒れた事か?
そう思っているとナマエは擦れた声で言う。


「……ごめん…ずっと…、ごめんね…」


瞳を潤ませながら謝ってくる姿は弱々しくて、なんだか消えてしまいそうに見えた。握っている手に思わず力が入る。


「…お前が謝る必要はないだろ。それよりも…今は何も考えずに寝てろ。」
「………。」


そう言うとゆっくり目を閉じ、涙が一筋こぼれた。それを指で拭う。

ナマエのこんな姿はあまり見た事がない。どっちかというと強がるタイプで、弱いところを周りに見せないようにしている。
そういう奴だと知っていたのに。


握った手をそのままに髪を撫でると、少しだけ表情が和らいでゆっくり呼吸し始めた。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -