「ッリヴァイ!!」


静か過ぎる城を迷惑も考えず駆け抜け、灯りの漏れる部屋のドアを思い切り開けて叫んだ。


「………、」
「って、うわっ!何で脱いでんの!!」


そしてベッドの上で上半身裸のリヴァイの姿が目に入ってきて思わず後ずさる。


「……汗で気持ち悪ぃから着替えてるだけだが」
「……。」


目を見開き私を見て、そう言ったあとにバツが悪そうに顔を逸らす。私はドアを静かに閉めて、中に入った。

ハンジの部屋でお茶していたはずが何故こんな時間にわざわざ古城まで来たのかというと、リヴァイが城に戻ってから熱で倒れたという情報をハンジに聞いたからだ。それを聞いた瞬間私は本部を出て一直線にここへ来た。
今までリヴァイが熱を出して倒れたところなんて見た事がなく、心配すぎて全速力で馬を走らせて来たのだった。

ツカツカと黙って歩み寄り、少し顔が赤いリヴァイの額に手をやる。


「っ何、しやがる、」
「うるさい」


あからさまに動揺するリヴァイを無視し、手に伝わってくる熱を感じる。うん、熱い。リヴァイが熱を出すなんて驚いたけど、人類最強もウイルスには勝てないという事か。

でも顔を見て少し安心した。


「…かして。」


持っているタオルを奪い、汗ばむ背中を拭こうと私もベッドに腰掛ける。黙ってされるがままのリヴァイに少し笑いそうにもなるが、堪える。

しかしこうしてリヴァイの体を見るのなんて何年ぶりか。昔何度も見ていたくせにさっきは思わず乙女みたいな反応をしてしまった。でも少し体つきが変わったように見える。地下に居た頃も引き締まっていたけど更に鍛えられてるような。
いやまぁそりゃあ巨人と戦っているんだから当然か。私の知らない体つきになっていてもおかしくはない。でもそれが、なんとなく寂しく感じる。


「…ナマエ。」


背中を見つめて少しばかり感傷的な気分に勝手になっていると、リヴァイが名前を呼ぶ。


「…なに?」


そのまま手を止め、返事をする。すると少しの沈黙を挟んでから口を開いた。


「…昨日は、悪かった。」


想像通りの言葉が出てきた。
今、どんな顔をしているんだろう。見えない。でもリヴァイだってきっとあんな事を言いたかったわけではないのだ。きっと反省したに違いない。人類最強のしょぼくれた顔を見たいけど、それはやめてあげよう。


「…うん。許してあげても、いいけど」
「……昨日のアレは…俺の、本心じゃない。」
「うん」
「お前が調査兵として前向きにやろうとしてんなら、それでいい。俺がいちいち口出す事じゃねぇ。」
「…なんで?」
「それは…お前が決める事だろう。反対する理由もねぇ」
「…そっか。」


そう言われると、寂しい。そりゃあ誰かにあれこれ言われる筋合いはない。だけど、私が何をしようが関係ないみたいに聞こえるから。


「ねぇ、着替えどこ?出す。」
「……そこだ。」
「ん。」


だがしかし今はそんな感情後回しで、弱っている兵士長さんの看病をしなければ。その為に来たんだから。
着替えを出して渡し、脱いであった方の服を貰う。タオルを濡らしリヴァイを横にしてそれを額に置く。完全に病人だ。そして私はイスをベッドの側まで持ってきてそこに座る。


「…お前、何で来たんだ」
「ハンジからリヴァイが倒れたって聞いて」
「…別に倒れちゃいねぇよ。」
「でも熱出したのなんか初めて見た」
「こんなもん大した事ねぇ。」
「そのわりに辛そうに見えますが」
「…お前、帰らねぇのか」
「なんで?」
「……何しに来たんだよ」
「看病とか?」
「いらねぇ。もう戻れ。」


相変わらずな距離。タオルをずらし瞼を押さえて目も合わせちゃくれない。
ただ心配で、来てはいけませんか。私はいつだってただ側に居たいだけ。いちいち理由がなくちゃダメなんですか。


「…私、リヴァイのそういうところ、嫌いだよ」
「、は…」


そう伝えると、リヴァイは薄く目を開き私を見る。


「そういうとこ、嫌い。」
「……笑顔で言う事なのか、それ」


熱が下がって落ち着いたら、ちゃんと話をしよう。関係ないだとか、どうでもいいだとか、もうそんな言葉はいらない。私もちゃんと本心を伝えるから、リヴァイにもちゃんと思っている事を全部話して欲しい。


「でも安心していいよ。私は病人をほっとけるほど、冷淡な人間じゃないので。」
「……」
「それとも看病するなんて似合わない?向いてない?でも私がどうしようがリヴァイには関係ないもんね?」
「……うるせぇな…嫌味が過ぎるぞ。病人には優しくしろ」
「しかし私はこれでもそれなりに傷ついたので。」
「だから、謝ってるだろうが…」
「…うん。冗談。病人は安静に寝ましょうね。」
「……。」


冗談はこのへんにして、休ませないと。呼吸が少し荒いし汗もかいてる。リヴァイがこうなるくらいだから相当辛いんだろう。


「…おやすみ。」


それ以上何も言わずに黙っているとリヴァイは素直に目をつぶる。そして少しすると寝息が聞こえてきて、眠ったのだと安心する。

それから何をするわけでもなくただ静かにリヴァイを見ながらたまに汗を拭いたりしていると、ドアが遠慮がちにノックされる音が聞こえてきた。



「兵長……?」



振り向くとそこにはドアから顔を覗かせるぺトラが居て、私を見て驚いた顔をする。


「えっナマエさん?来ていたんですか?」
「(しーっ。)」


静かに、と人差し指を口の前に持ってくる。ぺトラはハッとして両手で口を覆う。
リヴァイを見ると気づかず寝ているので、音を立てずに立ち上がりぺトラと部屋を出た。



「ごめんね、勝手にお城に入り込んで」
「え、いやっそんな!出入りは自由ですし!」


別の部屋に移動して話していると、ぺトラが本部で慌てていた事を思い出す。


「そういえばあの時急いでたのって、もしかしてリヴァイのせい?」
「あ、はい。いや兵長のせいっていうか、私が勝手に慌ててただけなんですけど。リヴァイ兵長が熱出す事なんてあるんだと思って驚いてしまって…」
「うん、分かる」
「エルヴィン団長に報告しに行ったのと、薬がなかったのでそれをもらいに…。あの時はすみませんでした。」
「なるほどね。いや、それは気にしなくていい。」
「あの…それで…、兵長は大丈夫そうですか?気になって」
「うん。たぶん大丈夫でしょ。今は少し辛そうだけど…まぁリヴァイだし。寝たら治るよ。」
「そうですか…。でも、ナマエさんが来てくれてきっと兵長も安心したんじゃないでしょうか。」
「…いや、どうだろ。分かんないけど。」
「私達なんかよりもナマエさんが側に居た方がゆっくり眠れると思います」
「……ぺトラ達も、リヴァイにとっては大切な班員、だよ。こうして心配までしてもらって、幸せだと思う。」
「そ、そうですかね…。ありがとうございます。」
「……薬は、もう飲んだの?」
「そのはずです。全部サイドテーブルに置いておきました」
「あ、ほんとに…気づかなかった。」
「団長は、明日一日は安静にしてあとは兵長自身に任せると言っていました」
「そっか。分かった。ありがとうぺトラ」
「いえ…」
「リヴァイは私に任せて、気にせずもう寝た方がいい。遅いし」
「はい、すみません…お願いします。」


ぺトラはぺこりと頭を下げて自分の部屋へと戻って行く。
良く出来た部下だ。リヴァイのこと尊敬しているんだろう事が伝わってきて、なんだか嬉しくなる。

息を吐き、私も部屋に戻る事にして静かに廊下を歩き出した。



「……あれ、リヴァイ、」


部屋に入るとリヴァイが体を起こしていて、ぼんやりとした瞳と目が合う。


「……」
「何で起きてんの。寝てろよ」
「…てめぇ…」
「え?なに?」
「……どこ、行ってやがった…」
「は…?」


少し擦れた声で眉間にシワを寄せる病人。
タオルが床に落ちていて、それを拾ってリヴァイの前に立った。


「なに?」
「帰ったかと、思ったじゃねぇか……」
「え……」


拗ねたようにそう言ったかと思えば、バサッと横になって私に背中を向ける。


「……。」


これは、どういう状況だ?
もしかして目が覚めて私が居なかったから不安にでもなったのか?


「…あ……リ、リヴァイ。タオル、これ…ちゃんと、やった方が、」
「……邪魔くせぇ」
「いや…でも、熱いでしょ、これやっておいた方が…」


動揺してしまう。どうしよう、さっきのリヴァイ何。不覚にも可愛いとか思ってしまった。もしかして熱でおかしくなったのか。


「いらねぇ。」
「……そ、そうですか」


いらないと言われたタオルを水で洗い、置いておく。
チラリとリヴァイを見てみると向こうを向いたまま。側に寄り、話しかけてみる。


「あの、リヴァイ」
「……なんだ」
「…私、朝までここに居るから、…その、ちゃんと居るから。」
「……」
「ゆっくり、寝て。」


イスに座りそう伝える。こういう時って、確かに寂しくなったりするものだ。人類最強の兵士長でもそれは同じなのだろう。


「…あぁ。」


小さな返事が聞こえて私の胸は音を立てる。
こんなにも弱々しい姿はなかなか見られるものじゃない。膝の上で拳をきゅっと握り、ずっとここに居ようと決めた。


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