自分の部屋のドアを思い切り閉め、そのままそこに背中を預ける。


「……っ、」


爪が食い込むくらい拳を握り締めてそれを強く壁に打ち付けた。

痛い。


「… 意味、分かんない…っ」


調査兵で居る事を否定された。それがすごく、悲しい。
だってこの前は新兵との事応援してくれたのに。なのに何でいきなりあんなこと言うの?意味が分からない。まるで私が調査兵である事が滑稽だとでも言うように。
その上あれだけ言ったあとに関係ない、だと?だったらほっとけよ。口出すんじゃねぇよ。何がしたいんだ。


「…クソッ、!」


悲しい。ムカつく。寂しい。イライラする。いろんな感情が混ざって頭の中が混乱している。
しかも人がせっかく前向きに頑張ろうとしている時にあんな事言うなんて。タイミング最高すぎるだろ。ふざけんな。

それにあの口ぶり。私の事なんて、どうでもいい、みたいな。


「……。」


私は、過去も今も間違いも負い目も全部全部ひっくるめてその上でリヴァイの側に居たいと思った。身勝手でも、ずるくても。
リヴァイの事はずっとずっと揺るがず想ってきた。でもそれは私の気持ちでリヴァイがどう思っているのかなんてそんなのは正直分からない。でも、今でも私を想っていてくれたら、その想いはひとつになる事が出来る。私の想いとリヴァイの想いを重ねてひとつに。そしてそれだけを願ってきた。
リヴァイは私にファーランとイザベルの事で負い目を感じているから距離を置いているのだと、そう思っていた。だから気持ちは今もあの頃から変わっていないと。そうであってほしいと。

私が今も彼を好きなように、リヴァイも私を好きだと。


「そうじゃ…ないの…?」


ダメだ。分からない。とてもじゃないが今は冷静に何かを考えられる状態じゃない。
落ち着かない心を無視して、ベッドに身を投げた。





「……、」


朝日が顔にかかり、目を覚ます。
あのまま目をつぶっていたらいつの間にか眠っていた。

落ち着かないままだった心は今は少し落ち着いている。
しかし、気分が悪い。何もやる気にならない。起きるのさえ面倒に思える。こんな時に限って嫌な夢は見てしまう。まぁなんだかんだで最近もちょくちょく夢にうなされてはいたけど。でも今日のはリヴァイに散々言われる夢だった。思い出すとムカついてくる。夢でまでいろいろ言ってくるなんてあのチビは私を不眠症にでもしたいのか。まったくふざけた兵士長である。

でも、昨日はいきなりいろいろ言われてショックだったけど冷静になってみると、リヴァイは意味もなくあんな事を言うようなヤツじゃない。きっと何かあったか、それかただ単にストレスとかでイライラしてたとか?まぁ分からないけどそんなところだろう。
だからって私にぶつけられても困るのだけど。そのおかげで私は今日立ち上がる気力がない。本心じゃないにしてもあんなふうに言われると精神的にくる。しかもそれがリヴァイだから尚更だ。今でも悲しいのは変わらない。


「…はー…。」


私はただ、昔みたいにリヴァイと居たくてそれだけなのに。素直にこの気持ちを分かち合えたらそれだけで良いのに。ほしくてほしくて、たまらない。でも思えば思うほど、それは遠くなるような気がする。
考えてみれば調査兵になってから私達は本当の深いところにある言葉で話した事があるだろうか。お互い勝手に自己完結して、一定の距離を保ち過ごしてきた。

それが、いけなかったのかな。

私はリヴァイを傷つけたくなかった。自分を責めてほしくなかった。私を重荷に感じさせたくなかった。だから何一つ伝えなかった。でも、そういうのを避けては通れない道に居たのかもしれない。いや、通らなければいけなかったんだ。私も、リヴァイも。
だって、そうしないと本当のところで繋がれないんじゃないだろうか。

私達はもっと、ちゃんと、話すべきだったんだ。


「……、」


体を起こし、ベッドから下りる。手を伸ばし深呼吸すると、さっきまでの気分が嘘のように体が軽かった。いや、心か。


「…よしっ。」


少しは気持ちが整理できた気がする。

とりあえず今日も一日調査兵として頑張ろう。クソチビ兵士長の事は今は置いといて、仕事が先だ。それに少しは一人で反省してもらいたい。あんな理不尽で一方的な言葉と態度は、改まってほしいものだ。
こっちから話しかけるのもなんだか癪だし、ここは向こうから何か言われるまで黙っておこう。これは素直になれないとかではなく、普通にムカつくからだ。

そう決めたところで気持ちを切り替え、一日の予定を思い出しながら昨日のままだった服を着替えようとベルトに手を掛けた。







「す、すみません!急いでたもので…!」


仕事をほぼ終わらせ先に夕食を食べてしまおうと廊下を歩いていると、曲がり角でぺトラとぶつかった。


「いや、大丈夫だけど…ぺトラは平気?」
「はい!すみません、失礼します!」
「え、あ、……何だったんだ」


ぺトラは焦った様子でまた走って行き、慌ただしくその背中は見えなくなった。


「…てか、城に戻ったんじゃなかったの?」


確かリヴァイ達はすでに城に戻っていたような気がしたんだけど。
もしかして何かあったのかな。エレンが暴走したとか?…聞けばよかった。いや実際はそんな暇なかったんだけど。

今日は一日リヴァイと話す事なく過ぎた。元から見かける事はあっても毎日顔を合わすわけでもなかったからおかしな事じゃない。特にリヴァイが古城に移ってからは。
…まぁもし何かあったんだったらいずれ私の耳にも入るだろう。ぺトラの事は気にしない事にしてそれから夕食を済まし、残りの仕事を終わらせた。

そして本部も静かになり、夜も深くなった。部屋で一人本を読んでいるとお茶が飲みたくなってきて、なんとなく思いついたハンジの部屋に向かう事にした。
どうせ起きているだろうと特に気にせず歩いているとハンジの部屋に着き、何も言わずそのままドアノブを捻った。



「……ん? あぁ、ナマエか。どうしたの?」


やはり起きていたハンジはまだ仕事中だったのか机に向かっていた。そして振り返り私を見る。


「……いや、喉が渇いて。」
「……。お茶でも飲む?」
「うん」
「入りなよ。待ってね今淹れる」
「いいよ私が淹れるから。」
「あ、いいの?」
「仕事中でしょ」
「…あぁ、まぁでもそろそろ休憩しようと思っていたから。ちょうど良かったよ」


ハンジが立とうとするのを制して、部屋に入りカップに手を伸ばす。こんな時間でも仕事の邪魔をしてはいけない。まぁお茶に誘ってる時点で邪魔しているのだが。

(…リヴァイもまだ、仕事しているんだろうな。こんな時間まで。)


「…はい。どうぞ」
「ありがと」


ハンジの前にカップを置き、私もイスに腰掛ける。


「良い香りだ。沁みるなぁ」
「大袈裟だよ」
「いやいやナマエも淹れるのうまいだろ?好きだよ、私は。ナマエの紅茶。」
「…あっそ…。」


微笑むハンジから目を逸らしカップに口をつける。そしてやっぱりリヴァイが淹れるお茶の方がおいしいと感じた。ついでにお茶を断られた事も思い出し、少し胸が寂しくなる。


「あ、そういえば」
「…なに」


二口ほど紅茶を流し込み、何かを思い出したようにハンジが言う。


「リヴァイ、倒れたらしい。」


「………、は ?」


そして予想もしなかった言葉に私の思考は一度止まり、大きな音を立ててソーサーにカップが置かれた。


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