『なぁナマエ』 『なに?』 『お前、リヴァイと出会ってから変わったよなぁ』 『……は?』 『なんつーか、前よりも生き生きしてる。』 『…何、それ。気のせいじゃない』 『だってお前…リヴァイに惚れてんだろ?』 『んなっ…?!』 『…図星か。』 『はっ…、何、っそれ…、意味、わか……っ、』 『ははっ…ナマエ、顔赤いぞ』 『……っあか、ああぁ赤くねーよふざけんな!!』 『うわっ、殴るなよ』 『ファーランが変な事言うからだろ!!』 『別に変な事じゃねぇだろ』 『変だよ!ありえねーよ!ふざけるなよ!』 『必死だなぁ…』 『っ…!』 『まぁ落ち着けって。』 『…クッ…腹立たしい……スカした面しやがって……。』 『いやしかし良かったじゃねぇか。お前俺と出会った頃は目とか死んでたし』 『……。』 『俺は嬉しいよ。』 『……分かった。』 『ん?』 『…ファーラン、妬いてるんだ』 『…は?』 『妬いてるんでしょ!』 『…はぁ?』 『私がリヴァイに惚れたからって妬いてるんでしょ!!』 『……何言ってんだお前。しかも今惚れたこと認めたか?』 『確かに私はリヴァイに惚れた。それに私はファーランの言う通り前は死んだ目とかしてたと思うし生きる意味もなかった。』 『急にどうした』 『リヴァイに出会って…これからも生きたいって初めて思った。でも、それはリヴァイだけじゃなくて……私は、その、ファーランと居るようになってからだって……』 『……』 『私は……っだから、なんというか、』 『…悪かったよ。分かったからそんな真剣に返すなよ。』 『な、何それっ、』 『…ふは、いきなり恥ずかしいやつだなぁ』 『わっ笑うな馬鹿!』 『悪い悪い。でもナマエの言いたい事はちゃんと分かったから。』 『…う、うるさい…。』 『……でも、そんな事言ってもお前はリヴァイの為に俺らを忘れようとしてるよな。』 『…え、なに?』 『俺らの事なんてどうでもよかったんだな。』 『な……な、に』 『あの時だって、お前が仕留め損ねた巨人のせいでイザベルが死んだ。』 『…っそ、れ は……、』 『俺らが死んでもリヴァイが居れば良いんだもんな。』 『ち、ちが……』 『だから忘れようとしてるんだろ?俺とイザベルは…死んでもよかったって事なんだろ。』 「っ違う、!!」 私がファーランと出会ったのはリヴァイに会う前の事だった。私にとっては初めて出来た仲間というもので、初めて心を許した相手でもあった。ファーランは頭が良くて冷静で、私の中では兄さんみたいなポジションに居たと思う。信頼していたし、一緒に居て心が安らいだ。 胸の苦しみを感じながら目を覚ますと暗い空が広がっていて、静かで何の音もしない。誰も居ない。 「ハァっ…ッハ、……ん、っく…。」 いつの間にか眠ってしまっていたようでまた夢を見た。最近、ずっとファーランとイザベルに責められる夢ばかり見る。前に進む為に過去を忘れようと決めてから毎日二人が夢に出てくるようになった。 「……クソっ、」 滲んでる涙を拭いて、起き上がった。あれからどのくらい経ったのか、もうすっかり夜になっている。あんなに寝たのにまた眠ってしまうなんて。 「……ナマエ?」 「っ、!」 いきなり後ろから声が聞こえ、驚いて肩がビクつく。振り向くとそこには。 「ど、どうしたの?大丈夫?」 「……ハ、ハンジ、」 そこには灯りを持ったハンジが立っていた。 「こんなところで何してるのさ」 「……寝 て、た。」 「また?遅くまで寝てたとモブリットに聞いたけど」 「あぁ…うん…いつの間にか、寝てた…。」 「……ナマエ、泣いてるの?」 「、っえ、な、泣いて 、ない。」 思わず顔を逸らした。泣いてはいないはずだけど…でもまだ心臓が落ち着いていない。呼吸が少し、しずらい。 ハンジは私を探しに来たのだろうか。じゃなきゃこんなとこまで来ないはず。もう夜だしもしかしたら心配させてしまったのかもしれない。 「……そろそろ帰ろう?冷えてしまう。」 ハンジは私に手を伸ばし、帰ろうと言う。 (…帰る?) ファーランと出会って私は初めて安心できる場所を見つけた。最初は戸惑ったけど、慣れてくるとそれはだんだん居心地のいいものになっていった。あの頃、帰る場所があるとしたらそれはリヴァイでも他の誰でもなくファーランのところだったと思う。そのくらい私はファーランという存在が精神的な拠り所だったと思う。 だけど今はもう、なくなってしまった。 でも、きっと私の帰る場所はまた新たに増えた。そこにはリヴァイが居て、私を気にかけてくれるハンジやモブリット…それに苦手な上司、そして話しかけてくれる後輩が居る。 ファーランとイザベルは、もう居ない。過去のこと。それは揺るがない現実だ。 “忘れようとしてるんだろ?” 夢で言われた言葉が突き刺さる。 最近ずっと忘れようとしていたけど、そもそも何で私は忘れようとしているんだろう。何で、忘れないといけないんだろう。前に進む為に過去を忘れる、なんて…そんなの、なんか、違う気がする。 過去がないと今の私だって居ないんだ。なのに何で私はそれを忘れようとしていたんだろう。二人の事、忘れられるわけないのに。大好きだったのに。今だって。 「……、」 私は、勘違いをしていた。 前に進むという事は何も過去を忘れろというわけじゃない。というか、忘れちゃいけないんだ。二人が居た事、大事な存在だった事…全部全部大切な思い出。私が生きてきた証拠。 そう思うと少しずつ心が落ち着いてきて、ハンジの手をゆっくり掴み立ち上がる。 「あぁほら…冷えてるじゃないか。戻ったらお茶でも淹れよう。リヴァイのじゃなくて申し訳ないけど」 私の居場所は、調査兵団になった。 「……別に、リヴァイのが一番美味しいだけで…他のだってちゃんと飲む」 「そう?なら良かった」 リヴァイが居ればどこだっていい。地下だろうが調査兵団だろうがそこにリヴァイさえ居れば何だっていい。 でも、今私が居るのは調査兵団という馬鹿な連中が居るところだ。私の、居場所。リヴァイの居る場所。 「……ハンジ、」 「ん、なに?」 「………ありがと…。」 「……え?」 イザベルとファーランの代わりは居ない。二人の事を思い出すと、今でも痛くて辛い。でもそれは二人が生きていた証だ。それなら私は、その痛みも愛そう。 そして、私は生きる。リヴァイと、調査兵団で。今も壁の中の人類なんてどうだっていい。心臓を捧げるなんて馬鹿らしい事はしない。だけど、調査兵団に居るやつらの事は、大事…かもしれない。だから、私は調査兵団の役に立とう。 「な、何何…どうしたのナマエ…いきなり…」 「…別に。」 「ナマエらしくない…」 「…うるさいな…」 「いや…でも…大丈夫?何かあったの?変なものでも食べた?」 「何でもねーよクソメガネ。」 「……あっ。もしかしてモブリットに抱きついたところをリヴァイに見られた事がショック過ぎておかしくなっちゃったの?」 「…その事には触れるな馬鹿」 「やっぱりナマエも酔っていたとはいえモブリットとよろしくやってたシーンを想い人に見られたらそりゃあねぇ…。あ、でもあの時のナマエ可愛かったよ!素直で。私にもすり寄ってきてさぁ」 「……死ね。」 ふと風が吹き、つられて空を見上げると綺麗な星が見えた。 いつか四人で見上げた星空。星はいつだって綺麗だけど、あれよりも綺麗な星は見えた事がない。でも、今日の星空はなんだか澄み切っている。 「……、」 ごちゃごちゃとうるさいハンジを無視して、一歩踏み出した。 |