「ナマエさん、大丈夫ですか…」
「…あ、?なに?」
「だから、大丈夫ですか?」
「…多分。」
「顔色悪いですけど…。やはり飲んでる場合ではないのでは」
「飲みたいんだから、仕方ない。」
「……。」


やめた方がいいと言うモブリットを無理やり連れ出して飲みに来た。顔色が悪いというのはやっぱりろくに眠れていないからだと思う。というか絶対にそのせいだ。


「酒でも飲んだら、ぐっすり眠れるでしょ…たぶん」
「…まだ眠れていないんですか」
「ご覧の通りだよ。」
「確かにひどい顔してますね。」
「なんかそれ癪に障る言い方だな」
「いや何でですか…疲れた顔してるって意味ですよ」
「でも最近、新兵にまでも言われるようになってきた。」
「いよいよですね…。」


酒を一気に飲み干し、四杯目を頼む。するといつもよりペースが早いと怒られた。


「倒れますよ」
「そしたらモブリットが介抱してくれるでしょ?」
「嫌ですよ…」
「嫌なのかよ。」


私は明日休日なのだ。だから飲みまくって倒れても迷惑はかけない。その場合モブリットにだけは迷惑かけてしまうけど。


「ナマエさん一人だけが酔うのは面倒ですね。」
「いつも酔う時一緒だもんね。じゃあモブリットも飲め飲め!酔っちまえばいいじゃん。」
「いいですよ…俺明日仕事ありますし」
「そっか。じゃあ私の介抱よろしくね。」
「…ハァ。」


嫌そうなモブリットに親指を立てて、四杯目を飲み干す。


「ぷはっ……、もう一杯っ!」
「だからペースが早すぎます!!」





「ナマエさん…ナマエさんっ、」


案の定、あれからナマエさんはお酒をガンガン飲んで酔い潰れた。


「……んー…。」
「ダメだ…起きない…。」


こうなる事は予想していたけど実際なると困ってしまう。しかし最近あまり眠れていないようだったから、こうする事で眠れるのであればこれはこれで良いのか。

仕方ないのでとりあえずお金を払いナマエさんをおぶって店をあとにした。


「……でも、何で眠れないんだろうか…。」


知ってはいたけどなんとなく深くは聞けずにいる。ナマエさんは愚痴とかはたまにこぼすが自分の事をあまり話さない。調査兵団に居ること自体もあまり乗り気ではなさそうだし何かと訳ありっぽいというか。
リヴァイ兵長が好きなんだろうなくらいの事しか分からない。きっと調査兵をやっているのもそれが理由なんだろうけど。過去に何があったのかとかは、知らない。何でリヴァイ兵長と微妙な距離感なのかとかも。


「……う、っ…」
「…ナマエさん?」


背中のナマエさんが小さく声を漏らした。歩くのをやめて顔を少し覗かせる。


「大丈夫ですか?」
「……きもちわるい…」
「っえ、吐かないで下さいよ?というか言って下さいよ?吐くなら言って下さいよ?下ろしますから」
「…うー…ん。」
「……。」


かなり気分が悪そうだ。そりゃあんだけ飲めばそうだろうけど。体調も良くないのに。

そのまま黙ってしまい少し止まっていると落ち着いたみたいで、それを確認してからまたゆっくり歩き出した。





「ナマエが飲みたいって言うから、仕方ないのでモブリットを貸してあげたよ。」
「そりゃ何の報告だ」
「いや気になるかなって思って。」
「…お前、喧嘩売ってんのか?」
「ぜんぜん。」


エレンの巨人化の能力やこれからの実験の方向性について話していると遅くなってしまい、リヴァイが古城へ戻る前にナマエがモブリットと飲みに出掛けた事を教える。
関係ないとか知らないだとか言って距離を置いてるけど、リヴァイだってナマエの事が気になってるはずなんだ。

ナマエが睡眠不足で疲れた顔をし始めたのは、確か変わると言い出してからだったと思う。多分あれからあまり眠れていない。自分が弱いからリヴァイも変われないのだと、自分を変えようとしているなんて。なんと健気な。



「あ、ちょっ…やめて下さいよ、何してるんですかっ、」



私はというとこれからソニーとビーンの様子でも見に行こうかと、リヴァイと外に出ようとしていたところだった。すると物陰から声が聞こえて反射的にそっちを見ると、モブリットが誰かと抱き合っているのが目に入ってきた。



「誰かに見られたらどうするんですか…、」

「「………」」


こちらに気づかないモブリットに、私達の足は止まる。そして。


「…やだモブリットのラブシーン見ちゃったどうしよ!!!」
「エッ分隊長!?」
「リヴァイ!!モブリットが人目も憚らず抱き合ってるよ!!」
「…てめぇは部下の色恋沙汰にまで口出しするのか?」
「ひっリヴァイ兵長までっ!?」
「いやモブリットって意外と大胆だったんだなって驚いて!!」
「違いますよ!酔ってるんですって!」
「酔って本性出したって事!?モブリットってば実は強引だったんだ!!」
「違いますって!!!」


あれ?でもモブリットはナマエと飲みに行ってたんじゃなかったっけ?部下のラブシーンに興奮して頭になかったけど、ナマエはどうしたの?


「うー、モブリットぉ……」
「え?」


ん?おかしいな。今、ナマエの声が聞こえたんだけどどこに居るの?
チラリと隣のリヴァイの様子を窺うと二人を見て固まっている。


「ナマエさんいい加減離れて下さい!!めっちゃ見られてます!!」
「……」


目の前でナマエとモブリットが抱き合ってる。

いやどう考えても分かる事なんだけど。モブリットとナマエが飲みに行って、帰り道に抱き合ってる二人の影。モブリットと誰か。誰か?そんなの、ナマエしか居ないじゃないか。ナマエと出掛けたんだから、普通に考えればすぐ分かる事だ。だけどその光景はあまりにも不自然で…そう、ナマエが誰かと抱き合っているだなんて。しかもそれがリヴァイなら未だしも他の人だなんて、不自然すぎて考えられなかった。
暗くてよく見えなかったし、それは多分リヴァイも同じ。


「……。」
「…あっちょっ、リヴァイ?!」


黙ったまままた歩き出すリヴァイを呼び止めようと名前を呼ぶ。けどリヴァイは振り返る事も止まる事もなくそのまま行ってしまった。


「……」
「あ、あのっハンジさん、違うんですよこれはっ」
「…え?」
「いやだからナマエさんは酔っていてっ、」
「あぁ…そんなこと。」
「そんなこと!?」
「いや…そんなの言わなくても分かるよ。」
「だったらリヴァイ兵長にも説明して下さい!!」
「…リヴァイも分かってるでしょ?多分。」
「多分って……困ります……」
「もぶりっとぉ……。」
「だからあんたはいつまでくっついて…!!」


冷静になって見てみると抱き合ってるというかナマエがモブリットに抱きついてるだけだ。まぁそれだけでもリヴァイには十分衝撃だろうけど。


「何?ナマエどうしたの」
「い、いや…気持ち悪いって言うんで下ろして背中さすってたんですけど…少しすると落ち着いたみたいで、でも立ち上がったら倒れそうになったので受け止めたらそのまま…抱きついてきて……この有り様です。」
「…ふむ。」
「どうにかして下さい…」
「うぅー…。」
「…困った甘えん坊だねこりゃ。」


焦るモブリットから、ゆっくりとナマエを離す。半分意識のないナマエは次は私にもたれかかってくる。…なんか可愛いな。


「んっ…、」
「ハァ…、すみません分隊長。」
「別に君が謝る事じゃないだろう?…それにしてもなんだかナマエ可愛いね。このまま私が持ち帰ろうかな。いいかな?」
「ダメですよ何言ってるんですか。」
「だってこの子いつも私に辛辣だからさ… ほら見てよ!すり寄ってきてる!見てくれモブリット!ナマエが私に!」
「わ、分かりましたからそんなに興奮しないで下さい…ナマエさん体調優れないんですから…」
「あ、そうか…そうだったね。仕方ない、このまま部屋に帰すか。」
「当たり前です。…しかし、リヴァイ兵長は誤解してないでしょうか」
「んー、大丈夫じゃない?」
「軽いですね…」
「ははっ、これくらいの事がないとリヴァイも動き出さなそうだったしちょうど良かったのかもよ。」
「……リヴァイ…?」


ナマエをおぶり部屋に向かって歩いているとナマエはリヴァイの名前に反応をみせる。


「ん?」
「……」
「…寝てますね。」
「…無意識か。」


しかしナマエみたいな女が、酔ったからといってこんなふうに抱きついて人に甘えるなんて珍しい。人肌が恋しいのか寂しいのか。
これからどうなるか少し心配だけど、二人がどんなふうになるのか楽しみでもある。


「とりあえずモブリット、リヴァイに削がれるかもね。」
「そ、それは勘弁して欲しいです…!!」


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