「いいかナマエ、今回は絶対に負傷するんじゃねぇぞ」
「了解、わかった」
「無茶はするな。いいな」
「おっけー」
「分かってねえだろ。お前。」
「分かってるって!心配しなくていいよ」
「心配してるわけじゃねえ」
「お、ツンデレかな?」


壁外調査の前、リヴァイはとても口うるさい。





「やっべドジッた。体中が痛い。死にそう」


大怪我しました。壁外から戻ってきてからの記憶がなく気がつけば医務室のベッドの上で包帯ぐるぐるで動けません。わりとつらい。

ふとリヴァイのことが頭に浮かんで、またいろいろと言われてしまうなあと思う。するとちょうど彼が医務室に入ってきた気配を感じて、体をうまく動かせないながらもなんとなく顔をそちらへと向け笑顔を作る。


「オイ……何やってんだ」
「あ、リヴァイ。おはよう。いやあ今日もすこぶる調子がいいなぁ」
「うるせえ。何があった」
「えーっと部下が巨人に食べられそうになってて助けられるかもしれないと思って突っ込んだらこうなった。ちなみに部下は助かった」
「無茶はするなと言っただろうが。」
「でも部下も無事だったし。しかもわたしより軽傷。ほんと良かったとおもう」
「てめぇその死にかけの体で喜んでんじゃねえよ」
「でもわたしもギリ生きてるし」
「助けられるもんを助けるなとは言わねぇ。だがお前に死なれたら困る」
「えっと付き合う?」
「違う。兵団の戦力としての話だ。」
「でも目の前で仲間が助けてーって言ってたらどんな状況でも助けに行っちゃうよね。」
「そんなに死にてぇのかてめぇは」
「別に死にたくはないよ。助けたいだけ」
「お前には理性が足りなさすぎる。」
「わたし頭で考えたりとか出来ないもん。つい体が動いちゃう」
「いつか本当に死ぬぞ」
「人間いつか死ぬものだよ」
「くだらねえこと言うな。いつか死ぬもんだとしても、それは今じゃねえだろ」
「そんなにわたしに死んでほしくないの」
「……仲間に死んでほしいと思うような奴が、いるのか」
「いないね。」
「なら聞くな」
「だからわたしは助けに行くんだよ」
「お前は明らかに助からねぇ時も突っ込んで行くじゃねえか」
「そんなの助けてみないと分からないじゃないか」
「いいや分かる。見た瞬間、間に合うかどうかはその一瞬で分かる。」
「はい先生。分かる分からないの前に体が動いてしまう場合は?」
「死ね」
「ひっどい」
「てめぇも昨日今日兵士になったわけじゃねえんだから分かるだろう」
「分からないよ。」
「お前は毎度そうやって突っ込んで行くが、ほとんどが助かってねえ。今回のはたまたまだ。そしてお前が毎回怪我だけで済んでんのも運がいいだけだ。次はどうなるか分からねぇ。次はてめぇも部下もどっちも仲良く巨人の口の中だ。」
「さっきからすごいいじわる言うね」
「お前の物分りが悪ぃからだろうが」
「でもさあ、確かにわたしの力不足でほとんどの兵士を助けられていないけど、でも今回ひとり助けられたよ。それだけでわたしはじゅうぶん意味があると思う」
「それはお前の力不足じゃねぇ。どんなに優秀な兵士だったとしても全ての命を守れるわけじゃない。俺が言ってんのは判断力を身につけろってことだ。」
「……リヴァイが言ってることは分かるけど、でも難しいんだよなあ」
「てめぇの聞き訳がいいのは壁外に出る前だけだな」
「わたしだって毎回怪我しようとか無茶しようなんて思ってないもん。」
「だったらするなよ。」
「でも実際そうもいかないんだな」
「俺への嫌がらせか?」
「だとしたら随分と手の込んだ嫌がらせだよね。わたし体張りすぎでしょ」
「このままだとお前はそのうち必ず命を落とす」
「えー言い切らないでほしい」
「お前はこれまで本当に運が良かっただけだ。仲間を助けようとして死んじまった奴らだって大勢いる。知ってるだろ」
「知ってる、けど」
「ならちゃんと見極めろ。一瞬で判断しろ。誰一人死なねえのが理想だが、それでも死者は出る。助けを乞う全ての人間を助けるのは無理だ。そのせいでお前が負傷してろくに動けなくなっちまえばそのあとにも支障が出る。感情を抑えちゃんとその先のことまで見据えて行動をしろ。」
「……ごもっともです」
「何度同じ話をすれば気が済むんだ」
「そうだね。壁外調査のあとっていつも同じ話してる気がする。」
「誰のせいだ」
「わたしです。すまないと思ってるんだよ。これでも」
「なら全く行動に表れないのはなぜなんだ」
「ね。」
「死ぬまで直さねぇつもりか」
「そうなのかも」
「ふざけるなよ。」
「でもわたしの命はわたしのものだから。」
「てめぇの心臓は人類の為に捧げてんじゃねえのか」
「そうだった」
「だったらもっと兵団に尽くせ。怪我ばっかしてんじゃねぇ。お前は大事な戦力なんだよ」
「……」
「返事は」
「……たぶん、無理」
「あ?」
「こうなったらもうぶっちゃけちゃうけど、リヴァイもうすうす分かってるでしょ?たぶんこれ、本格的に直らないよ。わたし自信ない。いつもいつもリヴァイに同じこと言わせて申し訳ないとも思ってる。だけど、体が動いちゃうの。気がついたらアンカー出してそっちに向かってる。気がついたら怪我してる。気がついたら、助けようとした仲間が、死んでる。ぜんぶ一瞬のこと。悲鳴が聞こえてからあっという間……気づいたときにはもう、何もかも終わってる」
「……」
「きっとそうやって、リヴァイの言う通り、そのうちわたしも死ぬのかもね」
「──…、」
「でもその時誰かを助けられたのなら、それでいいかな」
「……よくねえよ。淡々と、死ぬとかほざいてんじゃねえ」
「わたしが死んだらリヴァイ悲しむ?」
「恨む。」
「恨むんかい」
「一生を賭けて呪う」
「ええ、わたし死んでもなお呪われちゃうの。それはちょっと嫌かもな」
「だったら死ぬな。お前が死ななきゃそれで済む話だ」
「そりゃそれが一番だけどね。リヴァイにそんな思いさせたくないし」
「…させたくねぇなら、させるな」
「でも、だけど。だから、なるべく苦しまないでほしいなぁ。死ぬことがあるならそれはわたしの我儘だもん。わたしがわたしの我を通した結果だから」
「てめぇは、無茶ばかり言いやがる」
「……そうだね。兵士としての覚悟が足りてないんだ、わたし」
「だが、それなら……俺も、同じだ」
「え?」
「戦力──なんて関係ねぇ。そんなもんは建前で、ただ俺がお前を失いたくねえだけだ。」
「……え、」
「お前が目の前の兵士を切り捨てられねぇのと同じで俺はお前を失う覚悟が出来てねえんだよ。だからあれこれ理由つけてどうにか死なねぇように促そうとしてるだけだ…」
「………えっと」
「……。」
「つ、付き合う?」
「うるせえ。」
「そんなこと言われたら死ににくいじゃん」
「そりゃあいい。」
「そんなのズルイ」
「知るか。少しでも長生きしやがれ。俺よりも長く生きろ」
「リヴァイよりも長く生きるとか……難しそ」
「少しでも早く死んだら許さねぇし、恨むし呪うぜ」
「うわ、踏んだり蹴ったりだなぁ」
「それが嫌なら長く生きることだ。とりあえずは早いとこ怪我治せ。見ていて腹立たしい。」
「え、痛々しいとかでなくて?」
「ああ。そんな馬鹿みてえな大怪我負いやがって腹立たしい」
「まじか。そっか。わかった。はやく治します」


大怪我真っ最中のわたしはこうして少し話をしているだけでも体力が必要以上に奪われて、額に汗が滲む。短く息を吐けば、リヴァイは自分のハンカチを取り出しそれでそっと汗を拭いてくれた。

このタイミングでそういうことをされるとまるで大事にされているみたいでなんだか気恥ずかしい。
失いたくないという彼の言葉が胸に響く。

わたしは、暫くは死ねないな、とそっと思った。


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