リヴァイと何かを話す気にはなれず黙ったまま隣を歩いた。だから電車から降りて駅から家までの道のりも特に何も話さなかった。だけど、暫くすると急に腕を掴まれ私は足を止めた。 「…えっ、どうしたの」 「……」 リヴァイの方に振り向くと、なぜか足を止めたまま横道の坂の方を見ていた。 「リヴァイ?」 「……来い。」 「っえ、うわ、ちょっと、」 そのまま腕を引っ張られ横道の方へと逸れて行く。いやいきなりどうしたの。そっちには公園しかないよ。 そんなことを思いながらも黙ってついて行けばやっぱり公園に着き、そのまま中へと入った。相変わらず腕を引っ張られたままブランコの方まで連れて行かれ、そして手が離れたかと思えば次はブランコに一人座らせられる。 持ち手の鎖を両手で掴み目の前に立つリヴァイをちらりと見上げると、ようやく口を開いた。 「…このままお前を帰したらエルヴィンにドヤされちまう」 「……、え」 「てめぇはいつまでそんなシケた面してんだよ。」 「……」 「思ってることがあるなら言え」 黙ったままの私に痺れを切らしたのか少しだけ不機嫌そうにそう言われ、思わず唇をきゅっと閉じる。 ──私は。 「……」 「……」 「……」 「……」 「……オイ。ナマエ」 「っ……」 「何か言えよ……」 「……うッ……っ」 「── 、」 ぎゅっと鎖を握り俯く。 あの時リヴァイが言ったことを思い出し口にしようとすれば言葉より先に涙が出てきた。 だって私は、悲しかったんだ。 「っう、ううぅ〜……っ」 「いやお前……何で……泣くほどかよ」 「だってっ、……だって!リヴァイが悪いんだあぁ〜……!」 「だから謝っただろうが……」 「っそういうことじゃない!」 「何なんだよ」 ポロポロと涙を流す私に呆れ顔になりながらもリヴァイはその場にしゃがみ顔を覗き込みながら涙を拭ってくれた。 「泣くなよバカ」 「っわたしは別にっ、あの時のこと謝ってほしいわけじゃないっ、」 「じゃあ何を謝ればいいんだ」 「ちがうっ、謝るとかそういうことじゃなくってっ、」 「……」 「っわたしは、リヴァイがあんな言い方したのが、それが悲し、かった、」 「……あ?」 「だってぜったい、そんなふうに思ってないもん、リヴァイだって、なのに」 「……。悪いが何を言ってるのか全く分からん。」 「っだからぁ〜……!!」 ──つまり。 私はあの時、リヴァイが「何て答えようが相手にとっちゃ同じことだろうが、どうせ断られんなら」と言ったことが、それがとにかく、悲しかったのだ。 だってそんな、自分のことを想ってくれている人に対してそんな冷たい対応。断るのだからどうでもいい、みたいな言い方。 リヴァイがそんなふうに言ったことが私は悲しかった。 「何だそりゃ……そんなことかよ」 「っそんなこと!?ぜんぜんそんなことじゃないよ!」 「俺はてっきりお前に対していろいろと言っちまったことでヘコんでるのかと」 「え……何言ってんのそんなの今更普通に慣れっこだしていうかそんなのでいちいち傷ついてたらリヴァイとなんていられないよ」 「……。」 リヴァイの口の悪さには慣れている。素っ気ない態度には慣れている。今更そんなことで悲しんだりはしない。 ただ、リヴァイが心ないようなことを言うから。 「ねぇリヴァイ……本当は、思ってないよね?」 「……」 「あんなこと、思ってないでしょ?」 「……。」 リヴァイはそんな冷たい人間じゃない。 涙を滲ませながらそう聞けば、リヴァイはため息を吐きながら腰を上げた。 「……思っちゃいねぇよ。」 「……、ほんと?」 「ああ……あの時はつい、そう言っちまっただけだ。本心じゃねぇ。」 それは私を宥める為だけの嘘には見えず、ここのところモヤモヤとしていた気持ちがすーっとなくなっていく。 「…そっか。よかった」 リヴァイの本心が分かり涙も引っ込み、平常心を取り戻す。 だけどリヴァイはそんな私を見て眉根を寄せた。 「──良かったじゃねえ、そんなことでいちいち落ち込んでんじゃねえよてめぇはッ、」 「っうあ、 だ、だから重大な問題だってば、」 突如上を向かされハンカチで滲んだ涙をゴシゴシと遠慮なしに拭かれた。 「どうしてお前はいつも泣いたり喚く時は自分の事じゃなく俺のことなんだ、」 「えっ?なにっ?」 「ガキの頃そこで俺が足を挫いた時もそうだ、それに中学の時俺がクラスで騒ぎになった時だって一番喚いてたのはてめぇだ」 「……、」 「普段は飄々としてるくせに、何なんだよ」 「……あ、あの、リヴァイ。もう泣いてないから、大丈夫、…はなして」 「……。」 そう言えばリヴァイは私の目をじっと見つめたあとに、静かに手を離してハンカチを仕舞った。 「まぁいい……」 「……ていうかさ、」 「あ?」 私は思い出したように口にする。 結局、あの時リヴァイの機嫌が悪かったのって。 「あの時リヴァイの機嫌が悪かったのは、私があんな話をしたから?」 「………、は?」 私の機嫌は今直ったけどリヴァイの方はどうなんだ。うやむやになってたけど、そういえば結局理由も聞いてない。 「もしかして私が告白されたことがショックだったの?」 「……、」 あの状況から考えられることをひとつ聞けばリヴァイは目を逸らした。 「……お前に男が出来ようが、俺には関係ねえ。」 「うん。そうだね。リヴァイには関係ない」 「あァ?」 「え?」 「ふざけんな、関係ないことはねぇだろ」 「え」 「少しくらいはあるだろうが」 「自分でないって言ったんじゃん……」 「……てめぇは……俺に女が出来ても同じこと言えんのか?」 「そんなことないよ。その日はお赤飯炊いてお祝いするよ。」 「………。」 私の返答にリヴァイはため息を吐いて、眉を顰めさせながらこっちを見る。 「なら、エルヴィンに女が出来たらどうすんだ。お前」 「え?」 「なんだかんだ言ってもブラコンだろ」 「別にブラコンじゃないし」 「どうすんだよ。」 「……。まぁ……でも、あれかな。その彼女にとって一番身近で大切なものをぶっ壊す……、とか?」 「陰湿な上に的確に相手のメンタル潰しにいってやがる……」 「……でもさ。兄さんって何気にモテるよね。外面いいし。いつ彼女が出来ても不思議ではないよね。ムカつく。」 「ムカついてんじゃねぇか」 「まぁ別に、いいんだけど。べつに。兄さんに彼女が出来ようが何しようが。べつに」 「全く良くなさそうだな。」 兄さんに彼女か。多分今はいないと思うけど。でもいつかは絶対できちゃうんだろうな。 そんで結婚して子供が生まれて幸せな家庭を築いて。 私のことよりお嫁さんとか子供とかのことばかり考えるんだ。 当然だ。そうでなきゃいけない。 「……でも、兄さんの一番は、いつだって私がいい」 無意識にぼそりとそんなことを呟けば、リヴァイは当然呆れ顔。 「……お前ら……。」 「……ていうかさ、リヴァイだって人のことブラコンだのシスコンだの散々言ってるけど、リヴァイも私に同じような感じなんじゃないの?」 「………、」 幼馴染みで、ずっと一緒にいる。そういった感情があってもおかしくはない。 「……かもな」 リヴァイはそれを否定しなかった。 私達だって、いつまでこんなふうに側にいれるだろう。いつまで私に構ってくれるのだろう。いつまで私のこと、気にしてくれるのかな。 「もういい……そろそろ帰るぞ」 「あ、……うん」 「……そんな泣きっ面じゃ余計に帰せねぇ。落ち着くまで家に来い」 「え、だからもう泣いてないって」 「泣いたのがバレバレなんだよ。そんなツラ見られたら面倒だろ。てめぇん家のシスコン野郎に」 そう言っていつものように少しめんどくさそうに両手をポケットに突っ込みながら歩き出すリヴァイ。私もブランコから腰を上げ、その背中について行く。 「……」 リヴァイに──彼女ができたら。 「…… 、」 “ お赤飯炊いてお祝いするよ ” 「ね……リヴァイ」 私は思わず後ろからリヴァイの制服をきゅっと掴み、伏し目がちに口を開く。 「やっぱりさっきの、さみしいかも」 「……あ?」 「リヴァイに彼女が出来たら……私、寂しいよ」 「……… 、」 そんなの、決まっているじゃないか。 「……なに言ってんだ、バカが」 「…だからバカじゃないって」 バカと言われて、少し顔を上げてリヴァイを見ればこっちに向いているその顔はどことなく安心したような顔つきになっていた。 ──ああ、 そんな顔、しないでほしいのに。 |