「リヴァイ。今度はナマエの機嫌が悪くなった。しかも一向に直る気配がない。お前一体何をしたんだ?」
「……。」
「何があったのか知らないがお前のせいでナマエがろくに口を利いてくれない。これは死活問題だ。可及的速やかに解決しろ」
「……自分の為かよ」
「まぁそれも(大いに)あるが一番はナマエの為だ。あんなに不機嫌そうなナマエは久しぶりに見た。それに落ち込んでいるようにも見受けられる。可哀想だろ」
「……」


ナマエが家に来てキレて帰ったあの日から数日経ったが、特に何もしていない。あれから一度も会っていないし向こうからも何もない。
すると校内で痺れを切らしたシスコンにとうとう声をかけられちまった。

…そうか。落ち込んでいるのか。あいつは。


「……エルヴィン」
「何だ?」


ここ数日あいつに対して何もしなかったが、何も考えていなかったわけではもちろんなく。

大体ナマエがあんなふうに声を張り上げることは珍しいことだ。気にしないわけがない。それに俺の態度が悪かったのも自覚している。
それでも素直に会いに行けなかったのは、それでもなんとなく気持ちの整理がつかなかったからだった。

俺はなるべくエルヴィンの方を見ないように、口を開いた。


「ナマエに男が出来たら、てめぇはどうする?」


あいつは昔からバカみてぇに勉強ばっかりで友達もろくにいねぇし周りに大して興味もなさそうで誰が好きだとかそんな話は一切聞いたことがなかった。俺自身気にしたことすらなかった。

昔からなんとなくナマエは俺らのものみたいな感覚があり他の誰かに取られるなんてことはないと思っていた。

たとえば俺がいろいろと理由をつけながらも結局エルヴィンのいるこの高校をなんとなく選んだようにナマエもここへ来るのが当たり前で、それと同じように漠然とこのままずっといられるような気がしていた。


「(…そんなこと、ありえねぇ)」


“ナマエに男が出来たら、どうする”


今更、気がついた。

ナマエは俺のものなんかじゃないのだと。



「………出来たのか?」


そんな俺の問いに焦ったのかエルヴィンは力強く俺の肩を掴み反動で視線を上げるとやけに深刻な顔をしたシスコンがいた。

ふと我に返り、半分呆れながらその手を軽く払う。


「…ねぇよ。だから、出来たらの話だ」
「本当か?」
「ああ、俺の知らねぇところで作ってない限りはな」
「………、そうか。」
「で、どうなんだよ。」
「……ん…、そうだな……」
「……。」


エルヴィンはあごに手をあてて真面目なツラして考えたあと、暫くして納得したように俺を見た。

こいつのことだ、どうせおかしなことを言うに決まってはいるが。


「……出来るだけ事故に見せかけるように善処しよう。」
「待て待て、なんの話だ」
「ん?どうした?」
「どうしたじゃねぇよ……お前がどうしたんだよ」
「?まさかとは思うが生かしておくつもりなのか?」
「てめぇの頭の中は一体どうなってんだ」
「?ナマエはかわいい妹なんだぞ?」
「だからって相手を殺すなよ。」
「そうか……。なら、脅す方向か」
「脅すなよ……」


おかしいどころか正気の沙汰じゃねぇ。


「もういい……お前に聞いた俺がバカだった。」
「まぁ……だが、これだけは言える。」
「…あ?」


完全に呆れため息を漏らしながら立ち去ろうとすればまた何かを言い出し、足を止める。


「ナマエが誰と付き合おうが、ナマエの一番は俺であってほしい」
「………、」


何を言っているんだこいつは、と今までの俺なら思っただろう。

だがそんなことをあまりにも真っ直ぐな目で言いやがるシスコン野郎に、なぜだかその気持ちを全否定するような気分にはなれなかった。


「……そうかよ」
「ああ。で、お前の方はどうなんだ?」
「あ?何が」
「ナマエに男が出来たらだ。お前はどうなる?」
「………、」


ナマエに男が出来たら。


「……さぁな。」


とにかく、今日中にでも顔を見に行ってみるか。

気を紛らわすようにそんなことを思いながらエルヴィンに曖昧な言葉を返しそのまま背を向ける。


「リヴァイ」


すると呼び止められ、振り返った。


「ナマエのこと頼んだぞ」
「………、」


その、俺に対しての信頼感は何なんだ。エルヴィンよ。





全ての授業が終わり掃除も終わった、放課後。

私はなんとなく帰る気になれず誰も居なくなった教室で一人ボーっとしていた。こうして一人でいるとだんだん気持ちが落ち着いてくる。いやむしろ落ちていくと言った方が正しいか。
自分の席で頬杖をつきながら窓の外を見つめていると、ふとカタンと音がしてそっちに視線をやった。



「帰らねぇのか」
「………、」


そこにはリヴァイがいて、ドアのところに寄りかかっている姿があった。
私はそのまま表情を変えることなくまた視線を窓の外に戻す。


「……うん」


リヴァイが私のクラスに来るなんて珍しい。というか高校に入ってからは初めてかもしれない。

だけどそれ以上はなんにも言わずにいるとこっちの方へ近づいてくる気配を感じた。


「うん、じゃねぇよ。帰るぞ」
「………、」


すぐ隣に立たれ机の横に掛けていたカバンに手を伸ばし、リヴァイは言う。またそっちを見れば目が合った。

私は頬杖をゆっくりと外す。


「……ひとりで帰れば?」
「……、」


リヴァイの部屋に行ったあの日、ついカッとして大きい声を出してしまったけれど、今となってはもう別にムカついてはいない。むしろあの時ですら一番大きな感情は怒りではなかった気がする。
ただ、どうしてだろう。本人を目の前にするとなんとなく意地みたいなものを張ってしまう。



「……悪かった、この前」


するとリヴァイは、謝ってきた。


「……… 、」
「少し、言いすぎた」
「………うん…」


だけど私は別に謝ってほしいわけじゃないのだ。


「相談にも乗ってやれなくて悪かった」
「……ん…。」


どうにも気分が晴れない。

リヴァイから視線を逸らし机の上に置いてある両手をぎゅっと握り締めた。


「…何だよ……元気ねぇな」
「……。」


なんだかこうして顔を合わせていると余計に気分が落ちていく。

だって違うんだ、私はあの時ケンカみたいになったことを根に持っているわけじゃなくて。


「とりあえず帰るぞ……ほら、立て」


さすがに放っておけないのかリヴァイに腕を掴まれ立つように促される。
嫌悪感は特になく、私は素直に立ち上がり小さく頷いた。


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