兄妹のいない俺にはあいつらみたいに妹や兄を思う気持ちが分からない。
もちろん想像することは容易いが、それでももし俺に兄妹が居たとしてもエルヴィンのように妹のことで騒いだりはしないだろう。

あいつらは普通じゃない。

だが、ガキの頃から今に至るまで共に過ごしてきたあいつらは俺にとってもはやただの馴染みというよりは家族に近いようなものがある。

たとえ俺が心のどこかでナマエを自分の妹のように思っていてもおかしくはない。はずだ。

今更あいつらをただの「友達」という言葉で片付けるのは少し違和感がある。


──それでも、俺らは結局近所に住んでいるだけのただの馴染みで、これから先もずっと一緒なわけではなくそれぞれが別々の道を歩んで行く。今まで同じ学校に通ってはいたが大学やましてや会社までもが同じなはずはない。

ナマエもそのうち俺の知らねぇところで男でも作ってどこかに行っちまうかもしれない。

いや、というかそんなの当然のことなんだが。そんなもん普通に生きてりゃ当たり前のことだ。


それでもそんな日がくるなんてことを、俺は一度も考えたことがなかった。







「え?リヴァイと喧嘩?別にしてないけど?」
「…そうか。」


平日の夜、お風呂上りに兄さんの部屋で涼んでいると唐突にリヴァイと喧嘩でもしているのかと聞かれた。


「何で?」
「いや……最近、リヴァイの機嫌が悪くてな。お前と何かあったのかと」
「へーそうなの?分かんないけど。思ったより身長が伸びなくてイラついてんのかな」


そういえば、最近リヴァイと会ってないかも。ろくに話してない気がする。

とはいえ今更それは特に珍しいことでもないし、いつものことだ。兄さんと同様学校で頻繁に会うわけでもないし登下校がいつも一緒なわけでもない。朝や帰りがたまに一緒になることはあるけど、わざわざ待ち合わせたりもしないし。

でも、そういえばリヴァイと最後に話したのって、あの時か。あれは確か下校途中でリヴァイを見つけていつもみたいに声をかけて一緒に歩いて………






「リヴァイに相談がある」
「あ?お前みたいなバカにも悩みがあるんだな」
「だからバカじゃないって」
「どうでもいいがしょうもない話だったら殴るぞ」
「なんでよ。ていうかわりと真面目に悩んでるんだけど。こんなこと兄さんにも言えないし」
「……エルヴィンにも言えねぇような話なのか?」
「うん。」
「……何なんだよ。」
「……うん。あのね、なんか、……クラスの男子に告白されたんだけどさ」
「……… 、は?」
「いや、まぁ確かにその男子とはたまに話したりもしてたけどでもまさかそんなふうに思われてるなんて思わないじゃん。だからビックリして何も言わないでいたら、返事はいつでもいいからって走って行っちゃって」
「………」
「だから、それで……どうしたらいいと思う?」
「 は………なん、だよ。どうって」
「だから、返事」
「………迷ってんのか?」
「うん。だって、傷つけたくないじゃん。一応」
「………、」
「多分すごく勇気だして言ってくれたんだと思うし」
「……。」
「正直あんまり興味ないんだけど、さすがに好意を向けられると無下にも出来ないというか」


急な話で私自身も驚いたのだが、クラスの男子に告白をされた。まさかそんなふうに思われてるなんて思いもよらなくて本当に驚いたけれど、どうやらからかっている様子もなくわりと本気のようだった。

だけど正直、困った。

その場で返事が出来たら良かったのに、考える時間を与えられてしまった。

どうしたらいいのだろう。なんて言えばいいのだろう。こういうことにはあまり慣れてなく、悩んだ。だけど兄さんにも言えなくて散々一人で考えた結果リヴァイに相談をした。(兄さんに言ったら絶対にうるさい)

なのにリヴァイは私の問いには答えず、黙った。

考えてくれてるのかなと思っているとそのうちリヴァイの家に着いてしまい、リヴァイは足を止めてこっちを向く。



「言っておくけどな……そんなもん、優しさじゃねぇぞ」


それは優しさじゃないと、唐突にそれだけを言って家の中に入っていってしまったのだ。答えになっていないその言葉に訳が分からず私はただ目を丸くして、何を言っているんだと疑問を浮かべながらも、とりあえず私もそのまま深追いせず家に帰った。


──そっか。あれから、リヴァイと会ってない。




「心当たりあったのか?」
「……んー…、」


再度兄さんに聞かれ、首を傾げる。


「いやぁ……ない、はずだけど」



“そんなもん、優しさじゃねぇぞ”



「んー……。」



まさか、私のせいではないよね?







「……てめぇ、何で俺の部屋にいる」
「おじゃましてます」
「………勝手に居座ってんじゃねえ。出て行け」


リヴァイの部屋で、入浴中の彼を一人待っていた。そしてお風呂から上がったリヴァイはドアを開き私を見ると眉根を寄せて出て行けと言った。部屋に入らず、私が出て行くように促す。

さっき兄さんが言っていた通り、機嫌が悪そうだ。いつもだったら出て行けと言ってもそれは口だけで本当にそうしろというわけではなかった。


「勝手じゃないよ。クシェルママが入れてくれたんだもん」
「んなこと聞いてねぇ。帰れ。」
「……何で?」
「てめぇの家はここじゃねぇだろ」
「何で機嫌悪いの?」
「………、」
「兄さんが心配してたよ。リヴァイの機嫌が悪いって」


そう聞くと、リヴァイは静かにため息を吐いた。


「……別に悪かねぇよ。いいから帰れ。俺は寝る」
「もう?早くない?」
「うるせぇ。どけ」
「あ、ちょ……」


ようやく部屋に入ってきたリヴァイは床に寝転んでいる私を跨いでそのままベッドに入った。
ばさりと横になりこっちに背中を向けて、眠ろうとする。

まだ眠くないくせに。


「……ねえ。リヴァイ」


私は体を起こしベッドに近づいてリヴァイがかぶっている毛布をぎゅっと握り、話しかける。


「もしかしてリヴァイが機嫌悪いのって、私のせい?」
「………。」
「私が……なんかよく分かんないけど、告白の返事どうしようか迷ってたから、怒った?」
「………何でだよ」
「だから分かんないけど……あの時、怒ってたのかなぁ……と思って」


あの時リヴァイが言った言葉の意味は分からなかったけど、そして大して気にもしてなかったけれど、もしかしたら私の態度が気に入らなかったのかもしれない。


「…私が、その……告白の返事、すぐにしないで相手を待たせてたから?」
「だからなぜそうなる……」
「だって……そりゃ、私だって待たせちゃって申し訳ないと……」
「ちげえよ。」
「え?」
「そんなことどうだっていい」
「………じゃあ、なんなの?」


やっぱり私のせいじゃないのか?
リヴァイは何も言わない。

でも。


「……ねぇ、なんかあったんでしょ?学校で何かあったとか?」
「ねぇよ」
「じゃあなんなの……マジでさ」


答えようとしないリヴァイの態度にさすがに少しイラついてきて、もうほっといて帰ってやろうかと思った矢先、リヴァイが口を開いた。


「お前結局……どうしたんだよ」
「え?なにが?」
「返事。」
「ん?……あ、告白の?」
「したのか」
「あぁ……うん。リヴァイが相談に乗ってくれなかったから一人でいろいろと考えたけど、結局普通にごめんって伝えたよ。」
「………付き合わなかったのか」
「そりゃ、好きじゃないし……悪いけど」
「でもお前、迷ってるって言ってたじゃねぇか」
「あぁ……そりゃあさ……あんまり傷つけたくなかったし……」


そう言うとリヴァイはいきなりガバッと起き上がり、こっちを向いた。私も顔を上げてそっちを見る。


「だから俺は、それが気に食わねえって言ってんだよ」
「え、?」
「好きでもねぇやつと付き合ってどうなる。お前のそれは、優しさじゃねえ」
「………え、リヴァイ、何言ってんの」
「その場しのぎの言葉で答えてもその瞬間は傷つかねぇかもしれねぇが、結局お前に気持ちがねぇんなら何の意味もないだろうが。そもそもてめぇは何とも思ってねぇ男と付き合えるような人間なのか?」
「………だから、リヴァイ、違うんだけど」
「あぁ?何が」
「…だから……私が迷ってるって言ったのは付き合うかどうかじゃなくて……あまり相手を傷つけないような断り方がしたかっただけで……もちろん付き合う気なんて全然なかったし……、そもそもわたし、言ったよね?興味ないって」
「………、は」
「リヴァイはさ……私が好きでもない人と付き合おうか迷うような、そういう人間だと思ってるの?」


そんなふうに思ってたんだとしたら、それは。それはさすがに、すごく。



「──思ってねぇよ」



悲しい。



「………、」
「違う、そんなこと思ってねぇ、ただお前がそんなクソみてぇなこと言い出しやがったから、」
「っだから言ってないってば」
「だがそれに近いようなこと言ってただろうが」
「言ってない、リヴァイが勝手に勘違いしたんでしょ」
「勘違いするような言い回ししたのはお前だ」
「いやしてないし。私はただ何て言えばいいのか聞きたかっただけなのに」
「そんなもん無理だと言う以外に何がある」
「だからこう……言い方がさ」
「大体、そんなことでいちいち悩んでんじゃねぇよ。紛らわしい」
「なにそれ」
「何て答えようが相手にとっちゃ同じことだろうが、どうせ断られんなら」
「……同じじゃないよ。適当に断るのと誠意を込めて断るのとじゃぜんぜん違うじゃん……分かるでしょ」
「チッ…、そんなこと俺が知るかよ」
「……… 、」


吐き捨てるようにリヴァイが言う。


「………」


あれ……ちょっと、待って。

おかしい。

胸が変だ。

なんていうか、その。

なんていうんだろうな、これ


なんか。

もの、すごく。



「ッ……、」


私はリヴァイの言葉を聞いてバッと立ち上がり、そして息を吸った。



「っあぁそうですか!!それは悪かったですね!!分かりにくい言い方とかしちゃってさあ!!ごめんね!?これからはもう一生リヴァイになんか相談とかしないからさ!!安心してよね!!」



ものすごく──ムカつく。



「ていうか兄さんに聞けばもっといい返事がもらえるだろうし!?もう二度とリヴァイには何にも聞かないから!!じゃあもう帰るからゆっくり寝なね!?おやすみなさい!!!永遠に!!!」



私は一方的に叫んで、そのまま部屋を出てバタンと思い切りドアを閉めた。

それからクシェルママに挨拶するのも忘れ家に帰り、すると兄さんがリヴァイはどうだったかと話しかけてきたけど知らないとだけ声を荒げて部屋に戻った。


──まったく、もう。本当に。


悲しくなる、じゃないか。


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