『なぁナマエ。俺と兄貴、どっちが、好き?』
『え… 何、イザベル、急にどうしたの』
『…ファーランが、ナマエと兄貴は付き合ってるって…そう言ってた』
『は!?』
『昨日、兄貴帰って来なかった。ナマエと一緒だったんだろ?』
『あ、まぁ……そう、だけど』
『ナマエはさ、兄貴とばっか会ってんじゃん…』
『そ、そんなことないよ』
『それで、昨日、兄貴も居ねぇしナマエのとこ行くって言ったらファーランがやめとけって。俺が行くと邪魔だ、って…。ナマエと兄貴は二人っきりでやる事があるんだって…』
『…ファーランの野郎…イザベルに何て事を…』
『俺、付き合うとかよく分かんねぇけど…でも、ナマエは俺と兄貴どっちが好きなのか気になって…。』
『……』
『なぁ、どっちなんだ?』
『…そんなの、イザベルに決まってるでしょ?』
『…っほんとか?』
『当たり前じゃない。イザベルは私の妹みたいなものなんだから。』
『……そっか…、そうだよな…。へへっ、よかった!俺もナマエ大好きだぜ!』
『うん。ありがと、私もだよ。ファーランの言ってる事は気にしないでいいから。とりあえず私はファーランを殴りに…いや、話があるから、イザベルはここで待ってて?』
『おう!わかった!』


イザベルは素直で可愛くて、本当に妹みたいに思ってた。私も大好きだった。






「ナマエ?」

「……ん、」


突然ハンジの声が聞こえて、目を覚ます。


「随分寝たね。大丈夫?今日は新兵のとこ行くんだろう?」
「………」
「昨日モブリットと飲んでたんだってね」
「……あー…うん…だるい。」


体を起こすと少しだけだるさが残っていて、ハンジがコップに水を入れてくれているのを横目に頭を押さえて俯く。
ハンジはわざわざ起こしにきてくれたのか。


「…大丈夫?はい、水。」
「……うん。」


差し出されたコップを受け取って目をつぶり項垂れる。二日酔いもあるけど、それだけじゃない。

昔の夢を、みた。


「……」
「どうしたの?気持ち悪い?」
「……大丈夫。」
「何かあった?」
「…ない。」


戻りたい。地下なんて最低の居心地悪い場所だった。でも、あの頃に戻りたい。
リヴァイと、イザベルとファーランの四人で過ごしてた頃に。



「…もしかして、また夢でもみた?」
「……。」



ゆっくり目を開けると、見慣れた私の部屋。あの頃には、戻れない。
静かに息を吐いてから水を喉に流し込んだ。


「大丈夫?」


未だに私は昔の夢を見る。地下に居た頃の夢や、初めて壁外に出た時の夢。悪いものばかりではないけど、でも地下の頃を思い出すと胸が少し、苦しくなる。
ハンジはそれを知っている。だから気にかけてくれているのかもしれない。なんだかんだで私はハンジに世話になりっぱなしだ。

いつまでも変わる事が出来ない。


「……私が弱いから、だから…リヴァイも私に距離を置くのかな…」


壁外調査に出ると今でも時々トラウマに襲われる。ひどいと吐き気がする時もある。
だけどリヴァイはその事を知らない。私が壁外でリヴァイの側に居たくない理由は、ハンジの班に入ったのは、その姿を見せたくないからだった。嫌な記憶がフラッシュバックして、震えが止まらなくなる。そんな私を見せたくなかった。でも、もしかしたらその弱さを見透かされてるのかもしれない。


「ナマエ…」
「リヴァイがいつまでも私に負い目を感じてるのは…私がいつまでも、こんなだからなのかも…。」


リヴァイは私に負い目を感じてる。だから、距離を置かれてる。私はいつまでもそんな態度のリヴァイが嫌だった。だけど、そんな態度をとらせてるのは私にも原因があったのかもしれない。
なら、私が強くなればリヴァイも負い目を感じなくて済むのかな。そもそもそんなのリヴァイが感じる必要はないんだけど、でも、私が変わる事で少しでもリヴァイの気持ちを軽くする事が出来たなら。


「…ハンジ、私…」
「ん?」
「いつまでもこんなんじゃ、リヴァイも変われない…だから、」


変わらなきゃ。いつまでもあの二人の事、引きずってちゃダメだ。忘れなきゃ。前に進まなきゃ。


「変わるよ。私」


そうすればきっと、リヴァイだって。


「…そっか。でも、無理はしないようにね。」
「うん。大丈夫。」
「まぁとりあえず、今日は新兵の指導を頑張ってね。」
「あ……そっか。忘れてた」





「どうしよ…。」


指導とやらは昼過ぎから始めるらしく、午前中はエルヴィンに貰った新兵達の資料を見ながら過ごした。
そして昼になり、とりあえず食堂で昼食をとる。
何をどう教えようか全く決めてないんだけど、大丈夫なんだろうか。いや大丈夫じゃないだろうな。のんびり昼食ってる場合じゃないんだろうな。


「…ガキ共の面倒をみるらしいな。」


黙々と食べていると突然話しかけられ、目線を上げれば向かいの席に座るリヴァイの姿があった。


「え、あ、…リヴァイ」


いつもと変わらない様子でこっちを見てくる。
リヴァイとはあれから話してなかったから若干気まずいような気がするのだが。


「…こっち来てたんだ」
「ああ。お前はこれからどうすんだ」
「えっと…新兵達と、会って…なんか、指導するらしい。」
「なんだその曖昧な予定は。」
「いや、だって、こんなの、初めてだし…」
「だろうな。出来るのか?」
「正直まだ何にも決めてない」
「馬鹿かお前。決めとけよ。」
「仕方ないじゃん…」
「…大体、実験中にうっかり怪我するような奴から教わる事なんかあるのか?」
「それはっ……、言うなよ…。」


この野郎、平気な顔して痛いとこ突いてきやがる。
…でも、もう怒ってないみたいで安心はするけど。


「怪我はもういいのか」
「あ、うん…そこまでじゃなかったし」
「…そうか。」
「リヴァイは食べないの?パンいる?」
「いらねぇよ。」


そう言いながら席を立ち、背中を向けられた。
そのまま特に何も言わずに歩いて行くリヴァイと、見送る私。


「……、」


いつか、昔みたいに、理由もなくただリヴァイの側に居られたら。
あの頃に戻れなくても、リヴァイと同じ気持ちで今を生きれたら。

それはきっと、どこに居たって、幸せなんだろうな。


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