「…リヴァイ先輩、」
「……、」


私がリヴァイと出会ったのは高校一年生の時。他校の生徒に絡まれているところを助けてもらったのがきっかけ。同じ高校の先輩で、仲を深めていけたのはリヴァイがそのあとも私に話しかけてきてくれたから。


「帰るか」
「…はい」


あれは確か高一の冬。


私は最初の頃リヴァイのことは(感謝の気持ちはあったとはいえ)ただの「助けてくれた人」くらいにしか思ってなかった。
あとはちょっと軽い人なのかなとも少し思っていた。学校ではよく話しかけられるようになって、まさか私だけにあんなふうにしていたなんて最初は思っていなかった。さすがに警戒までしていたわけじゃなかったけど、いろいろと深くは受け止めていなかった気がする。



「最近、誰かに絡まれたりとかしてねぇか?」
「してないですよ」
「何かあったらすぐ言えよ」
「そんなことより先輩」
「そんなことってお前な」
「帰り、待ってるなら待ってるって連絡くださいよ。私だって毎日先輩と帰れるわけじゃないんですから」
「お前ほぼ毎日俺と帰ってるじゃねぇか」
「……それは、だから、先輩が勝手に待ってるから……だから仕方なく、」
「それにお前、無理な時は連絡くれるだろ。それがないってことは帰れるってことだ」
「……。」



リヴァイは少し強引で、私が断れないことをいい事に今思えばそこにつけ込まれていたような気がする。

約束なんてしてないのに放課後はいつも昇降口のところで私を待っていて、そこへ行けば「帰るか」と当たり前のように言ってきた。
それまで一緒に帰っていた私の友達はリヴァイの存在を知るとニヤニヤと笑いながら勝手に身を引いていて。私は別にリヴァイと帰るなんて一言も言っていないのに。

だけどいつの間にかリヴァイと帰るのが日常になりつつあった。



「最近すっかり日が落ちるのが早くなったな」
「そーですね、寒いです」
「なら手でも繋いでやろうか」
「……あ、あは は」
「オイ引きつってるぞ」
「そういう冗談やめてください」
「本気ならいいのか?」
「ダメっすね……。」
「……馬鹿みてぇにスカート短くしてるから寒いんだろ」
「だって短い方がかわいいですし」
「そんなんだから変な男に絡まれるんだよ。」
「あぁ、リヴァイ先輩のことですか?」
「ちげーよ」



私は少しずつリヴァイのことを「助けてくれた人」から普通の「先輩」と思うようになっていった。
むしろ女の先輩達に囲まれ理不尽にいろいろと言われたあの時なんて、リヴァイが現れた時の安堵感といったらなかった。

たとえば私が寂しかったり何らかの助けを求めたいと思った時には必ず、リヴァイが真っ先に浮かんでくるようになった。
まぁそれを自覚するのはもう少しあとのことだったけど。



「……先輩、いつも送ってくれなくていいですよ。逆方向じゃないですか」
「お前放っておいたらまた絡まれるだろ。いちいち割り込んでいくのも面倒だろうが」
「絡まれるの前提、助けてくれるの前提、なんですか」
「気づかないのが一番シャレになんねぇな。だから送ってやってるんだろうが。感謝しろよ」
「………そりゃあ…有り難い、とは思ってますけど……申し訳ないっていうか」



リヴァイはいつも家の近くまで送ってくれた。その頃にはもうさすがにリヴァイの気持ちにはなんとなく気づいていたし、私も私でそれを嫌だとは感じてなかった。



「別にいいんだよ。俺が勝手にやってることだ」
「……そう、ですか」



家の近くまで来ると「もう大丈夫です」と私が告げて、納得したリヴァイが「じゃあな」と引き返していく。私はいつもなんとなくその後姿を見えなくなるまで見つめていた。リヴァイは振り向いたりはしなかったけど。

だけどその日、私はリヴァイを引き止めた。



「…っあの、せんぱい!」



足を止めたリヴァイは振り向き、こっちを見る。私はそれに近づいた。



「えっと…なんていうか……もう、寒い、ですし。…だから、これ、」



合わせないように目を伏せながら、自分が身につけていたマフラーを外すと少し背伸びをしてリヴァイの首元にそれをふわりと巻きつけた。



「私はもうお家が近いので…、リヴァイ先輩に、……かします」



多分私は顔を赤く染めていたと思う。恥ずかしくて顔を見れなかったけど、その時リヴァイはどんな顔をしていたんだろう。







「──オイ、ナマエ。……なぁ、起きろ、朝だぞ。……ナマエ、」
「………ん…… 、ん…?」


声がして目を覚ますと、そこには相変わらず私を見つめ続けてくれているリヴァイがいた。


「あれ……おはよう……。」
「お前、俺の夢みてたか?」
「え……なんで、」
「俺の名前を呼んでた。」
「………、」
「ニヤけてたぞ。一体どんな夢みてたんだ?」
「………ふ、……そ、っかぁ……。」


どことなく嬉しそうなリヴァイにふっと笑みをこぼし、むくりと起き上がるとまだリーベは寝ていて、二人で静かに寝室を出た。





「ほら、あの時の……高校の時、リヴァイにマフラーかした時あったでしょ?その時の夢みてた」
「……あぁ……あの時のか」


コーヒーを淹れて二人でソファに座りながらみた夢の話をする。


「今考えると超純粋だった……私」
「あの瞬間のナマエはベスト5に入る可愛さだったな」
「なにそれ」
「あのまま抱き締めれば良かったと、そのあと随分後悔した」
「ふはっ……何それ、そんなこと思ってたの?」
「ああ。クソ可愛かったな、あの時のお前。」
「そう?」
「ナマエにあんな積極的なことされたのはあの時が初めてだったしな」
「…まー、そうだね」
「顔赤くしながら俯くお前のあの時の表情、今でも思い出せる」
「え、顔赤かった?バレてた?」
「そりゃバレるだろ。あの距離だぞ」
「そっか。じゃあリヴァイはどんな顔してた?」
「分からん…が、だいぶ驚いてたと思うぞ。それから煩悩を退散させる為にとりあえず一歩離れたような気がする」
「っあ、そうだね、確かそうだったかも。距離とられた気がする………ふふ、懐かしいね」


「ママ……?」


思い出話に浸っていると、目を覚ましたリーベが寝室のドアを開いて出てきた。


「あ、リーベ起きたの?おはよう」
「おはよ………っと見せかけてリーベ必殺でんぐりがえし!!」
「「!?」」


起き抜けにいきなりでんぐり返しをする娘に驚き、一気に懐かしい空気がどこかへと飛んでいった。

(ビックリした)


「ママパパ見たー!?」
「いや、見たけど、何してんの、危ないでしょ?」
「大丈夫か?どこか捻ってないか?」
「ふははははダイジョーッブ!リーベは無敵なのだ!」
「ならいいか」
「いやいいのっ?危なくない?」
「俺の娘は起き抜けに前転したくらいでケガをするようなヤワな体してねぇよ」
「そ、そう?」
「てゆーかなに二人だけソファでいちゃいちゃしてんだー!!リーベもまぜろー!!」
「っあ、ちょ、コラ、気をつけて、」
「あぶねぇ…」
「ねえねえー!なんの話してたの!?」
「…ママとパパの昔の話だ」
「むかし?あっそうかどんぶらこどんぶらこの話だね?」
「いやそれは昔話……。」
「ちがうの?もも太郎の話してたんじゃないの?」
「違う。ママがパパにゾッコンだった頃の話だ。まぁ今もそうだろうが」
「ゾッコン…」
「ちょっと何言ってんの、どう考えてもリヴァイの方でしょ。それは」
「何を言ってる。あんなに真っ赤になってたじゃねぇか」
「でもリヴァイの方が先にちょっかいだしてきてたでしょ?」
「そうだったか?」
「そうでしょ!」
「ママとパパはほんとうにお互いのことがだいすきなんだねぇ」
「…何言ってんだリーベ、お前のことも大好きだぞ?」
「……あ、ははは…」
「オイ引きつってるぞ」
「ふはっ、!何それリーベ苦笑い!」
「オイなんでだ」
「パパの愛はたまにちょっとこわい時がある」
「どうしてだ」
「っふふ、…そうね、パパのリーベへの愛はたまにいきすぎてる時があるよね」
「リーベマジこわい時あるも〜ん」
「……そんなことはない。ただちょっとリーベの男友達をこの世から全て抹消したいってだけだ」
「「こわっ」」



大好きな人と過ごせて、そしてまた新たに大切な存在が出来て。
愛のかたちも少しずつ変わったりなんかして。

だけどあの頃も今も、私はリヴァイからの愛をたくさん感じて、生きている。


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