年末年始、また家でリヴァイを預かることになった。


「みかん食べる?」
「……うん。食う」
「ん。ほれ」


年が明け私はリヴァイとこたつでダラダラと過ごしている。
みかんをひとつ手渡すと小さな手でそれをむき始めた。


「……ん?リヴァイお前何してんの」
「……」
「てめ、その白いとこには栄養が含まれてんだぞ。ちゃんと食え」
「……。」


皮をむいたかと思えば次はみかんについてる白い繊維のような部分まで取り始めた。


「こんな気持ちわりぃの食えるかよ」
「食えよ」
「うるせぇ」
「そんなんじゃ大きくなれないぞ」
「うるせえ」


ちまちまと指を汚すその姿に息をこぼし、仕方なく半分を手伝ってやった。


「ほれ。食え」
「 ん…」


みかんを渡してから5分後ようやく食べ始めた。そして手拭きを渡して手を拭かせたところで、私はあることを思い出す。


「…あ。そうだリヴァイ」
「なに」
「忘れてたわ。ちょっと待ってて」
「……、」


もぐもぐと口を動かすリヴァイを残して立ち上がり、自分の部屋に行くと机に置いてあったそれを手に取りまたリビングへと戻った。


「はい、おまたせ」
「……なに?これ」
「お年玉。」
「……は?なにそれ」
「え、知らねぇのかよ」


リヴァイが来ると知らされてからスーパーに買い物に行った時、なんとなく目に入ってきたお年玉袋。吸い込まれるようにそれを数秒間見つめていた私は気づけばそれに手を伸ばしていた。


「お年玉っていって、新年を迎えた時にまぁ子供とかが?もらえるものなの」
「……ふーん…」


あまりよく分かってなさそうにそれを開けて、中から出てきたのは三千円。それを見るとリヴァイは目を見開いた。


「っえ、札…?!」
「札って」
「は?なんで金が入ってんだよ、」
「いやお年玉ってそういうものだから」
「そうなのか?」
「うん。少ないけどまぁお前物欲ないしな。それくらいでいいだろ。ガキだし」
「……おれがもらっていいの?」
「うん。お前にあげる。大事に使えよ」
「………、」


すると未だ驚いた表情でそれをじっと見つめ、そのあと私の方を見ると開いていた口から小さく息を吸い込んだ。


「……あ…あり、がと」


きゅっと握り締めたままお礼を言われその瞳になんだか一気に照れくさくなる。


「……ん、うん…。いや、まぁ全然大した額じゃねぇんだけどな」


視線を落としまたみかんをひとつ手に取りそれをむいた。


「(照れくさい……)」


リヴァイはそれからも嬉しそうにそれを見つめていた。





年が明けてから数日後、ケニーさんがリヴァイを迎えに来た。


「悪かったな預かってもらって」
「いえ、お疲れ様です」


インターホンが鳴り玄関を開けると仕事帰りのケニーさん。するとリビングの方からリヴァイが走ってきた。


「ケニー!」
「おうリヴァイ、大人しくしてたか?」
「見ろケニー!これナマエからもらったんだぜ!」
「お前全然大人しくしてねぇな」
「……ちょ、リヴァイ、それ別に見せなくていいから、」
「ケニー聞いてんのか!」
「何だお前そんなに俺に会いたかったのか?しょうがねぇ奴だな」
「んなわけねぇだろちげぇよこれ貰ったんだよ!」
「オイオイ新年早々つれねぇこと言うんじゃねぇよ。…何を貰ったって?」
「おとしだま!」
「……あ?お前が?ナマエちゃんから?」
「そうだっつってんだろ!」


リヴァイはそれをわざわざケニーさんに両手を伸ばして見せつける。するとケニーさんは私を見て、笑う。


「……はッ。そうかそうか。そうだったのか。そりゃ良かったな。」
「いや、あの、別に……全然そんな、大したあれじゃないんで、」
「相変わらずナマエちゃんは本当に面倒見がいいな」
「いやほんと……そんなことないですけど」
「そうかぁ。そうなると仕方ねぇな。ここは俺も大人としてお返ししとかねぇとダメなんだろうな」
「えっ」
「じゃあ……これは俺からナマエちゃんに。裸で悪ぃな」
「えっいやいや……いいですよ、別に、そんなつもりじゃ」
「いいから、ほらよ。」
「えー…いいんですか」
「いつもチビが世話になってるしな」


そう言ってケニーさんはお財布からお金を取り出し、私にくれた。


「別にいいのに……ってうそこんなに?」


それを見てみると諭吉が三人もこっちを見ていた。


「やだケニーさんだいすき」


パッと顔を上げ思わずそんな言葉が口から衝いて出た。


「はッ、分かりやすくていいな」
「これはヤバイ。……あ、そうだケニーさんもし時間あるなら上がってって下さい。お母さんがケニーさんの分もごはん作ってるんで」
「おお。ならお言葉に甘えて。」
「どうぞー」


ケニーさんを家に入れて、諭吉に見惚れながらリビングまで行こうとすれば服を引っ張られた。


「……ん?リヴァイ、?」
「………。」


足を止めて振り向けばリヴァイが俯きながら私の服を握っていた。


「え、なに、どした」
「……何、さっきの」
「は?」
「だいすきとか……何それ」
「……え?」
「お前ケニーのこと好きなの」
「……っえ、何言ってんの」


そんなのその場のノリで言っただけなのにそんなふうに改めて聞かれたらハズイじゃねーか。


「てか何でお前拗ねてんだよ」
「………、」


少し笑いながら聞けばリヴァイは両手でぎゅっと服を握る。


「……ふ、何なんだよ。」


その姿に思わず手を頭に滑らせ、そこを撫でる。


「お前のことも大好きだから」


半分呆れながらそう伝えればゆっくりと顔を上げて、少し恥ずかしそうな、でもどこか嬉しそうにリヴァイは表情を緩めた。そして両手で服を掴んだまま私に顔をうずめボソリと呟く。


「おれも」



ん?

“オレも”?


そんなまさかの返事に、私は目を丸くする。


「──…、」


そしてそのまま顔を合わせずリビングの方へと走っていく小さな背中を見えなくなるまで見つめた。


「……… 何だ、それ。」


胸がさわさわする。


「……ふ、」


一人笑って、照れくささを残しつつ私もリビングへと向かった。



子供の成長なんてきっとあっという間。

だからこそこれからも側で成長していく姿を見ていけたらいい。一緒に過ごせたらいい。

今年も。来年も。


ずっと。


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