頭の痛みと共に目を覚ますと、あの時とは違って側にリヴァイは居なかった。


「…モブ リット、」


その代わり部屋にはモブリットの姿があり声を掛けると私に気づいて側に寄ってくる。


「目が覚めたんですね。良かった。」
「…私、…」
「あ、まだ一応起きない方が」
「………。」


起きようとすればそれを制された。


「覚えてますか?実験中にエレンの巨人化は成功したんですが、自我がなく暴れだしたんです。ナマエさんはそれに巻き込まれたんですよ。」
「…うん」
「今日は念のため安静にしておくようにとの事です。体調は大丈夫ですか?」
「……リヴァイは?」
「え?」
「…リヴァイ、は…」


意識を失う前に聞こえた声は気のせいではないはずだ。きっと、心配かけたに違いない。


「…リヴァイ兵長なら、エレンや班員と居るはずです。ハンジ分隊長も今日の事でいろいろまとめる事があるのでここには居ませんが心配していました。エレンも謝りたいと言っていましたよ。」
「…そっか。」


なんか、情けない。今更こんな事になるなんて。新兵なら未だしも、私が。


「ごめん」
「…はい?」
「実験に…集中してなかった。」
「…何かあったんですか?おかしいと思ったんですよ。ナマエさんならあれくらいの攻撃避けられるはずですから。」
「……ほんと、単に集中してなかっただけ。迷惑かけた…ごめん。」
「いえ…。驚きましたが、無事で良かったです。」
「……」
「それと一番心配していたのはリヴァイ兵長なので、古城に戻る前に一声掛けた方が良いかもしれません」
「…うん、そだね」
「それとも伝えておきましょうか?」
「いや…、私が行く。」
「…その方がいいかもしれないですね。」
「うん…」
「…あんなに慌てるリヴァイ兵長は、初めて見た気がします。」
「え?」
「ナマエさん、頭を打ったみたいで出血していて…倒れてる姿が見えた時は息を呑みました。リヴァイ兵長も驚いたみたいで…まぁ誰よりも速く動いてナマエさんを抱えたのもリヴァイ兵長でしたけど」
「……」


私が倒れた時リヴァイはどんな気持ちだっただろう。私を呼ぶあの声が、耳にこびりつく。


「ナマエさん?」
「…モブリット、私リヴァイと話してくる。」
「え…もう起きて大丈夫なんですか?」
「うん。大丈夫。モブリットも仕事に戻っていいよ。ありがと」
「…分かりました。でも気をつけて下さいね」
「うん。」


ベッドから降りて部屋を出る。リヴァイが古城に戻る前に会わなければ。
まだ少しフラつく足でその姿を探しにゆっくりと歩き出した。

とりあえず執務室を目指し歩いていると、向かう途中の廊下でリヴァイの後姿を発見した。


「…リヴァイ!」


思わず呼ぶと、リヴァイは足を止める。私は足を速めて近づいた。だけどリヴァイは振り向かない。


「リヴァイ…?」


声を掛けても反応しない。どうしたのかと少し不安になる。


「…あの、ねぇ。リヴァイ」
「…なんだ。」


低い声が聞こえ、さすがに気づいた。怒ってると。
心配させたとばかり思っていたけどこれは怒らせたの方が正しいかもしれない。


「えっと……悪かった…と、思って…。」
「…それは何か?大事な実験中に、しかもエレンの巨人化が成功した貴重な時にお前が集中していなかった事についてか?」
「……う、うん。」
「考え事でもしてたってのか?」


でも、怒るのも当然かもしれない。あれくらいの攻撃、私が避けられないわけがないのだから。つまりは、集中していなかったという事。


「…ごめん」
「…ふざけるなよ…。」


こっちに振り向いたリヴァイの顔は怒ってるのとは違う、苦しそうな表情で。


「…リヴァイ…」
「てめぇのおかげで俺は心底機嫌が悪い。」
「……」
「ちょっとした気の緩みが、命取りだ。お前はそれを分かってるはずだろ。」
「うん…」
「なのに何で集中してなかった?エレンは巨人になれないとでも思ったのか?なれたとしても暴走なんかしないと思ったのか?」
「……」
「何が起こるか分からない状況だった事は理解していたはずだろ」
「……リヴァイの、言う通り…だよ。私は集中してなかった。多分、何かあっても私なら対処出来るとどこかで思ってたし…巨人との実験は何度もしてるから、変に余裕が出来てた。だから…あんな……」


自分のせいなのに、落ち込む。
今回は運が良かっただけでもしかしたら死んでたかもしれないのだ。リヴァイは、その事を怒っている。

俯いて黙っているとリヴァイはため息を吐いた。


「…お前が……お前が襲われた時…一瞬、心臓が止まるかと、思った。」
「…っ…、」
「てめぇが俺に心配すると言ったように、俺だってお前に対して同じように思う…。あんなところで、気ぃ抜いてんじゃねぇよ…馬鹿が」
「…ごめ、ん…。」


本当に何をやってるんだと、胸に突き刺さる。リヴァイをこんな気持ちにさせたかったんじゃない。


「…お前に……何かあったら、…俺は」


静かに聞こえたその言葉にハッとして、顔を上げた。


「……っリヴァイ、」
「…チッ…。」


すると背を向けられ、距離が離れていく。


「…エレンが、てめぇの事を気にしていた。悪いのはどう考えてもお前だが。」
「……うん、謝りに、いく」
「もうすぐ城へ戻る…それまでに行っとけ」
「……うん…。」





「あ、ナマエ!」
「……。」


エレンに会いに行き謝ってから、ハンジのところに来た。
エレンはすごい勢いで私に謝ってきて、私が悪いのだと落ち着かせるのが大変だった。


「体調は?」
「…平気。」
「そっか。なら良かった。」
「……」
「モブリットに聞いたけど、リヴァイのとこ行ってたんだろう?どうだった?」


ハンジは近くのイスを引き座るよう促す。素直にそこに座り、口を開いた。


「……普通に、怒られた。」
「ふは、まぁそれはそうだろうね」
「………。」
「でも分かってるだろうけどリヴァイもかなり心配していたからね。余計に感情も入っちゃうんだろ、ナマエの事になるとさ。」
「そう、だね」
「でもナマエらしくないじゃないか。こんな事になるなんてさ」
「…ハンジ」
「ん?」
「…悪かった、と…思ってる。…ごめん」
「……本当にらしくないね。大丈夫?頭強く打った?」
「打ったよ。打ったけど、それとこれとは関係ない。」
「実験の事なら気にしないでくれ。どのみちあのままエレンが暴走していたら中止していただろうし。変わらないよ」
「…違う…。」
「ん?なにが?」


私がここに居る意味はリヴァイ以外にない。それ以外ありえない。
私みたいな人間が、誰かの役に立つとか人類の希望になるとか、そんなのは似合わない。


「私は、調査兵団に居たいから居るんじゃない。リヴァイが居るから居るだけ。志だってないし、人類の為に何かしようとも思ってない。だから、ハンジ達みたいにあれこれ考えたりもしない…つまり何もしてないの。私は。」
「……。」
「…でも、さすがに、邪魔はしたくないと…思ってる。ハンジには世話になってるし…調査兵として役に立てないのはきっと変わらないけど、だけどせめて邪魔にはなりたくないの。」
「…ナマエが思ってるほど、君は何もしてないわけじゃないと思うけど。私は」
「何もしてないよ。まぁとにかく…今回の事は完全に私のミスだし、結果迷惑かけた事になるから…、」


身勝手な事をしている代わりに邪魔はしない。せめてこれくらいの事は私にも出来たはずなのに。


「分かったよ。確かに、あれはナマエのミスだ。二度と同じ事はしないでくれ」
「……ハンジ、ありがと。」


落ち込む。ひたすら落ち込んでしまう。リヴァイの不安になるような事はしたくなかったのに。こんな、こんなにも、簡単に。


「でもナマエ、いくらなんでも落ち込みすぎじゃない?」
「…落ち込むよ。自分が、滑稽すぎて。」
「そんな事ないよ」
「だって、私あの時、リヴァイの事考えてた。」
「そうなの?」
「うん。私に何かあったらリヴァイ絶対哀しむだろうなって…そんな事考えてたら、次の瞬間にはもう哀しませてた。」
「あぁ…」
「馬鹿でしょ?笑っていいよ」
「いや笑わないけど」
「…笑って馬鹿にしてよ…」
「こんな顔してる子のこと、笑う趣味はないよ」
「……、」
「ナマエは本当にリヴァイが全てだねぇ。よしよし。」


ハンジに頭を撫でられ、少し泣きそうになる。抵抗する気にもなれずそのまま目をつぶった。


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