家族が居ない間、私は自分の服の洗濯をしていない。


「え……どういうこと?」


脱いだものは部屋や脱衣所に放置している。というかまず外にも出ないし冬だから汗もかかないし特に何をするわけでもないのであまり服も汚れない。だから毎日は着替えないのだ。もちろん何日も同じってわけではないけど。まぁそれでも一応下着だけはちゃんと替えている。そこは一応。
だけどそんなのは生活する上で大したことではなくまぁ当たり前のことなので、深く考えることなどなかった。

だからふとリヴァイに聞いてみたのだ。


「リヴァイってパンツどうしてんの」


特に何も考えずに。そういえば着替え持ってないんだよね、なんて思いながら。
すると彼は答えた。


「風呂の時ついでに洗ってるが」


あ、そうだったんだ、と思った。


「え、でも乾くまでの替えは?」


着替えを持っていないのだから下着だってもちろん一枚しかないだろう。そう思って普通の顔をしながら聞いてみれば、彼は言った。


「乾くまで穿いてねぇ。」


え……どういうこと?

私は首を傾げた。意味が分からず傾げまくった。だって「乾くまで」ってそれだいぶ掛かるでしょ?すると。


「だから、その間はそのままズボンを穿いてんだよ」


つまりリヴァイの言う『その間』というのは洗ったパンツが乾くまでの間のことで、『そのまま』っていうのはパンツを身につけないままズボンを穿いているということ。


「…………。」


私は頭でいろいろと考えを巡らせながら、リヴァイの目をただ見つめる。そして。


「………えッ!?」


バッとL字のソファの上で後退り、反対側に座っているその人から少しでも距離を取ろうと体が勝手に動いた。


乾くまで穿いてない。

乾くまで穿いてない?

穿いてない?

no pan?


つまり、ノーパン?彼はノーパン!?


「な、え、…えっ……!?リヴァイ、穿いてないの……!?」


腕を口元まで持ってきて腰を引かせながらも思わず視線が下半身へと向かえばリヴァイは眉を顰める。


「今は穿いてる。」
「うわあああヘンタイ!!ヘンタイィイイ!!さいあくー!!!」


両手で顔を覆い背もたれの方に倒れ込んで彼から全力で顔を背ける。


「…何なんだよてめぇは」
「サイテー!ヘンタイ!不潔ー!!」
「あぁ?どう考えても何日も同じもん身につけてる方が不潔だろ」
「最悪!!最悪っ!!」
「うるせぇ…」
「私のズボンなのに!!ノーパンで私のズボン穿かないでよヘンタイー!!」
「……だったら俺の穿ける下着を用意しろ。クソガキ。」
「むりだし!!」
「なら騒ぐな。」
「やだーーーもーーー!」
「うるせぇな。洗って返せばいいんだろ。」
「そういう問題じゃない!」
「ならてめぇは俺に何日も同じ下着を身につけろってのか?」
「あーなんかもうテンション下がってきた……」
「…むしろ上がった例がねぇだろ。この根暗め」
「はぁ……もうやだ。ちゃんと着替えくらい持ってきてほしいよ」
「俺は別に旅行しに来たわけじゃないんだが」




リヴァイが私の前に現れてから、数日が経った。

私は相変わらず部屋から出ず、リヴァイともあまり必要以上は言葉を交わさない。


──わけでもなく。


「ねぇリヴァイ。トランプしようよ」
「……、」


なんだかんだでリヴァイとはそれなりに話している。


「……お前、ここんところやたらと部屋から出てくるようになったな。一人でいるのが寂しくなったのか?」
「、なっ……」


トランプ片手にそう言えばそんな返事が返ってきて、私はその言葉に顔を顰め思わずぎゅっと手に力を入れる。


「根暗の次は寂しがりやか。」
「っもういい!!部屋に戻る!」
「まぁ待て。付き合ってやるからこっちに来い。」
「っ……、」


足を止め振り返り、口を開いたまま言葉にならない気持ちを顔でうったえる。だけどリヴァイは特に気にしてなさそうにソファに軽く座り直し、ちらりとこっちを見た。

(なんかいちいち腹立たしいんだよな……)

深くため息を吐き、気持ちを切り替えてから顔を上げると不服ながらもソファに座った。



「ねえリヴァイ」
「何だ」
「あのさぁ…」
「あ?」
「帰り方とかさぁ。調べなくていいの?」
「……あぁ、そうだな」
「トランプとかやってる場合?」
「お前が誘ってきやがったんだろ。」
「親達が帰ってきた時にリヴァイが居たら困るんですけど」
「ああ、分かってる」
「ほんとに分かってんの…?」


リヴァイは毎日何をするわけでもなく、ただ家にいる。こっちの世界に来る直前に何かいつもとは違うことでもしてしまったのではないかと聞いても別に何もしていないと言う。どこにいたのかと聞いてもそれすらもはっきりと答えてはくれない。
つまり何も分からない。どうしてリヴァイがこちらの世界に来てしまったのか。その理由も、帰り方も。意味も。


「お前の方はどうだ」
「……え、なにが」
「そろそろ外に出る気にはなったか?」
「………。」


リヴァイはこうしてたまにこのようなことを私に聞いてくる。

まったく迷惑な話である。


「…外には出ない。ぜったい」
「意固地なやつだな。一生出ないつもりか」
「……知らない」
「せめて趣味でも見つけたらどうだ」
「趣味って何」
「何でもいい。あるだろ」
「ない」
「何がしたいんだ、お前は」
「……別に何も」
「ならどうしてそんなクソみてぇな面してる」
「……クソみたいな人生だから。」
「はっ…、そうしてんのはお前本人じゃねぇのか?」
「……。うるさい。変態」
「変態じゃねぇよ。」
「トランプつまんない。飽きた」
「はえーな」
「おなかすいた。なんか頼む」
「勝手に頼め」
「リヴァイ食べないの」
「俺はいい」
「なんで」
「腹減ってねぇ。」
「…あっそ、」


最終的にそっけないやり取りを交わし数分で終わったトランプを手放して、立ち上がる。それからネットでデリバリーを頼んだ。
あと一応、今家には何もないのでリヴァイが食べられそうなものも一緒に頼んでおいた。なんだかんだ遠慮しているのか彼はあまり食事を取ろうとしないのだ。



「…リヴァイ、これ…置いとくから、おなか空いたら、食べなよ」
「……、」


一人食事を済ませてから残ったリヴァイの分をテーブルに置いてそう伝えれば、ソファに座っていたリヴァイは背もたれに腕を掛けながら振り向き私を見ると少し眉を下げた。


「…ああ。」


その、柔らかい眼差しがなぜか少し恥ずかしくて、なんとなく目を逸らす。それから私は黙ったまま自分の部屋に戻り暫くの間一人で過ごした。







『そうしてんのはお前本人じゃねぇのか?』


リヴァイと一緒にいても、別に楽しくはない。むしろいろいろとうるさいしムカつくことが多い。


「………、」


こんなふうに引きこもってからは家に両親やお姉ちゃんが居ても自分から話しかけることなんてなかった。部屋を出るのも必要最低限の時だけ。それもなるべく顔を合わせないようにしていた。


「──…」


なのに。






「…リヴァイ。トランプしようよ」
「……。」


どうして私は、自ら部屋を出ているのだろう。


「……またかよ。」


呆れたような顔をして私の方に向き直ってくれるリヴァイを見て心が落ち着くのはなぜなのだろう。


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