「ナマエッ!!」


柄にもなく慌てた声を上げたリヴァイは私の名前を呼ぶ。意識を手放す前に聞こえたその声に胸が痛んだ気がした。


それはエレンを交えハンジ達と実験をしていた時のこと。最初は巨人化も出来ず悩んでいたけどそれも少しずつ解消しながら試行錯誤して実験をしていた。
ハンジはモブリットと相談しながら考え、リヴァイもエレンと話したりと周りがこの実験を上手く進めるように動いている中、私はというと特に何もしていない。いつもハンジと実験する時もそうだ。何をするのか考え決めるのはハンジで、私は言われる事をやるだけ。私が考えたって何か思いつけるわけでもないし邪魔しないよう黙ってるのが一番いい。

だから少し時間が空いたので、木の陰で一人涼んでいた。やる事もなくボーっとしてなんとなくリヴァイを視界に入れてリヴァイの事を考える。
このまま死ぬまでずっとこんな関係で居ていいわけがない。居たくない。ハンジが言っていた、「距離を置いてるのはナマエも同じなんじゃないの?」という言葉。あれが頭から離れない。
なら、全部リヴァイに話せばいいの?私が調査兵団に残ったのは、あなたが居るからだと。



「ナマエー、もう一度試してみるよー」
「……」


リヴァイの重荷になるような事は死んでもしたくない。私の命を背負わせたくない。

簡単には答えが出ないままハンジに呼ばれそっちへ向かう。エレンは今度こそ巨人化しようと意気込んでいる。それを横目で見ながらも私は違う事を考える。

もし、もしも私に何かあった時、リヴァイは哀しむ。確実に辛い思いをする。そしてその上それが、自分のせいだと感じてしまったら。自分が居るせいで私は死んだのだと、そんなふうに考えてしまったら。
だから私は言えない。私が調査兵団に残ったのはリヴァイが居るからだと。そんな事を言えばリヴァイはもしもの時自分を責めるだろう。自惚れているわけじゃないけど、私に関してリヴァイは割り切った考えを持つ事は出来ないと思う。私に何かあった時リヴァイがこれ以上に自分を責めるのは絶対に嫌。

(…だから、だから私は…)



「ナマエ!危ない!!」
「…え?」



ハンジに呼ばれ顔を上げると大きな影が視界を塞いだ。そして突然体中に強い衝撃と痛みが走り圧迫感が私を襲う。(多分巨人化できたエレンが暴走し)何かされたのだと気づいた頃にはもう遅かった。


「ナマエッ!!」


避ける事が出来ず頭を打ち、息苦しさを感じているとリヴァイの声が聞こえた。そしてそれが近づいてきた事はなんとなく分かったけど、それからすぐに意識が飛んでしまった。





思えば前にも一度こんな事があった。

あれはまだリヴァイと二人調査兵団に残ってそんなに日が経ってない頃の事だった。
壁外調査で私は雨が降る中自分の班とはぐれ一人で馬を走らせていた。正直嫌な記憶が蘇ってきていたしすごく心細かった。その時はリヴァイと私は同じ班で、リヴァイは私を常に気にかけていたし一人にしなかったからはぐれてしまった事にかなりの不安を感じて気分が悪くなっていた。
だから近くの巨人にすぐ気づけなかったのかもしれない。その存在に気づき立体機動に移った時には遅く、そいつは私に襲い掛かる。馬鹿みたいにデカイ手に強く握られ、骨が折れる音が自分でも聞こえた。死ぬと思った。でもその時、一瞬頭にリヴァイが浮かんだ。私がここで死んだらリヴァイはどうなるのかと。
そう考えるとこんなところで死んではいけないと力が湧いた。巨人が私を食べようと手の力を緩め口を広げた時、その瞬間を狙って指を切り落としそこから脱出した。だけどほとんど力も残ってなくて、そこからは気力だけでなんとかそいつを仕留めた。
そしてリヴァイのところへ戻ろうと一歩踏み出せば膝から崩れてしまった。どこの骨が折れてるか分からないほど全身が痛み、立てなかった。そのままそこで気を失い、それからの事はあとからハンジから聞いた。
そのあとリヴァイが私を見つけたらしく、助けてくれたと聞いた。その時のリヴァイは少し取り乱していてずっと私を呼びながら側から離れなかったという。

私が目を覚ましたのは壁に戻ってきて二日目の事だった。
その時もリヴァイはすぐ側に居て、私が起きるのを待ってくれていた。目が合うと何とも言えない顔をして、手を握ってきた。顔を伏せ黙ったまま強く握られ、痛かったけどその手が少し震えていた事に気づいていたから、何も言わずに片方の手でリヴァイの髪を撫でた。


その時、強く思った。
リヴァイにこんな思いはもうさせたくないと。だから私は、それからも言わなかった。言えなかった。調査兵団に残った理由はリヴァイとは関係ないと言って突き放したんだ。


あの時みたいな思いをさせたくないと、そう強く思ってきたはずなのに、何で私は今になってまたリヴァイにあんなふうに名前を呼ばせてしまったんだろう。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -