最近、リヴァイと会う機会がだんだんと減ってきている。

なぜかと言えば理由は明確。調査兵である彼が『兵士長』という名の役職につき、前よりもやることが増えたからだ。つまりは仕事が忙しくなったから。

それは仕方のないことで、むしろこうなるであろうことはお互いに分かっていたし、兵士長の話がリヴァイに来た時だって彼は私にもちゃんと話をしてくれた。



「ごめんな」



だから何も気にする事はないのに。
なのに会えばいつも謝ってくる。



「謝らないでよ、リヴァイ」


こんなふうに久しぶりに酒場で会っていても、どこか申し訳なさそうで。


「私は大丈夫だから…気にしないで?」


笑って、どうにか安心させてあげたいのだけど。


「……なぜ、笑っていられる」


リヴァイは眉根を寄せる。


「なぜ、って」
「文句くらい、いくらでも聞く。言えよ」
「文句って……。ない場合は?」
「ないわけねぇだろ……」
「でも、ないんだもの。」
「……そんなわけあるか。こんなに、会えてねぇのに」
「今は会えてるじゃない」
「そうじゃねぇだろ……」
「でも来てくれた。」
「だが、すぐ戻らなきゃなんねぇ」
「そうなの?」
「ああ……」
「……。忙しいのに、会いにきてくれたんでしょ?それだけで十分だよ」
「……暫く家にも行けてない」
「そうだけど……このまま一生ってわけじゃないでしょ?」
「そうだが、」
「そういう時もあるよ。」
「それでも、こんな…お前の仕事の合間にしか、」
「そんなの気にしなくていいって」
「だが、」
「私は顔が見れただけでも嬉しいんだから」
「ッだから、そうじゃねえ!」
「っ、」


リヴァイは唐突に声を荒げ、ドンッと拳をテーブルに少し叩きつける。


「……そうじゃ、ねぇだろ……。」


それから目の前のお酒を一気に呷った。


「……リヴァイ。飲むペース早いよ。疲れてるみたいだし、あまり飲まない方が…」
「何でお前は、平気なんだ」
「え?」
「俺と会えなくても平気なのか」
「……そりゃ、寂しいわよ。」
「なら、どうして」
「だけど、私はそれ以上にリヴァイのことを応援したいから。」
「………だから、何で」
「それはもちろん……好きだから、じゃない?」
「……」
「…そう思えるから、好きなのよ。」
「……好きだったら…もっと、束縛したいとか、ねぇのか」
「束縛ねぇ……。」
「もっと、愚痴とか、言えよ。どうしてそこまで俺に合わせようとする」
「別にリヴァイに合わせようとしてるわけじゃないけど?」
「……、」
「私はただ、リヴァイのやりたいことをやりたいようにやってほしいの。悔いの残らないように。だってそれは、リヴァイの人生でしょ?私との会う時間が減ったとしてもやるべきなのよ」
「……俺は…俺の、やりたいことを優先している。お前にとってそれは、関係のないことだろうが。俺はお前を最優先に行動出来ていない。なのにお前は、俺のことを優先して考えてくれている」
「そうね。だってそれが私の幸せでもあるから」
「…だから……俺はそれが、」
「ていうかさ。そもそも……リヴァイはそれでも側に居てほしいって、言ったんじゃなかった?」
「………、」
「私の残りの人生、ぜんぶリヴァイにあげるって、言ったじゃない。忘れた?」
「……」
「私はリヴァイの人生を一番近くで感じられたらそれでいいの。リヴァイに誰よりも愛してもらえたらそれでいい。私はね、リヴァイと毎日欠かさず会いたいわけじゃないの。ただこれから先もずっと、一生、リヴァイと居たい。あなたの心の中にいたい。……分かる?」



私はそれだけで、十分すぎるくらい幸せなのだ。

もしリヴァイがやりたいことを諦めて私を優先してくれたとしてもそんなのは嬉しくない。


「…いや…、まぁ、毎日会えたらそれはそれですごく嬉しいんだけどさ。」
「……ナマエ」
「っでもとにかく!もうそんな顔しないでよ?せっかく久しぶりに会うのにこれじゃあつまらないじゃない」
「っナマエ、」
「ん、なに?」
「………悪ぃ。」
「……、うん…別に、いいよ?…リヴァイは私のこと考えてくれたんでしょ?」
「……それも、あるんだが……お前に会えないことに、俺自身もイラついてたのかもしんねぇ」
「…そう?…でも、だとしたら…嬉しいよ?会いたいって、思ってくれて」
「そんなもん、当たり前だろ……。」
「っふ、…そりゃそうよね。ありがとう」
「………、」


するとリヴァイは次第に落ち着いてきたのか少し眉を下げて、半分呆れたように表情を和らげ私を見る。
その瞳がどこか優しくてそれに見つめられた私はほんの少し胸を高鳴らせる。


(──ああ、ダメダメ。今は仕事中なのに)


そもそも、リヴァイがまだお客さんとしてここに来ていた頃は接客としての意味も込めて普通に話していたけど、今こうして恋人として来ているリヴァイと仕事中に話し込むのはどうなのだろう。

と、そんなことを真面目に考える私とは裏腹に、リヴァイは立ち上がると同時に私の手首を掴みそのままグッと引き寄せその場で堂々と唐突に唇を奪ってきた。


「……?!?」


片手をポケットに突っ込みながら伏し目がちなリヴァイとは真逆に驚きで目を見開く私は体を強張らせながら一瞬で頭にいろんなことを過ぎらせる。

──ここは職場で、仕事中で、周りには人が居て、見られていて、リヴァイとのキスは嬉しくて、だけど突然すぎるし、何より仕事中だし、人目のつくところでこんな、おかしい、何で、酔っているのか?


いろいろと考えを巡らせていれば唇が離れ、されるがままに目が合う。


「ふ……何だ、その面は」
「っ…、」
「真っ赤だが」
「…バッ……!!何、して…っ!?」
「お別れのキスだが」
「はっっ!?なにが!?」
「もう帰るからな。」
「はっっ!?だからって普通もっと場所とかタイミング考えるでしょ!?」
「暫く会いに来れねぇ。キスくらい普通だろ」
「あぁっもうっ……バカ…なの……!?(恥ずかしい……!!)」


体中の熱を顔に集め両手で覆い俯く私の頭を一撫でし、リヴァイはお金をテーブルに置く。


「…じゃあな。また仕事の合間を縫って会いにくる。」
「っちょ、ちょっと待って……!」
「何だ?」
「いやこの空気の中一人残される私の身にもなって……!絶対誰かに見られてたって……!!」
「気にすんな。」
「気にするに決まってるでしょ……!?」
「っふ、」
「なに笑ってんのぉ!」
「…そうは言われても俺はなかなか来れねぇからなぁ…。他の客にお前を取られねぇようにしとかねぇと。」
「…なにそれ……!?誰が取るのよ!?」
「さぁな。だが居るかもしれねぇだろうが。」
「いないよそんな人リヴァイ以外に!」
「そうか?お前が気づいてないだけかもしれねぇだろ」
「いないって……!!」
「まぁいい。とにかく俺は帰る」
「ひ、卑怯者ぉ!」


さっきまでのしおらしさをどこへ置いてきたのか、余裕綽々なリヴァイは店を出て行こうと足を進める。


「(恥ずかしくはないのか……!)」


その背中を睨みつけながら、周りからの視線を少し感じつつも、だけど見送ろうと大人しくそのままそれについて行く。

…まったく、何を考えているんだか。





「……いつまで顔赤くしてんだ」
「…誰のせいだと……。」


外に出ると一度足を止め、振り返る。

そして。


「…ナマエ、」


真剣な表情へといきなり顔色を変えた。


「…ん…、なに?」


その顔に私も気持ちを落ち着かせ、ちゃんと向き直りそれを聞く。


「……必ず、お前を幸せにする。今すぐにじゃねぇが…いつか、絶対。」
「……うん」
「だから待っててくれ……悪いが」
「…ううん。悪くないよ。それに、今だって幸せだよ。いつもありがとう」
「……それは、俺のセリフなんだがな…」
「ふ…… 無理せずお仕事がんばってね。兵士長さん」



そんな言葉を最後に交わして、それからまたこっそりとキスをして、笑顔で別れた。

今日も本当に少しの間しか会えなかったけど、やっぱり触れ合えるのは嬉しい。顔を見れるだけでも本当に全然違う。


──だけど、正直頭の中ではもう。


(次はいつ会えるだろうか)


「………」


やっぱり、なかなか会えないというのは寂しいものがある。

まぁ、でも。

寂しい、けど。でも、大丈夫だ。



「(…さて。そろそろ仕事に戻らなきゃ)」



全てが思い通りにはならない日々の中でも、それでもこうして愛する人と想い合える毎日はそれだけで素晴らしい。

それだけで、頑張れるものだ。

いつだってどこでだって私は、彼の幸せを願っている。


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