「ハンジ、ああいうの言うのやめてよ。しかも新兵の前で」
「ん?何のこと?」
「ハァ… もう、本当イラつくな…。」
「んん?」
「…リヴァイとの事。」
「あぁ!好きだってこと?」


思わず拳に力が入ってしまう。
あれからエレンを解放してあげて部屋にはハンジと二人になった。ため息混じりで話すと特に気にしてないような素振りで返してくる。


「それさ、本当…いい加減に…」
「そんなに嫌なの?」
「嫌に決まってんだろ。」
「そうなの?」
「そうなの。」
「でもさぁ…好きなんでしょ?」
「……嫌いだってば。こんな…いつまでも…さ」
「…君らのその関係はいつまで平行線をたどるんだろうねぇ」
「リヴァイに聞いてよ…いやそっとしといて欲しいけど…」
「そっとしすぎだよ。ナマエは」
「……」
「全部本当のこと言えばいいのに。そうすればリヴァイだって何か変わるかもしれないじゃないか。」
「そんなの…」
「距離を置いてるのはナマエも同じなんじゃないの?」
「……。」


リヴァイが調査兵団に残ると自らの意志で決めた時、私もここに残ると決めた。その理由をリヴァイには話さなかったし、聞かれた時もリヴァイとは関係ないと言って言葉で突き放した。ハンジの班に入った時だって何も言わなかった。でも私にはそうするしかなかったんだ。

リヴァイも私もあの頃から時が止まってしまったみたいで、いつになったら動き出すのかと待ってるけど今もまだ変わりそうにない。


「二人ともこのままじゃいけないと思うけどなぁ私は。」
「……分かってるよ、そんなの…」


ハンジの言っている事は正しい。正論だ。それは分かる。だけど私はリヴァイを傷つけたくない。そうするには、どうしたらいいのかが分からない。


「まぁ私が口出しする事じゃないのかもしれないけど。」
「……ハンジは巨人の事だけ考えていればいいよ。」
「君ら不器用すぎて気になっちゃうんだよねぇ」


私達がこうなった原因については、リヴァイも私もなるべく触れないようにしている。今でも、痛むから。


「……ハンジ、」
「ん?」
「夜風に当たってくる。」
「…うん。分かった。」
「ここまで来たらエレンと一緒に本部に向かうでしょ?」
「そうだね。朝まで勝手に寛がせてもらおうか。」


ヒラヒラと手を振るハンジに背を向け外へと向かう。今日はキレイに星が見れそうだ。





「……、」


随分と久しぶりに、ベッドでゆっくりと眠った。
目を覚ますと部屋は少し薄暗く夜明けである事が分かった。体を起こし部屋を見渡すとそこにアイツの姿はなく、代わりにアイツのジャケットが俺に掛かっていた。

心配くらいする、と言っていた時の顔。まだ俺に対してそんな事を思うのかと少し意外だった。


「…アイツ、どこに行きやがった…」


ソファで寝るとか言ってたくせに居ねぇじゃねぇか。
そんな事を頭の片隅で思いながらベッドから下り灯りをつける。イスに座り、伏せられた書類を手に取って目を通す。休んだら休んだでその分の皺寄せも俺に来るという事を理解しているのだろうか。アイツは。


「……ハァ。」


背もたれに腕を掛け、少しだけ眺めて書類を手放す。
アイツの顔がチラついて頭に入ってこない。


「…チッ」


一人舌打ちをしナマエのジャケットを手に取って部屋を出た。仕方ないからあいつらが居るであろう部屋に足を向かわせる。

ジャケットを置いたまま帰ったりはしないはずだ。
部屋が近づいても声は聞こえないが、灯りが漏れてる事から誰かしらは居るんだろう。


「…オイ、」
「あ、リヴァイ。おはよう」
「…アイツはどこだ」


部屋を覗くとそこにはメガネの姿しかなかった。


「ナマエなら外に行ったよ。」
「…そうか」
「いくのー?いっちゃうのー?」
「うるせぇ黙れ。」
「多分あれだよ?上じゃない?」
「…分かってる。」


その言葉を聞いて一度部屋に戻り、めんどくせぇが立体機動装置をつける。それから外へ出て空を見上げるとまだ星が見えた。


「……。」


そのまま屋根の方に視線を移すと人影が見え、それを確認するとアンカーを出した。





夜風を感じながら星を見上げ、静かにただ過ぎるだけの何でもない時間。その時間が私は好きだ。

古城の一番高い屋根に上り星空をずっと見ていた。あれから時間が経ち少しずつ明るくなっていく空。何をするわけでもなくただ一人で居ると、近くでアンカーが建物に刺さる音が響いた。そっちの方を見るとその音はあっという間に近くなりそして姿を現す。

そこには、わざわざ立体機動装置を身に付けたリヴァイが居た。そして座り込んでいる私を見下ろす。


「…お目覚めが早いんじゃないでしょうか、兵士長さん。」
「人の睡眠時間に口を出すくせにてめぇはこんな所で夜更かしか。」
「私は兵士長さんと違っていつでも寝れるから大丈夫。」
「それはそれでどうなんだ。お前そんなに暇なのか」
「それより城にアンカー刺してよかったの?」
「お前が先にやったんじゃねぇか。弁償しろ。」
「私には関係ない」
「なら聞くんじゃねぇよ。…それより、」
「え?…、ぶっ」


突然視界が真っ暗になり、何かを上から被せられた。


「ちょっと、何すん…」
「久しぶりに、ちゃんと寝た。」


取ろうとするけどその上から頭をぐりぐりと押され阻止される。そしてこれが私のジャケットだと気づいたのと、リヴァイの言葉で手を止めた。


「……」
「…返す。」


そう言うと頭を解放され、ジャケットをゆっくり取ればそこにはもうリヴァイの姿はなく下の方で着地の音が聞こえた。


「……ハァ。」


思わずため息を吐きジャケットを着る。

わざわざここまで来てちゃんと眠れた事を伝えてくれたのは良かったけど、隣に座ってくれるわけでも部屋に戻ろうと言ってくれるわけでもない。
この微妙な距離をどうすれば変えられるのか分からないまま、また朝日が昇った。


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