「腹減ったな」


お昼が過ぎた頃にリヴァイがそう言った。


「……ふは、じゃあー、食べよっか 」




ゆったりと時間は流れ、今は太陽に照らされながらリヴァイの隣に座っている。

──ありがとな、と言ってくれたリヴァイは僅かに寝惚けていたようで、少しすると気恥ずかしくなったのか体を起こした。

だけど私も特に何を言うわけでもなく、リヴァイもそれ以上は何も言ってこなかった。



「リヴァイ朝は何食べてきたの?」
「何も食ってない」
「え。食べてないの?」
「ああ」
「えぇ……そういうのは早く言ってよ。じゃあお腹すいたでしょ」
「だからそう言ってるだろ」
「もうお昼過ぎちゃってるじゃない」


私はそそくさと作ってきたものを取り出し、それをリヴァイに渡す。


「サンドイッチでよかった?」
「…ああ、何でも。」
「あ、そうだ。あとクッキーも作ってきたの」
「………、」
「それと紅茶も。冷めてもおいしいやつ」
「………それは、懐かしいな」
「え?」
「…お前が作ったクッキー。ガキの頃も作ってたよな。」
「あ、あぁ、…そうね」
「……あの、クソまずかったクッキー」
「く、クソまずかった!?ウソでしょ!?」
「……ふ、」
「確か普通って言ってなかった!?」
「いや違う。『まぁまぁ』だ、『まぁまぁ』。」
「まぁまぁも普通も一緒でしょっ ウソつかないでよねっ」
「 はッ、…悪い悪い」
「……。もー、そんなこと言う人にはあげないわよ?」
「別に俺は構わねぇが」
「なんでよ?!食べてよ!」


今は、あの頃と違ってそこそこおいしく作れるようになったのに。意地悪く笑うリヴァイは子供みたいだ。


「…いや、冗談だ。ちゃんと分かってる。お前が料理うまくなってるのくらい」
「…ふーん……(疑惑の目)」
「この前食ったシチューも美味かったしな」
「……え、ほんと?」
「ああ。」
「……ならよかったけど……。」


そう言いながらもリヴァイはサンドイッチを食べて、私は紅茶を入れる。

(でもクッキーのこと覚えててくれたのが嬉しい……とか)


「………」



…ああ、なんだか、ここは穏やか過ぎて忘れてしまいそうになる。

壁の向こうに巨人がいること。リヴァイが調査兵ということ。


「(こんなふうにずっと、過ごせたらいいのに)」


そんな、口には出せないその気持ちを、私はサンドイッチと一緒に飲み込んだ。





「……ナマエ」
「…ん?」


サンドイッチを食べ終えて、それからクッキーも少し食べて、「うまい」という言葉をもらえて、そして今度は二人で寝転んでいる。日向ぼっこだ。


「…お前はこれで良かったのか?」
「……ん?なにが?」
「ただこんなふうにダラダラとするだけで」
「……何で?だって私の提案じゃない」
「そうだが……これは俺を休ませる為なんじゃねぇのか」


すぐ隣で寝転びながらこっちを見るリヴァイに、私もそっちを向く。


「…別に、それだけじゃないよ。私だってリヴァイとこうやってゆっくりできるの、嬉しいし。これだけでも十分」
「………、」


思ったままの本心を伝えれば、リヴァイは黙ったあと体を起こし、私の方へ顔だけ振り向く。


「……お前は、他の男にもこんなことをしたりするのか?」
「………、」
「………。」


それは、確か、“俺は特別なのか”と、前にも同じようなことを聞かれたことがある。


「……」


その言葉に私も体を起こし、同じ目線までくる。


「…してると思う?」
「………さぁな」


あの時ははぐらかしてしまったけど。


「……ふ、…してないよ。リヴァイは特別。そもそも男の知り合いなんて居ないし」
「…本当か?」
「うん。考えてみたらリヴァイだけかも」
「………あの、お前んとこの店主は」
「え?……マスター?」
「…ああ。仲良さ気に話してるだろ」
「良さ気って。……まぁマスターは、確かに…そうだけど。でもああ見えてあのひと結婚してるし娘さんも居るよ?二歳くらいの」
「は?そうなのか?」
「うん」
「………マジか。(見えなかった)」
「たまに子供の話とか聞くけど、その時のマスターってすごく優しい顔するのよね。…本当に、娘さんのこと大切なんだろうなーって…分かるくらいに。」
「……、」
「なんか、聞いてるこっちまで幸せになるっていうか。…心があったまるっていうか……そういうの、素敵だなぁって思う」
「……そうか」
「……まぁ、うん。だから、つまり。私にはリヴァイしかいませんよ?」
「………、」


──だけどもちろん、お客様で話す人は普通にいるけどね?とそう言えば、リヴァイはふっと表情を緩めた。


「…だろうな」







「リヴァイ、家で夕食たべていく?」
「…いや。いい」
「いいの?」
「ああ。これ以上お前と居るとただの腑抜けになっちまいそうだ」
「……ふは、何それ。どういう意味」


夕方になり、丘から帰ってきた。



「…ナマエ、今日はありがとな。かなりゆっくり出来た。身体的にも、精神的にも」
「うん、よかった。私もすごく穏やかに過ごせたよ。ありがとう」


休日を終えれば、リヴァイは調査兵に戻る。


「近いうちまた飲みに行く」
「…はい、待ってますよ」


リヴァイは表情を緩め、足を踏み出す。


「じゃあな」


その言葉に私も手を振る。


「……、」


そのまま歩いて行くのを見送り、やがて姿は見えなくなった。


「………。」



あああ…終わってしまった。

リヴァイとの休日が。



「(……でも、また、お店に来てくれるって言ってたじゃない)」


きっとまた会えるというのに。

──何をこんなに寂しがることがある?


「………、(違うか……)」


というか、落ち込んですらいる。


「…ダメだなぁ…私」


リヴァイが、調査兵という現実に。


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