朝日に照らされ目が覚めて、私はむくりと体を起こした。ぼーっとしながら、そのままゆっくりと顔を動かし窓から空を見上げれば青い空が目に入る。


「……いーてんき……」


洗濯物がよく乾きそう。そんなことを思いながら、寝惚け眼のままベッドから下りた。





「…よし、これでオッケー」


洗濯物を干し終え、腕をぐっと上へ伸ばし空を見上げる。


「……っ本当、いい天気だなぁー」


息を吐きながら両手をだらんと下ろし、空を瞳に映したまま考える。

──今日、調査兵団は壁の外へと出て行った。壁に守られていない、外の世界。ここからは知ることの出来ない世界。

リヴァイはきっとこの空よりもずっと広くてずっと自由な空を知っているのだ。

私は子供の頃のリヴァイしか知らないけど、でも今のリヴァイはあの頃よりも真っ直ぐに前を向いて、ちゃんと目的を明確に生きている。リヴァイがそれを見つけることが出来て、本当に良かったと思う。

何も、誰もいない、なんて。もうそんなふうには思ってほしくないから。


「(……まぁ、リヴァイももう子供じゃないんだから、大丈夫なのかもしれないけど)」



私は太陽の光に目を細め、手をかざす。


「…まぶし、……」


リヴァイは、今、しっかりと自分の足で進んでいる。
リヴァイの今を、進んでいく姿を、それを見ることが出来て私は嬉しい。

まぁ壁外調査に行くのはやっぱり心配だけど、でもリヴァイならきっと大丈夫だろう。

今までは不安で憂鬱になったりもしていたけど今日は心が少し軽い。リヴァイが私の目を見て言ってくれたからだろうか。必ず帰ってくる、と。


「…うん。大丈夫」


あんまり、暗い顔は見せないようにしようと思った。これからもリヴァイのやっていることを否定したくはないから。



「(待ってるよ、リヴァイ)」


無事に帰ってこれますようにと、そっと空に願い、表情を緩めそれから家の中へと戻った。





「うーん、どれにしようかな…」


あれから朝食を軽く済まし家の掃除をして、外へと出てきた。いつも買っているお花屋さんに寄り、今それを吟味している。


「(どのお花にしよう……)」


部屋に飾るお花。いつもはわりとすぐに決まるんだけど、今日はなんとなく迷う。

口を尖らせてあごに手を当て考えていると、その時ふと、この前リヴァイが言っていた言葉が頭に過ぎった。



(地下街にナマエが居ると…そこに、白い花が咲いてるみたいで……キレイだと、思った)



「…………、」


なぜか今になってそれを思い出す。
リヴァイの言葉が頭に響くと体の力が抜けていき、手を下ろす。

──いや、なぜその部分を思い出した?


「…… っ」


どうして、それを。


「………… 、」


え、恥ずかしい。



「(…ちょ…なに…何いきなりそこだけ抜粋して思い出してんの、私。え、どうしよ、なんかほっぺ、熱くなって、きた)」


今更頬を赤くして、両手でそこを押さえる。

あの時は正直それどころじゃなかったし大して何も思わなかったけど、でもこれ冷静に考えるとものすごく恥ずかしくはないか?

だって花って。花みたいでキレイ、って。なに、それ。ロマンチストか!
いっつもあんなふてぶてしい顔をしといてそんなことを思ってたとか何なんだそれは。


「……っ、」


いやいや。ちょっと待って。ていうかそもそもそれは子供の頃の話だし、別に今更照れる必要なんかないじゃないか。

そうよ、そうでしょ………




「──お姉さん、どうしたの?どれにしようか迷っているの?」
「……っえ、?」
「今日は随分と悩んでいるみたいだけど」


悶々と考えているとお店の人に声を掛けられ、私は我に返る。


「もしかしてプレゼントですか?」
「あ………い、いえっ、ご、ごめんなさい!」


ハッと慌てる私を見て小さく首を傾げ、不思議そうに見つめられる。


「(はずかしい!)っあ、あのっ、……っこの、白と赤のお花、これ一本ずつ下さいっ!」


別の意味でも恥ずかしくなり、私は早急にそのお花を選んだ。







「……はぁ。」


家に着き、さっきのことを思い出しため息を吐く。


「(…もう…まぁ…いいや…気にしないでおこう)」


だけどとりあえず気を取り直し、花瓶を手に取りそれに水を入れて買ったお花をそこに挿した。



「……ん。かわいい」


白と赤の花は部屋も気分も明るくしてくれる。やっぱりお花はいいなぁ。

私は思わず頬を緩ませ、リヴァイにも見せたいなとそんなふうに思った。


「………、」


──白と赤の、ガーベラ。


「……早く顔が見たいよ」


花言葉は「希望」と「常に前進」。

リヴァイにぴったりの、花だと思った。


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