「え、リヴァイって地下街でエルヴィンさんに誘われて調査兵団に入ったの?」 「………誘われたと言えば聞こえはいいが……。まぁ、そんなところだ」 「そうだったんだ……え、でも…あれ?じゃあ訓練兵団には行かなかったの?」 「…ああ。俺は地下街を出てそのまま調査兵団に入った。」 「…へえー……すごいね。そんなこと出来るんだ」 「異例の入団だったみたいだがな」 「…そうよね。そんなのあまり聞いたことないし……。でも、という事はリヴァイが即戦力だったってことよね?ハンジさんから聞いたことあるけど、リヴァイは最初から巨人と戦うのも立体機動も上手かったって言ってたし」 「……そうなのか」 「エルヴィンさんとは元々知り合いだったの?」 「…いや、違う。アイツがいきなり勝手に来ただけだ」 「いきなり……。じゃあ…どうしてリヴァイは、調査兵団に入ろうと思ったの?」 「……」 「だって地下からは出れても、調査兵になるなら壁の外に出るってことじゃない?怖くはなかったの?」 「………、」 いきなり巨人と戦うなんて、そんなの私だったら絶対に出来ない。しつこく誘われても断っちゃうと思う。でもそれはリヴァイがそれだけ見込みがあったからということなのだろうか。わざわざ地下街まで誘いに来るくらいだし。でも、確かにリヴァイは喧嘩とか強いと思うけど、それでも巨人が相手となると話は違うはずだ。本来なら訓練兵から始めるものをそれをすっ飛ばして入団させるなんて少し無謀ではないのか?そもそも立体機動ってそんな簡単に取得出来るようなものなの?地上には出れるのかもしれないけど、だったらまだ慣れている地下街の方がいいんじゃないだろうか。 どうしてリヴァイは、調査兵団に入る気になったのだろう。 「…まぁ、いろいろあってな」 いろいろと考えているとリヴァイはコップの中に視線を落とし、そう言った。 「………、」 まずい。 むやみに聞きすぎた。 その声のトーンに、私はハッとしリヴァイを見る。 「……。」 「…ごめんなさい。ちょっと聞きすぎたね」 「……いや。別に構わない」 これはきっと、違う。 いくら『分かり合おう』と言っても、人には誰にだって話したくないことはある。気になるからといってそれをむやみに聞き出そうとするのは、それは違うだろう。 「…お前は、エルヴィンを知っているのか?」 「……あ、うん。前に何回か来てくれたことがあってね。ハンジさんとかと」 リヴァイはお酒を一口飲みコップをテーブルに置いて、私を見る。 今日も変わらず私は仕事の合間にこうして話をしている。 「…大分会ってないけど……エルヴィンさん、元気?」 「……奴の体調なんざ俺は知らねぇが、スカした面して生きてることには違いない。」 「そっか……って何それ、仲良くないの?」 「なぜ俺がアイツと仲良くする必要がある」 「………、まぁでも良かった。元気なら」 お店に来なくなった調査兵の人達のことは、正直聞きにくい。聞けない時もある。生きているかどうかが分からないから。 だけど、ちゃんと生きているのなら良かった。 「………あ、そういえば」 「……あ?」 そしてふと思い出し、私は顔を上げる。 「リヴァイ、もしかしてそろそろ壁外調査があるんじゃない?」 「……あぁ」 「………、」 ──壁外調査。 「………そ っか……。」 壁の外に出る。 調査兵は巨人と戦う。犠牲を覚悟して、心臓を捧げて。自由を、求めて。 それはきっととても辛くて、だけどとても素晴らしいことなのだろう。 「…調査兵団の人達は……覚悟があって、勇敢で……広い視野で物事を見ることが出来て……すごいよね。…私なんて、自分の生活のことしか考えられないのに。この世界のことまでなんて考えられないや」 巨人と戦って、失って。壁の外はそんな世界なのに。 その先に待つ自由の為とはいえ自分の意思でそれに向かっていくなんて。どれだけの勇気がいるんだろう。 私には到底出来ない。 「…お前は、お前の世界で精一杯生きてりゃそれでいい。」 「……え?」 「調査兵が、…俺が、戦う。だからお前は俺がこうして息を抜ける場所を作ってくれたらそれでいい。そういう場所を作るのがお前の仕事だろ」 「………、」 「…俺がちゃんと戦えるように、お前はここに居ればいい」 「………私は、リヴァイの為だけに…生きろってこと?」 「違う。人にはそれぞれ役割があるってことだ。お前はお前の出来ることをすればそれでいい。それが他の人間の為になることもある」 私の出来ること、…か。 「……でも…リヴァイは、戦うことが出来て……それは、すごいことだよね」 なのに、行ってほしくない、だなんて。 そんなふうに、少しでもそんなふうに思ってしまう自分が嫌だ。 「…ナマエ、」 だけど私は知っているから。帰ってこなかった調査兵の人達のことを。 「……ん、…?」 リヴァイは少し俯く私の顔を見上げ、口を開いた。 「俺は、ちゃんと帰ってくる。だから心配すんな」 「………、」 私は今、ものすごく分かりやすい顔をしているんだろうな。 「そんな顔はしなくていい」 「………けど、心配は、するよ」 「…ハンジから聞いてんだろ?俺なら大丈夫だ」 「……そんなの、関係ない」 「あ?」 「リヴァイが強いとか弱いとか、そんなの……。」 「……、」 「心配は、する。」 「………」 ──でも、だけど。 きっと私に出来ることはそれだけじゃない。 「…心配はするけど、……でも、後押しもしたい。リヴァイがしていることは誰にでも出来るようなことじゃないと思うから。……だけどそれは、リヴァイが調査兵だから…とか、それだけじゃなくて……私は、リヴァイが見つけたものなら、それが何だろうとちゃんと応援したいの。やりたいことがあって、自分の道を進もうとしているのなら、それがたとえ壁の外に出て巨人と戦う危険なことだったとしても、ちゃんと頑張ってほしくて……やり遂げてほしいっていうか……」 私は彼に、何も諦めてほしくないのだ。どうして調査兵団に入ったのかは分からないけれど、でもそこでリヴァイが目標を見つけられたことは、やっぱり素晴らしいことだから。 「…でもね、それでも心配なことには変わりないから……だからせめて、それくらいは、させてほしい。…心配しなくていい、なんて……言わないで…?」 「………、」 リヴァイが戦う限り、心配な気持ちは絶対に拭えない。 「……そうか」 だけどそんなふうに思うことだって別に悪いことではないはず。 「なら、お前は俺を心配しまくってずっと俺のことだけを考えていろ。それ以外に何も考える余裕もなくなり仕事も手につかないくらい俺を想っておけ。そして壁外から帰ってきたら泣きながら俺に抱きついてこい。」 「………なにそれ。急に極端ね」 「心配させろと言ってきたのはお前の方だろ?それにそれくらいの方がやりがいもあるってもんだ」 「……ふ、あぁそう。…なら、検討しとくわ」 「…は、するのかよ」 冗談なのか何なのか。そう言うとリヴァイは立ち上がり、ポケットの中のお財布へと手を伸ばした。 「…あ、ちょ。いらないよ?今日は」 「いや、いい。払ってく」 「え、何でよ…ツケにしといてよ…。」 壁外調査へ行く前の支払いは、ツケにしておいてほしいのに。 「もうそんなもん必要ねぇ。」 「……何で」 リヴァイはお金をテーブルに置き、私を見る。 「お前の口から、本物の言葉を聞くからだ。」 「………、」 「ナマエ、お前の想いがあれば俺はそれを活力に出来る」 「……。」 「だから、今ここで聞かせろ」 置かれたお金に視線を落としていた私はゆっくりとリヴァイを捉え、見つめる。 「……」 そして息を吸った。 「っリヴァイ、……絶対に、生きて帰ってきて」 思わず前のめりになり一歩近づきそう言えば、リヴァイはふっと口元を緩める。 「…ああ。分かった。必ず、帰ってくる」 ハッキリとそう告げて、そのまま私に背中を向けた。そして振り返ることなく歩いて行く。 少しずつ、私との距離が開いていく。 …別れというものはいつどこでくるのかは分からない。もしかしたらもう二度と会えない可能性だってある。 「……」 ──私は知っている。どんな信念を持っていても帰ってこれなかった調査兵の人達のことを。 「……いってらっしゃい」 だけど、信じられる気がした。 “必ず帰ってくる” リヴァイの、その、真っ直ぐな言葉は。 |