エレン・イェーガーという新兵の子が巨人になれるという事で、しかも調査兵団で引き取ることになりその上リヴァイ班所属──つまり私と同じ班になった。





「君がエレンくん!?巨人になれるっていう!」
「………あ、…は、はい……」
「すごいね!すごいね!どんな感じなのっ?」
「え、あの……」
「何で巨人になれるの?その時は項削いでも大丈夫なの?エレンくんに影響はあるの?」
「……あ、えっと……、」
「エレンくんっ、巨人になった時暴走したこともあるって聞いたけどその時は項を削いじゃっても大丈夫?…いい!?強い!?エレンくん巨人は普通の巨人よりやりがいある!?楽しい!?楽しませてくれる!?」
「え、ちょ、な…なん……、」
「オイ、ナマエ」


エレンくんに詰め寄っていると、後ろから兵長の声が聞こえた。そのまま振り向けばなんとなく面白くなさそうな顔をした兵長が居た。


「離れろ、危険だ」
「え?……わわッ、」


そして私のジャケットの襟を引っ張りエレンくんから離した。

危険だ、と。


「っ……、そう…ですよ。俺…暴走する可能性もありますし…、」
「そうだ。だから気をつけろ、ナマエ。てめぇがエレンを殺しかねない。」
「はい!気をつけます!エレンくんは同じ班の仲間なのでちゃんと大切にします!」
「ああ、そうしろ」
「…………。え?」
「……何だ、エレン。その面は」
「…ぁ、…いや……あの、危険って……俺が危険……ってことですよね?」


エレンくんは眉根を寄せ、兵長を見る。


「…違う。危険なのはこいつだ。」


そこで兵長は私から手を放し答える。


「え……それは、どういう……」
「こいつは巨人を見たら俺の命令も聞かず見境なく突っ込んでいく奴だ。それはお前も例外じゃねぇ。ナマエならお前くらいの巨人が襲い掛かってきても余裕で倒せる」
「………、」
「えへへへ…… でも班員の巨人を見たことがないので分かりませんが、エレンくん巨人が暴走して襲い掛かってきたら私多分かなり燃えちゃうと思うんです。すごく楽しそうです。削いじゃいそうです」
「燃えんな。」
「っふは、」
「(何なんだろうこの人…兵長の命令を無視してまで突っ込んでいくとか……)」


ワクワクしながら兵長に笑顔を向けているとエレンくんからの視線を感じ、そっちを見れば怪訝そうな顔で私を見ていた。


「…あ、大丈夫だよエレンくん!ちゃんとエレンくん本体は傷つけないように削ぐようにするから!」
「……あ、はい…」
「もういいだろ。行くぞ」
「 はーい!」


人間が巨人になれるなんて、そんなことが出来るなんて、私はエレンくんに興味がありまくりだ。





「エレンくん、体調はどう?悪くない?」
「あ、はい。特には」
「そっかそっか!」


それからというもの。


「エレンくん!元気?よく眠れた?」
「おはようございます。元気ですよ」
「それは良かったー!」


私は、


「エレンくん!」
「…ナマエさん。お疲れ様です」
「お疲れ様!」
「……ナマエさんはいつも元気ですね」
「そーお?」


無自覚にエレンくんによく話しかけているようだ。


「エレンくーん!」
「…ナマエさん、」


「………。」


それを私が自覚したのは、兵長からの一言でだった。





「…お前、エレンのことが気に入ったのか」
「……え?」


深夜、兵長と二人っきりの部屋で久しぶりにソファでゆっくり過ごしているといきなりそんなことを言われた。ちなみに最近の兵長はエレンくんのこととかがあって何かと忙しそうなのだ。だから一緒に寝たりとかそういうことが出来てない。でも今は久しぶりに少しだけゆっくり出来ている。


「何でですか?」
「…やたらと話しかけてるだろうが」
「そうですかー?」
「お前がエレンに声をかけているのがやけに目につく。」
「………、」


でもたしかに。そうかもしれない。


「…なんか、巨人になれるっていうのが、気になるんですよね。」
「……。」
「興味深いです。」
「……そうか。」


エレンくん巨人はどんなふうに戦うのだろう。気になる。

そんなふうに思いながらも、聞こえてきた兵長の声になぜか少し違和感を覚え私は顔を上げる。


「……、兵長?」
「…何だ」


ああ、そうだ。この前私がエレンくんに詰め寄っていた時と同じ顔をしている。



「……兵長、もしかして…ヤキモチ妬いてます?」


今思いついたことを素直に聞けば、兵長はゆっくりと瞬きをする。


「………」
「……」
「……………悪いか」


そしてあからさまに嫌そうな顔をして、そう言った。



「……ふは。」


私は思わず笑い、ごろんと兵長のひざに寝転んだ。


「……兵長でもヤキモチとかするんですね」


私はそういうのあまりしないから。気づかなかった。

これからは気をつけよう。


「…お前が人に興味を持つのは珍しい。だからだ」


寝転んでいる私の目を見つめながら髪を撫でてくる兵長の手つきは優しい。それが気持ち良くて目を細める。


「私は兵長だけのものですよ?どんなにエレンくん巨人が面白そうでも私を満たしてくれるのは兵長しか居ません」


そう言ってゆっくりと体を起こし兵長の唇にキスをすれば、私も兵長も表情を緩める。


「…ほら、ね?」


心が満たされていく。


「………」


すると兵長は何も言わずそのままソファに私を押し倒し、上に覆いかぶさると親指で私の唇に触れる。
久しぶりに押し倒された私はそれが嬉しくて胸を高鳴らせた。

それから何度も押し付けられるように唇が触れ合い、私の瞳や頬は次第に熱を帯びていく。


「っ……へいちょう、」
「……。」


すっかりその気にさせられた私に、兵長は口角を上げる。




「……悪いが、今日はここまでだ。」
「……… えっ」


そして体を起こし何事もなかったかのようにそこへ座り直した。


「………。」


まさかの展開に私はしばらく黙り込み、そのまま動けなかった。だけど意識がはっきりしてくるとバッと起き上がる。


「……えっ!?どうして!?」
「何がだ?」
「えーっ!いやいや!しないんですか!?」
「しねぇよ。そんなことしてる間にエレンが勝手に巨人化でもしたらどうする」
「そんな!」


そんな、そんなそんなそんな。

だけど本当に何もする気のなさそうなその態度に、がっくりと肩を落としうな垂れると、兵長はポンと頭を撫でる。


「そんなことをしなくても、俺がお前を好きなだけで満たされるだろ?」
「っ……、」


それは、そりゃあ、そうかも、しれないけど。


「っいじわる、です……その気にさせておいて……、」
「はっ……お前が勝手にその気になっただけだろ」
「……。あんなキスをしといて……。ひどい」


しょぼくれる私を見てふっと笑った兵長は満足気な顔をしている。

なんとなく、くやしい。


私はすっと息を吸う。


「……今度っ、兵長にも仕返ししちゃいますからね!」
「仕返し?」
「そうです!兵長がその気になったところで、やめます!」
「……はっ。その時はお前自身が止まらなそうだけどな。」
「…そっ……そんな、こと……、」
「それに俺がその気になればお前にヤる気がなくても関係ねぇ。今みたいにその気にさせればいいだけの話だ。お前は簡単に落ちる。」
「………。」



たしかに。



「そうですね。その時は我慢できる自信がありません!」
「早ぇな。」


早々に仕返しを諦めた私はまたばさりと兵長のひざに覆いかぶさる。


「……兵長、今日は一緒に寝られますか?」


こうして二人でいられることが嬉しくて、ついつい欲が出てしまう私は自ずと甘えた声でそう聞く。寝るというのはもちろん普通に睡眠をとるという意味でだ。


「……あぁ…そうだな。これからもっと忙しくなればお前との時間もなかなか取れねぇだろうからな。今日くらいは一緒に寝とくか。」
「えっほんとですかっ?やったー!」


嬉しさから足をバタつかせれば埃が立つと怒られたがその声色は穏やかで、私はあまり気にせず顔を綻ばせたまま兵長に謝った。


それから久しぶりに兵長と二人でベッドに入り、私は兵長の温かい腕の中で眠りについた。


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