リヴァイさんが一年前、自分の世界に帰るとそこは私と過ごした時間と同じだけ時が進んでいたらしい。だからいきなり居なくなったリヴァイさんが普通に現れた時は、少し騒ぎになったんだとか。そりゃそうだよね。周りへの説明が大変だったみたい。そりゃあ、そうだ。



「リヴァイさん、こうやってまた触れ合えて……本当に飛び上がるほどめちゃくちゃ嬉しいですけど、でもここは一体、何なんでしょうか。私達はどうなっちゃったんですかね?」
「ああ……どうなってるんだろうな……」


私達は座り込み、謎の空間で向かい合って首を傾げる。


「……やっぱここはこういうことのプロに聞くべきだと思うんです。」
「何だよプロって。誰だよ」
「リヴァイさんですよ。」
「俺かよ」
「だってリヴァイさんは私の世界まで足を伸ばしてたわけですし…」
「俺だってワケが分かんねぇんだよ。……まぁだが、考えられることがないわけじゃない。」
「えっ、何ですか?」
「……お前、最後に覚えてる記憶は何だ?寝てたんじゃねぇか?」
「え……あ、そうです…。私は自分のベッドで眠ってたはず……って何で分かるんですか?」
「お前のその格好を見りゃ分かる。」
「………あ。」


今更ながら自分が今眠った時の姿をしていることに気がついた。

そういえば、リヴァイさんは私も見た事のある服装をしているな。ジャケットは着ていないけど、制服かな。スカーフもしているし。


「リヴァイさんは、こうなる前何してたんですか?」
「…俺は確か部屋で一人仕事の途中だったはずだが……まぁそれなりに疲れていたし夜も更けてたからな。イスに腰掛けたまま眠っている可能性は十分ある。」
「……え、座ったまま寝落ちとかそれどんだけ疲れてるんですか。ていうかちゃんとベッド使いましょうよ……何してんすか……」


ああ、そうだ。リヴァイさんは普段ベッドで眠らない派のひとだった。何だよそれ。だからそんなに疲れた顔をしているんじゃないのか。

心配で思わず眉を下げると、リヴァイさんはそれに気づいて口を開く。


「…気にするな。俺はその生活に慣れている。別に苦じゃねぇよ」
「いやそれ自体が超心配なんですけど……相変わらずどんな生活リズムなの…」
「そんなことは今どうでもいい。」
「よくないですよ」
「とにかく、俺らは今眠っている可能性が高い。もしかしたらこれは意識的な問題なのかもしれん。」
「意識って……じゃあこれは、夢か何かってことですか?」
「分からんがそうじゃねぇとむしろ困るだろ。目が覚めればこの状況も終わると考えれば、まだマシだ。またこのままずっと過ごすってなると困る。」
「………困る、ですか…。リヴァイさんは…私と、居たくないんですか」
「いや……そういう問題じゃねぇだろこれは」
「まぁそうですけど……」
「……ずっとこのままってワケにもいかねぇだろ?」
「…まぁ…そうですけど……」


私だってこのまま謎の異空間に閉じ込められるのはご免だ。でも、だけど、またリヴァイさんと離れてしまうのは正直寂しい。リヴァイさんが言う「このままだと困る」ってのは、私と離れてもいいとかそういうことじゃないって、ちゃんと分かってはいるんだけど。

分かってるんだけど。


「……だったらふて腐れんじゃねぇ。」
「っ、むぎゃ、」


するとそれを察したリヴァイさんが私に手を伸ばしてきて、ほっぺを掴むように片手でつぶされた。


「俺だって、お前と会えて飛び上がるほど嬉しいんだよ。」


そう言って、すっと手を離す。


「………」


そんなの、分かってる。


「……すみません」
「別に謝らなくていい。…まぁ目が覚めるのを待つしかないんだとしたら、ここに居る俺らは特にやることはねぇな。」
「……ですね。でもじゃあ……これは結局、夢の中ってことですか」
「さぁな…おそらくは」
「…でも、これは、意識だけだったとしても……私は本当に、リヴァイさんと会えているんですよね?これは私一人の夢でも妄想でもなくて、本当に、今……リヴァイさんと、ちゃんと話せているんですよね?」
「……そうだと、俺は思う。」
「………。」


これは、夢でも幻でもない。

私は今一人じゃない。

あれだけ心も体も触れ合ったというのに、まだ信じられないのか私は。馬鹿野郎か。アホなのか。


「……リヴァイさん、」
「…ん、?」


散々、知っているじゃないか。彼が、目の前の彼が、リヴァイさんだということを。
私は。

こんなに、感じているじゃないか。


「………リヴァイさあああん!!!」
「!?」


何だか猛烈に抱きつきたい衝動に駆られ、私はその欲求に素直に従い目の前のリヴァイさんにいきなり飛びついた。

リヴァイさんは私の奇行に驚きながらもそれを抱き止め、呆れたように力を抜くとそのまま頭を撫でてくれた。私はすり寄りギューっと、腕に力を込める。


「……唐突な奴だな。」
「リヴァイさん……私はずっと、リヴァイさんを想っていましたよ」
「……、ああ、」
「今日は雨が降ってて……リヴァイさんのことを、すごく思い出しました」
「……そういや…俺の世界でも、雨が降ってたな。今日は」
「そうなんですか?」
「ああ」
「……やっぱり、繋がっているんですね。空は」
「……そうだな。」
「良かったです」
「…実を言うと俺も、部屋から空を見上げながらお前のことを思い出していた。」
「……えっ、そうなの ?」
「ああ。」


その言葉に思わず体を少し離し顔を見つめれば、リヴァイさんも目を逸らすことなく見つめ返してくれた。


「……だから、かもな。」


こうして会えたのは。


「……ふは、嬉しい、です、」


そうやって私が頬を緩めた、──その時。

リヴァイさんの肩越しに、奥の方で何かが小さく光ったのが見えた。


「……ん?」
「……何だ、どうした」


私は目を凝らし、それを見つめる。するとその視線に気づいたリヴァイさんもそっちの方を見る。


「なんか…落ちてます。」
「……、」


それに気づくとリヴァイさんは見つめたのち立ち上がり、そこへ近づいていった。私もリヴァイさんのあとを追う。


「…何ですか?」
「……これは」


リヴァイさんの後ろに居る私は顔を覗かせ、視線を落とす。するとそこに落ちていたのは、見覚えのあるものだった。


「っうわ!!懐中時計…!?」
「……。」


それは、おそらくあの時の懐中時計。


「うわああああっ!?で、でた!!こっわ!!!怖い!!」
「…怖いって何だよ。」
「い、いやっ……、だって、わたし、あれからなんか、懐中時計恐怖症というか……。トラウマっていうか……見ると、うわってなっちゃうんですよね……。」
「……。」


リヴァイさんはそんな私を見て申し訳なさそうに少し表情を緩めると、それから膝を曲げ時計に手を伸ばした。


「あっ、開けちゃうんですか?!」
「いや開けねぇよ……… あ、」
「え?」


なんとなく、開けるのが怖い。

そう思っているとリヴァイさんの指先がそれに触れ、そしてその時なぜかパカリと蓋が開いてしまった。それが視界に入ると私は心臓が止まりそうになる。


「ッひいいいいい!?何してんすか開いちゃってるじゃないですかあああああこのあんぽんたん!!!」
「……っ、」


過去の経験から開いてしまった事に衝撃を受け、目の前に屈んでいる背中に乗る勢いで私もその場にしゃがみ込み体をくっつけリヴァイさんの肩をぎゅっと掴み叫ぶ。


「………っ」
「………、」


まさかまた消える!?と、身構えていると、だけど特に何も起きない。

その場は静まり返る。


「………、何も起きねぇな。」
「……。ですね……。」


私とリヴァイさんは顔を見合わせ、ため息を吐いた。


「……で、誰があんぽんたんだって?」
「 あ……す、すんません…リヴァイさん様……つい」


謝ると私はリヴァイさんから体を離し、その隣に腰を下ろす。


「…何なんだ、これは。開いちまったが」
「……何なんでしょう」


その懐中時計は、よくよく見てみると前に見たものとは少しだけ違って見えた。



時は、止まってはくれない


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