私の名前はナマエ。 どこにでも居るような普通の高校一年生! 制服が可愛いというそれだけの理由で選んだ高校に入学し、それから先輩と出会い、恋に落ちた。 名前は、リヴァイ先輩。 私の大好きな先輩だ。 先輩のことを想うだけでドキドキして、動悸が激しくなって夜も眠れなくなる。そんな時はスマホでなんとか隠し撮りしたリヴァイ先輩の写真を見ながらニヤニヤして眠れない夜を過ごしている。 あっ これはリヴァイ先輩には内緒だけどね! だってこんな事が知れたら画像消去どころかスマホもろとも粉砕される可能性があるから! 何を隠そうリヴァイ先輩は照れ屋さんなのだ。 うふふふ。かわいいなあ。好きだなあ。会いたいなあ。 早く、明日にならないかな? 今日も学校で会ったばかりだというのに、もう先輩に会いたい。恋しい。早く会いたい。 恋する乙女は、明日さえも待ち遠しい。 ◇ 「リっっヴァーイせーーんぷぁーーいッ!!」 「……、」 そして待ちに待った次の日。 「先輩っ!!トウッ!!………うあ゛っ!?」 「………。チッ」 恋する乙女な私は朝から目をギンギンにしてリヴァイ先輩を探しだし、そしてその背中に駆け寄り飛びつこうとすればその前に振り返った先輩にがしりと頭を鷲掴みにされ、それからいとも簡単に床へベシンと投げつけられた。 「いやん!冷たい!」 「…床がか?」 「いやリヴァイ先輩が!でもそんな先輩も嫌いじゃない!」 「(スタスタスタ)」 「あーっ!ちょっと待って下さいよ!」 「黙れ」 ふふふ。リヴァイ先輩、今日も朝から塩対応だぜ。もちろんそんな先輩の態度にすら慣れきっている私は少しもめげる事などない。 「先輩先輩!しぇんぱぁい!!」 「……うるせぇ。」 「いやあの、マジちょっと待って下さい!」 「………何だよ。」 起き上がる気力がなく私は床に倒れ込んだままリヴァイ先輩を引き止め、振り返ったその姿を見るとカバンの中からお弁当箱を取り出す。 「あの、これ!」 「……だから何だよ」 「あのですね!いつもお昼は購買派なリヴァイ先輩の為に今日はこのわたくしめが一睡もせずにお弁当を作ってまいりました!」 「……あ?」 「これぞまさしく愛妻弁当!つって!あはは!」 「………。」 笑顔の私に対しリヴァイ先輩はおそろしく冷めた目で私を見下ろしている。いや、ていうかおそらく見下(みくだ)している。 「…何でてめぇの作った弁当を俺が食わなきゃなんねぇんだ。頼んでないんだが。そしてこれから先も頼むことはない。しかも一睡もしてないってどういう事だ?普通は早起きくらいで済むだろ。」 「それがですね!先輩にお弁当を作るという信じられないくらいの使命感に自分でも興奮してしまいまして!寝付けませんでした!」 「バカじゃねぇのか」 そんな言葉を吐き捨て、先輩はそれを受け取る事なくまた私に背中を向けてしまう。 「あ、ちょ、リヴァ、イ…先輩、待っ、て……、あれ……?ヤバイ…こんなところで……睡魔…が………、」 さすがに一睡もしなかったツケが今ここで回ってきた。リヴァイ先輩が居るというのに急激に眠くなってきて、先輩が歩いて行く姿を最後に、私はそこでそのまま意識を手放してしまった。 「………。」 きゅっと、リヴァイ先輩は足を止める。 ◇ 「アイニージューリヴァイ先輩っ!!」 ハッと目が覚め起き上がると、そこは保健室のベッドの上だった。 「あれ……?いつの間に?」 するとベッドを囲んでいるカーテンが開いて、保健室の先生が顔を出す。 「おはよう。だいぶ爆睡してたわね。」 「おはようございます!はい、清々しい朝ですね!」 「もうお昼よ。」 「マジで!?」 「ただの寝不足みたいだったから寝かせてあげたけどいくらなんでも寝すぎ。」 「すみません!……ハッ!そうだ、リヴァイ先輩は!?」 「え?」 「ていうかもしかしてここに運んでくれたのってリヴァイ先輩!?ハッまさかお姫様だっこを!?きゃー!?寝ていた事が悔やまれる!!!」 「……よく分からないけど違うわよ。」 「え!?」 「たまたま通りがかった私に運ばれてきたのよ。あなたは」 「うそん!?」 「本当。」 「ええッ!?てことはリヴァイ先輩あのまま倒れた私を無視してどっか行っちゃったってこと!?何そのどこまでも塩対応を貫き通す姿勢!!逆に好感だわ!!」 「ていうかあなた元気みたいだしうるさいからもう出てってもらってもいい?」 「あっはい!ありがとうございました!」 私は気にする事なくばさりとそこから出て、そこであることに気づく。 「っあーーーー!!」 「ちょっ何うるさっ」 「てぇへんだ!!この時間はいつもリヴァイ先輩が購買に行っている時間じゃないか!?なんてこった!その前に私のお弁当を力ずくで渡さなければ食べてはもらえない!!」 重大なことに気がつき、それから私は保健室を飛び出し全速力で購買へと向かった。 ──だが、いくら探してもそこにリヴァイ先輩の姿を見つけ出すことは出来なかった。 ◇ 「愛しのリヴァイ先輩はいらっしゃいますか!?」 ということで直接先輩の教室へ向かい、ドアの前からそう叫ぶ。するとそこに居た先輩方の視線全てを私は身に纏う。そしてその奥にリヴァイ先輩の姿を見つけた。 「あっ、居た!リヴァイせんぷぁーーい!」 私と目が合うと、先輩は顔色をひとつも変える事なく立ち上がり、こっちへと向かってくる。 「先輩!お昼まだですよね!?」 「……」 「私のお弁当食べてくれますか!?」 「……」 「リヴァイ先輩どこ行くんですか!?」 「………あ?」 なぜか私の横を通り過ぎるリヴァイ先輩の制服を思わず掴み、足を止める先輩の顔を見つめる。 「私のお弁当食べてくれるんですよね!?」 「………あぁ…、よく喋るゴミだと思ったら…お前か。」 「ひえええ!?ゴミと私を間違えたんですか!?それはヤバイ!」 「何っだよ、離せ」 「すみません!でもお昼まだですよね!?」 「…今から買いに行くんだよ。」 「今からですか!?でしたらこのわたくしめのお弁当をどうぞ食して下さいませ!今なら216円でいいですよ!」 「金とんのかよ。しかも税込み」 「冗談です!無料です!無償です!一緒に食べましょう!」 そんな私にリヴァイ先輩はため息をつく。そんなリヴァイ先輩に私は変わることなく笑顔を向け続ける。 「……睡眠薬とか入れてねぇだろうな。」 「何ですかそれ!?入れてないですよ!」 「お前ならやりかねない。」 「いやいや入れてないですよ!でもナイスアイディアですね!寝ているリヴァイ先輩にあんなことやこんなことまで!っよし、次からはちゃんと入れることにします!」 「バカか」 先輩は私の手からお弁当を取り、それからお弁当箱の底を容赦なく私の頭に打ちつけてきた。ゴン、といい音が鳴る。 「いだい!!」 「うるせぇ。いくぞ」 「えっ、どこに!?」 「……これを食いにだよ。」 「へっ……教室で食べないんですか?」 「お前みたいなバカが居ると迷惑だろうが。つかてめぇは先輩のクラスで弁当を食うことに対し何の抵抗もないのか?」 「ないですね!」 「あれよ。」 さっさと歩き出すリヴァイ先輩の隣に並び、食べてもらえることが嬉しくて笑いかけると、先輩は目を逸らす。 「リヴァイ先輩、今日も大好きです!」 「………。」 リヴァイ先輩が存在しているこの世界は、なんて素晴らしいものなんだろう。 ああ、今日もキラキラと世界が輝いているぜ。 「…俺はお前が嫌いだけどな。」 「いやん!?」 それでもお先は真っ暗なわけだが! |