いつか恋をする時は、素敵な恋をしたい。 告白されるなら満天の星空の下でがいい。そこで「お前なしじゃ生きていけない」くらいの言葉を真剣に言われて、優しく抱き締められたい。 すごくすごく大事にされたい。毎日「愛してる」を言われたい。 そんな(痛いくらいの)理想を描いて生きてきた。 だけど理想はやっぱり理想で。現実とは違うことが多い。 「あー……兵長に踏まれたい……」 机にうな垂れながらボーっとそうこぼしたのは、私だ。 「……死ね(ドン引き)」 そしてそれを聞いてドン引きしているのは、私の恋人。リヴァイ兵長だ。つまり私が踏まれたい相手である。 「……だって兵長、いつも言ってるのに一回も踏んでくれないじゃないですか。」 「お前みたいな変態には触れたくない」 「……あはっ。なに、言ってるんですかぁ…昨晩何度も求めてきたのはリヴァイ兵長の方じゃないですかぁ……えへへへ…… ぁイたっ」 「気持ち悪い笑い方すんな。」 「……殴るんじゃなくて、踏んでほしいんですよ?私は」 「そうか。死ね(真顔)」 私達はこれでも付き合っているというのだから、驚きだ。自分でも。 ちなみに告白されたのは星空の下ではなく兵長の執務室(この部屋)で、告白の言葉は「お前なしじゃ生きていけない」ではなく何の雰囲気もなく唐突に言われた「付き合ってやってもいいぞ」という上から目線で、愛してるの言葉はまだ一度も聞いた事がない。 そして一番の誤算は、私自身が「兵長に踏まれたい」などという思考に支配されているということ。つまり変態だったという事だ。 「私は兵長と出会って人生……もとい性癖をめちゃくちゃにされました。どうにかして下さい。私はこんな子じゃなかったはずです。」 「だから付き合ってやってんだろうが。」 「何ですかその仕方なく引き取ったみたいな言い方は……そっちから告白してきたくせにぃ……」 「あ?俺がいつ告白なんざした?」 「え、したでしょう。付き合ってやってもいいぞって言ってきたの兵長でしたよね?」 「あれは告白じゃねぇ。妥協した上での苦肉の策だった」 「どゆこと」 「黙れ」 「えぇ……。まぁ、いいですよ。踏んでくれさえすれば。」 「踏まねぇよ。」 「じゃあ蔑んだ目で見て下さい。」 「お前を見てる時は基本的に蔑んでいる。」 「え、マジで………ってことは私それに慣れちゃったってことですかね?」 「聞くな」 「じゃあ、蔑んだ言葉をください。」 「お前に削がれる巨人が気の毒で仕方ない。」 「新しい蔑み方ですね」 「巨人に謝れ。」 「私のようなゴミが項を削ぎ落としてしまってすみませんでした。」 「ゴミに謝れ。お前はゴミ以下だ」 「……うはは、あとは兵長が極めつけに踏んでくれたら最高なのになあ。」 「それだけは断る。」 「何でですか?つらい」 「好きな女を踏み付けるのはさすがに出来ない。」 「マジすかー………… 、あれ?今のちょっとキュンとしたかも」 「そうか。死ね」 「あ、今のもキュンときた」 私が思い描いていた恋とは100万光年くらいかけ離れているが、だけどそれでも多分私は大事にされている。 いつだって私が望む蔑んだ言葉を迷わずくれる兵長は、毎日「愛してる」を言ってはくれないけれどそれと同じくらいに嬉しいから、これはこれでいいのだと思う。 「…最近、お前を蔑んでいないと落ち着かねぇ。」 「それってつまり私なしじゃ生きていけないってことですか?」 「付け上がるなこのゴミクズが」 「ありがとうございます好きです兵長」 |