ナマエと寝ることになった。 もちろん、変な意味ではない。 「………。」 俺の目の前で安心しきったマヌケ面で寝ているナマエ。 だが、状況は、──夜。そしてひとつのベッド。部屋には二人きり。男と女。積年の想いが報われた。いわゆる両思い。恋人。 …だというのに、いくらなんでもスヤスヤと寝すぎだ馬鹿野郎。前から思っていたがコイツはもう少し男というものに警戒心を持った方がいい。 じゃなきゃ他の男のところでも平気な顔でこんなふうにしかねない。考えるだけでも蹴り上げたくなってくる。この馬鹿はそういう一般常識を理解してなさそうだ。 このベッドに入った時も、最初は恥ずかしそうにしてたが少し経つと普通に寝やがったし。わりと早めに寝息が聞こえてきた時は若干苛立った。男女が同じベッドで寝るという行為に何の疑問も持たずに早々と目を閉じやがって。もう何があってもおかしくねぇんだぞ。俺とお前は。 ずっと想い続けてた馬鹿女がようやく自分のものになって、目の前で無防備に寝られる俺の気持ちを少しくらいは考えてほしい。たまったもんじゃない。まぁここで寝ろと言ったのは俺なんだが。いやでも少しくらいはこっちを意識しろ。 「……へぃ、ちょう…」 いろいろ考えつつ眠れずにナマエの顔を見ながら過ごしていると、ナマエが寝言を溢した。 「…何だよ」 そんな幸せそうに俺を呼ぶな馬鹿。 静かにため息を吐いて、この感情をどうしたらいいのか分からずとりあえず目の前の馬鹿の頬に軽く唇を押し付ける事で自分を落ち着かせた。 ◇ 「ん……」 目が覚め、ぼやける視界の中ゆっくり瞬きをしているとベッドがいつもよりも温かい事に気づく。そして瞼をしっかり開くと兵長と目が合った。 「ぁ…へいちょ……。」 「…ようやく起きたか。」 「………おはよ、ございます」 「ああ……」 そうだ。兵長と一緒に寝たんだった。 兵長はどうやらすでに起きていたようだけど、ちゃんと眠れたのかな。あのあとすぐ寝れたのかな。 「…へいちょう、しっかり眠れましたか…?私…お邪魔じゃ、なかったですか…」 「……邪魔だったらとっくに蹴落としてる。」 「あ…ですよね……」 なら良かった。 私はというと、こんなふうに好きな人と寝たのは初めての経験だったけど結構ちゃんと眠れた。やっぱり兵長の側は、落ち着く。兵長のベッドで兵長の匂いに包まれながら眠るのはとても幸せだった。 昨晩、あのまま離れたくなくてずっと部屋に居たら「もうここで寝ていけ」と最終的に一緒に眠る事になった。初めは距離感に照れたけど、慣れるとむしろ落ち着いてきてあっという間に眠ってしまった。 「あ、兵長」 「…なんだ」 一日の終わりと始めに、兵長と居れる。そんな今に胸がきゅっと締まる。それは苦しいものではなくて、なんというか心地いい。 「好きです。…ふふ」 「………。」 何でだろうか、言いたくなる。好きですと。兵長にたくさん伝えたくなる。 想ったままに言葉にすると兵長は眉間にシワを寄せた。 「…うるせぇよ。」 そして体を起こして、私に背を向ける。 「…へいちょ、」 「俺もだ、馬鹿。」 「う………」 そう言って兵長は自分の髪をぐしゃぐしゃと軽く乱した。 (兵長も、私を好きでいてくれる) それを改めて実感する。させてくれる。そして兵長がたまらなく愛しく感じて、思わずその背中に飛びついた。 「ッへいちょぉおおお」 「っ、何だ、馬鹿…クソ、引っ付いてくんじゃねぇ…」 「ふふ、リヴァイ兵長好きですー」 「うるせぇ何回も言うんじゃねぇ暑苦しい蹴り落とすぞふざけんな離れろ死ね」 「え、ちょ 」 だけどそれはいきなり辛辣な言葉に変わり、兵長は私を引き剥がそうとしてくる。今の一瞬で何が起きたのか…。でも、私の頭を押して自分と離そうとしている兵長の力はそんなに強くない。 「離れろ馬鹿」 「嫌ですー」 「うざってぇ…」 「ずっと側に居ろって言ったの、兵長ですよ」 「そういう意味じゃねぇよ」 「いいじゃないですかー好きなんですからー」 「しつこいんだよてめぇ」 「ダメですか?」 「ダメだ。」 「えー何でですかー」 「いちいち言わんでも分かってる。」 「…でも、言いたいんですよ」 「お前が自覚する前から俺は分かっていた。今更何度も聞く事じゃない。」 「私は最近知ったんですよ?」 「それがまずおかしい。脳みそ腐ってんのか」 「だから腐ってないですってぇ……」 「とにかく離れろ。」 「嫌です。」 「邪魔くせぇんだよ」 「離れませんし、好きです!」 寝起きから幸せいっぱいで、私は調子に乗る。 「ふふ、ほんと大好きです兵長。なんというか好きです!めちゃくちゃ好きです、好きです好きなんです大好きですうー」 「………」 そう言いながらも腰周りにぎゅーっと抱きついていると、私の頭を押していた兵長が動きを止める。 「…ん?へーちょう?…ゎぶっ?!」 「調子に乗るなこのグズ。」 そしていきなり強く服を掴まれ、すると世界が回って私は床に背中から思いきり落ちた。 「ッ!!」 「いつまでもダラダラ腑抜けた面してんじゃねぇ……さっさと着替えて準備しろ。」 「っせ、背中ッ……イッタ…っ、」 「…今日は城中を掃除する。分かったらいつまでも寝転んでねぇで顔洗ってこいこの馬鹿が。」 「っく……、そ、掃除…ですか……」 「そうだ。他のやつらにも伝えておけ…朝食のあとから大掃除だ。さっさと立て。」 「………は い」 あまりにも冷めた声と目で見下ろされ、私の気持ちも少し冷める。なんというか目を覚まさせられた感じだ。これ以上何か言うと蹴られそうなのでとりあえず起き上がり兵長と向き合う。 「あの」 「なんだ」 「…昨日は一緒に寝てくれてありがとうございました」 「………分かったからさっさと部屋に戻れ。」 「はい!なんだか、今まで以上に城中をピッカピカに仕上げたくなってきました!」 「ああ。そうだな。」 「はい!では、失礼します!」 今日はなんだか掃除がはかどりそう。兵長の部屋を出て、私は足取り軽く歩き出した。 |