「……兵長？」


受け入れた想いは言葉になり兵長に伝わった。
はず、なんだけど。


「……」
「あの…リヴァイ兵長？」


気持ちを伝えたのに目の前の兵長は何も言わない。黙ったまま私を見ている。


「えとっ……え？兵長？ど、どうしたんですか…」


何かまた間違えたのかと焦っていると、動かなかった兵長はゆっくりと瞬きをした。


「…ナマエ、」
「あ、はい…」
「いえ」
「え？家？」
「…今の、もう一度言え。」
「え…？今の、って……」
「いいから」


ん？今のって、「好きです」ってやつ？

なぜ？まさか聞こえなかった？わけないよね……
どういう事かよく分からないまま、でも兵長が言葉を待っているみたいだったので私は軽く咳払いをしてから、また口を開いた。


「…好き、です。」


うわ。なんだこれ、恥ずかしい。でも兵長は私の言葉を聞いても表情を崩さない。
あ、でも、違うな。いつもと違う顔をしてるかも。あまり見たことのない顔をしている。


「……」
「あの…兵長？何か言って下さいよ…」
「あぁ…そうだな」
「そうだなって……」


どうしたんだろう。もしかして私変なこと言ってる？ていうか何で言わされたの？
兵長は重ねていた手を引いて、息を吐いた。


「…あの…」
「ナマエ」
「あ、はい…」
「…お前は馬鹿だから、今のうちにちゃんと言っておく。」
「え、何を…ですか」


え、なに。何、どうしよう。そんなの俺に関係ないとか言われたら。え、いや、でも、そんな無情な仕打ちないよね。…な、ないよね。

不安になっていると兵長の瞳が私をしっかりと捉える。私は出てくる言葉に緊張しながらそれを待った。



「お前は今から、俺の女だ。」



そして出てきたのは私の不安を打ち消す言葉だった。


「………へ？」
「お前は俺のことが好きなんだろ？」
「え、あ、…は、はい。そう、です」
「そうか。ならお前はもう俺の女だ。」
「………。」


これは…その…。兵長も、私の事が好き。という…ことで、いいんですよね。え、そうだよね？だから今までも側に居てくれたんだよね……きっと。そういう事だよね？俺の女ってことはあれだよね。恋人的な意味でいいんだよね。そうだよね。そう、だよね。


「オイ、何ごちゃごちゃ考えてんだ」
「え…いえ……その、」
「なんだ」
「えっと…。」
「…どういう意味ですかとか言いやがったら本気で殴るぞ。」
「えっ！？い、いやっ、そうじゃなくてですね……！」
「じゃあ何なんだ」
「いや…なんというか…確認、したいんですけど……。」
「何をだ？」
「あの…。リヴァイ兵長、も、私のこと好きって事で……いいんですよね？」
「………他にどんな解釈があるんだよ。」
「あ、ですよね……。」


そんな眉間にシワを寄せながら言われると好きって感じがあまりしないけれど、でもまぁそこは兵長だから気にしない。

でもとにかく、良かった。兵長も私の事が好きで良かった。


「…え……」
「あ？」


でもなんだか頭がまだあまりついていってない。だけど……


「兵長、」
「なんだよ」


だけど、これってなんだかすごく。


「……私、いま、すごい幸せ、なんですけど…！？」


想いが通じ合うって、何だろう、こんなに、嬉しいものなのか。今更ながらそれを実感してきて胸が高鳴っていく。
両手で口を押さえながらドキドキしていると、兵長は呆れたように私を見つめる。


「さっきまで逃げ出そうとしてた奴がよく言う。」
「あ痛っ、」


そう言われでこぴんを食らい、思わずおでこを押さえた。軽くやられたはずなのにけっこうな痛さなんだけど何だこれ。でこぴんの威力じゃない。


「い、痛いです…」
「俺が今までお前を健気に待っていた苦労に比べればどうって事ねぇ。」
「それは……すみませんでした」
「まぁ…お前が、これから先もずっと俺の側に居るってんなら、許してやる。」
「え…なんですかそれ……」


そんなの、言われなくても。


「離れるわけ、ないじゃないですか」


今でももしもの時の事を考えると怖い。でも、一緒に過ごせる今の方が大事なのだと気づいたから。


「それに……っそれに！兵長は、死にません！」
「……ああ、そうだな。そう簡単には死なねぇよ。」
「そうです！私が、守ります！」
「……は」
「兵長は私が守ります！だから、死なせません！」
「……お前に守られなくても平気なんだが」
「いえ、守ります！絶対っ！」
「……」
「私はもう大切な人を失いたく、っありません！守りたいんです！っだから、……だから…っ…、」
「………。」


もう絶対に、嫌だ。誰にも死んでほしくない。命が失われて、その家族や仲間がそれを悲しむのだってもうこりごりだ。こんな世界じゃそれさえも難しいことなのかもしれないけれど、でも私はそう願う。だから調査兵団に居るのだと。それを教えてくれた兵長の側で、私は前に進んでいく。


「いきなり泣くんじゃねぇよ……本当に情緒不安定な奴だな。」


幸せなのに、涙が溢れてくる。おかしい。
こんなんじゃ兵長を困らせてしまうと思いながらも、止まらない。


「っ……、」
「落ち着け、馬鹿。」


そんな私を兵長はあの夜の時みたいに抱きしめた。


「…っう、」


そこはやっぱり温かくて、心地いい。


「うーっ…、へいちょうぅ…っ」
「泣くよりも、笑っとけ。そっちの方が馬鹿みてぇでお前らしい。」
「っそ、そんな…馬鹿みたい、って……」


兵長と言葉を交わし心を落ち着かせながらも私はあの時みたいにすり寄るだけじゃなく、兵長の背中に手を伸ばし抱きしめ返した。すると兵長の腕にも力が込められる。


「ぁっ…、へいちょ、」
「…なんだ」
「背中……痛いです…っ」
「……あぁ？」
「あんま強くしないでくださいっ、地味に痛みますっ…」
「……知るか。」
「あうっ、ちょっ…、ッイ、」
「そもそもお前が悪い。あからさまに俺を避けやがって。」
「だからそれはっ……申し訳ないと…反省してます…」
「じゃなきゃ困る。」
「…でも…だからってあんなふうに力いっぱい踏まなくても……。」
「お前が俺を無視して通り過ぎようとしたから、踏んで阻止しただけだ。」
「……兵長あの時、本気で踏んでましたよね」
「は、本気なわけねぇだろ。本気だったら今頃お前、内臓ねぇぞ。気持ち悪ぃ」
「ええっ、本気出したら内臓でるんですかっ」
「あれでも加減している。」
「でも今までで一番痛かったです…髪まで引っ張られたし……」
「あれは……普通に腹が立ってな、つい。」
「ちょ」
「やりすぎたとは思ってる。」
「でも…まぁ……仕方ないですけど」
「仕方ねぇのかよ。」
「だって兵長の言う通り私が悪いですし……」
「…さすがにもうやらねぇよ。」


そう言ってそっと体を離し、私の顔にかかっている髪を後ろに流す。その手つきは優しくてなんだか気持ちいい。


「…私ももう、避けたりしません。」


何があってもこれからは全部、真正面から受けとめよう。


「ああ…そうしろ。前にも同じような事を聞いた気がするが。」
「ちょ…兵長、根に持つタイプですか……」
「そうだな。持ちまくりだ。」
「…もう絶対本当に避けませんよ！なぜなら兵長が大好きだから！」
「………。」
「リヴァイ兵長、好きです。」
「分かった。もう分かった。」
「好きです兵長」
「しつけぇぞ」
「でもさっきはもう一回言えって…」
「あれはちょっと噛み締めていただけだ。だからもういい。」
「噛み締めてたんですか？」
「当たり前だろ。ようやくお前の口から聞けたんだからな。」
「……兵長って、いつから私のこと好きだったんですか？」
「は？何でそんな事てめぇにお知らせしなきゃなんねぇんだよ」
「だって…そんなに前からなのかと……ていうか、何で私のこと好きなんですか？私が兵長を好きなのは分かりますけど…私なんて面倒ばかりかけてるのに……」
「そんなもん自分で考えろ。」
「ええっ。全く分からないんですけど……。」
「じゃあ一生分からないでいろ。」
「そんな……」


すごく気になる。落ち込みながらも、教えてほしくてジッと見つめているとまたでこぴんをされた。（痛っ）



「……まぁ…気が向いたらいつか教えてやる」


そして、どことなく笑っているような表情。
やっぱり私はその顔が好きだと、そう思った。


「……じゃあ、気が向くまで、ずっと待ってますね。」


私は微笑む。だってもう、これからはずっと兵長と一緒なのだ。