今更、話があるなどと言って彼を追いかけるのもおかしな話だ。もう関わりたくないかもしれない。三ヶ月も来ないんだもの。あんなに来てくれていたというのに。きっともう嫌気が差しているんだ。

このまま、また会えなくなる。それだけのこと。


私は多分、自惚れてた。リヴァイが来てくれるからってずっとこのまま話していられると思ってた。

過去のことも目の前のこともちゃんと見ようともしなかったくせに。

また私は、リヴァイの中で『思い出したくない過去』になってしまうんだろうか。いや、もうなってるのか。

………どうしてもっと上手く出来ないんだろう。本当はもっとちゃんと関わりたかったのに。あの時も、今も。


「…もっと……、ちゃんと……。」


私は体をベッドに横たわらせたまま目を開き、自分の部屋の天井を見つめる。


「……。」


──いや、違う。

そもそも、最初から出会わなければ良かったのかもしれない。

あの頃の私にとってのリヴァイがどんなものだったのかは関係ない。リヴァイにとって私との出会いはいいものではなかった。
だから、出会わなければ良かったんだ。

そう、あの時、出会ってなければ………


「………っ」


そしたら、こんなふうにならずに。もっと普通に、今もリヴァイと話せてたかもしれない。普通に。

普通、に……。


普通に?


「……何、考えてるんだろ…。」


あの頃出会ってなければそもそも私はこんなにリヴァイを気にかけてはいないだろう。

ていうか今更こんな意味のないことを考えてどうする。


「…馬鹿だな…」


どうやら私はリヴァイのことになると頭が悪くなるみたいだ。

大切にしたいものほど、どう扱えばいいのか分からなくなる。私は人と付き合うのが上手くないんだ。あの頃からそうだった。周りに馴染むのが下手で。


…だから、だからこそ。
リヴァイと出会って、私は。


「………。」


いや、とにかく。

ここまで来たら過去を変えることなんて出来ないのだから、せめて考えるならこれからのことを考えた方がいい。


…いや、だから。

これからってなに。

もうどうする事も出来ないでしょ?

だって、リヴァイはもう三ヶ月も来てない。

三ヶ月だよ?


「……… リヴァイ……」


もう来てくれないんだよ。

愛想が尽きちゃったんだよ。


「………」


もう、


会えないのかな



「……。はァー…。」


たとえこれから先どこかで会えたとしても、どんな顔をすればいいのか。むしろ嫌な顔されて話なんて聞いてくれないかもしれない。無視されるかもしれない。

もし、リヴァイにそんなことされたら、私。


私……





「死んじゃう……。」
「っはは、自分は散々それに近い態度をとっておいて?」
「……。」


マスターはカウンター越しに笑う。

私は今日お休みなのだが、マスターに飲みにおいでと言われ休日にも関わらず職場に来ていた。そして仕事中のマスターを相手に飲んでいる。そしていい感じにお酒が回ってきて、口から零れたのはやっぱりリヴァイの話だった。


「そうですよう……私は最低なんですよー…。」
「自虐的だね」
「いいですよもう……どーせ、合わす顔なんてないですもん…。今更、会えたって……」
「そんなに後悔しているのなら普通に謝ればいいんじゃない?それで告白すればいい。」
「……告白?」
「そう。」
「なにを?」
「好きです、って。」
「……。なに、言ってるんですかぁ……だから、私は、そういうんじゃないんですって」
「じゃあ何をそんなに後悔しているの?」
「なにが、ですか?」
「だって彼のことが好きじゃないんだったら、どうしてそんな暗い顔をしているの?常連のお客さんが来てくれなくなった事がそんなに落ち込むほど寂しい?」
「……、それは……。」


私はその言葉に目を伏せて、コップを持つ手に力が入る。


「……伝えたいことが、あったんです」
「伝えたいこと?」
「……はい。でも、なかなか、言えなくて…」


それでも、言うべきだったんだけど。

リヴァイが私のことを覚えていなくても、気づいていなくても。そんな事は関係なかった。
それで過去が変わるわけじゃないんだから。あの時はごめんなさいって、ちゃんと言うべきだった。


「………。」
「…まぁ何があったのかは分からないけど、とにかく今日は飲んでスッキリすればいいよ。その為なら、出来る限り愚痴でも何でも付き合いますよ?お客様。」
「……マスタぁー……。」


なにそれ優しい。

私は上司の優しさに感動しつつ、言われるがままにお酒を喉に流し込んだ。





「昨日は、本当にありがとうございました。」
「あぁ、いいよいいよ。」


私はマスターに深々と頭を下げる。

というのも、昨日はあれからさすがに愚痴は言わなかったけどマスターの仕事の邪魔にならない程度に相手をしてもらって飲んで過ごした。そして最後にお金を払って帰ろうとした、その時。


『あぁ、いいよ支払いは。』
『………え? いい、って……?』
『今日の分はいらない。サービスね』
『………えっ?!何でですか!?』
『こら、大声出さない。』
『あっ…すみません……。いやでもどうして…?私、けっこう飲んじゃって…』
『いいよいいよ。明日からまた笑顔で働いてくれたらそれで。』
『そ、そんな……!でもっ、』
『いいから。ほら、気をつけて帰るんだよ?』
『えっちょっ……!』


……ということがあったのだ。


「いやもう本当に……いろいろとすみません……。」
「いいって。君は笑顔が素敵なんだから、給料分はちゃんとお客様に振りまいてもらわないとね。」
「っえ、うわっ、なんかマスター昨日から優しすぎて気持ち悪い……。」
「気持ち悪いとか言わない。いいからほら、今日もしっかり働いてね。」
「……ふは。はい、ありがとうございます」


思わず笑顔になりお礼を言ってまたぺこりと頭を下げて、背を向ける。



「(……私も、あんなふうに人に優しくしたいなぁ…)」


もっと優しい人間になりたい。

リヴァイにももっと、優しく、できたらよかった。


「……。」


だから、

もし、また会えたら。

どこかで会えたら、ちゃんと謝ろう。あの時の事も、黙っていた事も全部。

それがいつになるのかは分からないし、会えるのかすら分からないけど。でももし、会えたら。逃げずに伝えよう。伝えたかったこと、全部。



「(それまで、どうか元気で)」


私は勝手にリヴァイを過去にして、そう思っていた。

だからまさかその日、現れるなんて考えもしなかった。普通に、私の目の前に。




「……よう。」
「……っ…!?」


いつもと全く変わらない、姿で。


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