「あれっ?リヴァイさんっ?」
「………、」


昼間に街で買い物をしていると、見知った後姿を見かけて思わず声を掛けた。


「わー!やっぱり!リヴァイさんだ!うわぁ、あははこんにちは!」
「……何だそりゃ。」


振り向くリヴァイさんに駆け寄れば彼は少し呆れたように表情を緩め、私は笑顔を向ける。


「すごい、リヴァイさんだ!」
「何がだよ。」
「だって、陽の当たるところでリヴァイさんと会うのって初めてじゃない?わーなんか新鮮〜」
「…そりゃあ、そもそも店以外で会うのが初めてだろ。」
「あー、そうでしたっけ?」
「それとも誘えば会ってくれるのか?」
「あはは、リヴァイさんはこんなところで何してるの?買い出し?」
「……。ああ。お前もか」
「うんっ」
「……今日は、髪下ろしてるんだな。」
「え、 …っあ、 うん」


いつもは仕事中に結んでいる髪が、風に吹かれてふわりとなびく。彼はそれを見ても顔色を変えることはなかった。


「…それは」
「ん?」


それからリヴァイさんは私が持っているさっき買ったばかりの色とりどりのお花に視線を落とした。


「あ、これは家に飾ろうと思って」
「……好きなのか?」
「うん!育てるのも好き。キレイでしょ?」
「…あぁ…。」


すると優しい眼差しを向けて白い花にそっと触れた。


「リヴァイさんもお花好き?」
「………、」


その姿を見て何気なくそう聞くと、リヴァイさんは花から手を引いて、静かに口を開く。


「…花は、すぐ枯れちまう。」


そして寂しげに目を伏せた。


「………、」


それを見て私は何とも言えない気持ちになり、だけどふっと表情を和らげる。


「そんなこと、ないよ?」
「……。」
「ちゃんと育てれば綺麗に咲くし、手を掛けてあげればそんなにすぐには枯れないよ」
「……、そうか」
「確かに儚いけど、そこも含めて花は綺麗で好き。」
「……。」
「それに花言葉とかも、素敵じゃない?」
「…花言葉なんか知らねぇ。」
「そうなの?調べてみるといろいろあって面白いよ?」
「……。そんなもんの言葉より…俺はお前の言葉の方が気になる」
「……… 、」
「花の意味よりもそっちの方が興味深い。」
「……。ふは、何ですか、それ。」



──彼にとって私が、特別にならないように。

私はただの酒場の店員で、たまにお店で話せたらそれでいい。


…そんなのは私の我儘であって、すでにそれは彼にとっては面白くないものだった。それでも中途半端に優しくして、リヴァイさんの気持ちを見ないふりして。いつまでも。

いつまで、続けるんだろう。私は。


「……。」


やっぱり、こんなのは、良くない。


「……リヴァイさん。」


良くない、のに。


私はにこりと笑顔を作り、それをリヴァイさんに向けてすっと息を吸う。


「私はそろそろ行きますね。」
「……、」
「また、飲みたくなったらいつでもお店に来て下さい。お待ちしてますので」



いっそのこと、私に気づいてしまえば。

いっそのこと、彼がこの関係に嫌気が差せば。


そうすれば、リヴァイさんにこうやって嫌な思いをさせずに済む。でもそうなれば、リヴァイさんとはきっともう話せなくなる。

結局のところ、私はそれが怖いのだ。リヴァイさんと話せなくなるのが。彼が店に来なくなってしまうのが。


「じゃあね、リヴァイさん。」
「……。ああ、」


私は作られた笑顔のままリヴァイさんに背を向け、歩き出す。


「………。」


リヴァイさんをちゃんと見ようともしないで、歩いて行く。


…だから、それは当然のことだった。

それからリヴァイさんがお店にぱったりと来なくなった、のは。


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