「…は?お前、クリスマスが誕生日なの?」
「……。」


こくりと頷くリヴァイに、私は眉を顰める。


「いやそういう事はもうちょっと早く言えよ。おもいっきり過ぎちゃってんじゃねーかよ」
「……知らねーよ。」


12月29日、いつもの公園。このクソ寒い時でもリヴァイはここに来ていて、私はそれに付き合っていた。そしてクリスマスがこいつの誕生日だという事を今更知った。


「(…そういえばこいつのところにはサンタは来たんだろうか)」
「……何だよ」
「…来てないんだろうなぁ……。」
「あ?」
「いや、なんでもない。で?何が欲しい?」
「………。」
「前にも言ったよね?欲しいものがあったら言えって。」
「……」
「だから遠慮しないで言え。誕生日なら尚更言え。」
「……」
「でも自転車とかそういう高いのは無理だからね。ガキとはいえそこらへんは気を遣えよ?」
「……お前言ってる事めちゃくちゃ」
「私のバイト代なんてすぐなくなっちゃうんだからな?」
「……別に、なにもいらねーし。」
「はぁ?お前どんだけ物欲ないんだよ。ふざけんな」
「は?何もふざけてねーよクソビッチ」
「ビッチじゃねーよクソガキ。いいからなんか言ってみろ。買ってやるっつってんだから。」
「………だから、ねぇってんなもん…。」


突っ立ったままリヴァイを見下ろしていると、目を逸らして俯く。私はため息を吐いて、腰を下ろした。


「…じゃあ、何かしてほしいことは?」
「……。」
「もうこの際、物じゃなくてもいいよ。」
「………。」


目を合わせようと顔を覗き込めば、眉を顰めて顔を逸らす。もう何なのこのガキんちょ。


「…てか、ナマエ、クリスマスプレゼントって言って…おかし、くれただろ。あれでいい」
「いやよくねーよ。あれはクリスマスプレゼントだから。しかも超手軽だから。あんなんじゃダメだろ」
「………。」
「……。」


まったく、欲しいものを聞いただけでこんなに難しそうな顔をしなくてもいいのに。私だったらそんなこと言われたら欲しいもんなんていくらでも出てくるぞ。


「……お前はもっと甘えるということを覚えた方がいいな」
「…は?」
「甘えられる時には甘えろってこと。」


そう言うと、リヴァイは私の顔を見つめたあとに黙ったままくるりと背中を向けて、足元にあった小石を蹴った。


「(何なの……)」
「……じゃあ、約束、して」
「…え?なに?約束?」


屈んだままその背中を見つめていると、リヴァイはぼそりと言葉をこぼした。


「ずっと、おれと、こんなふうに……遊んで、ほしい 」


そして誕生日プレゼントという名のその約束事に、私は面を食らう。


「………、」


公園は静まり返り、ひゅうと静かに風が吹きぬけた。


…何だ、こいつ。

そんなこと、言うんか。


「……。」


そういうこと、言っちゃうのか。

私はそのままその小さな背中を見つめながら、口を開く。


「…分かったよ。約束、する。」
「……、」
「私はこれからもずっとお前と遊んでやるよ。」
「…ほんとに」
「うん。ほんと。」
「……」


それにしても、いつもこんなふうに素直だったら可愛げがあるというのに。人のこと散々クソだのビッチだの言っておきながら、そんなこと言っちゃうんだもんな。このクソガキは。


「あ、言っとくけどずっとっていうのは毎日って意味じゃないからね?これから先もって意味だからな?」
「……分かってるよ。おれだってお前の顔なんか毎日見たくねーし。」
「は、何ナマイキ言って……、」


そう言ってこっちに振り向いたリヴァイの顔は、いつの間にかガキらしい無邪気な表情に変わっていて、それを見て私は思わず言葉を止めてしまった。


「………、」
「……あ?どうしたクソビッチ。」


だけどそれもすぐにいつものクソガキフェイスに戻った。


「……。なんだ…そういう顔も、出来んじゃん……。」
「は?何だよ?」
「……なんでもない。」


それが分かると私もつい表情を緩め、だけどそれを悟られないように立ち上がり、そして歩き出した。


「オイ、どこ行くんだよ」
「…なんかあったかい飲み物でも買いに行く。今日寒すぎでしょ」
「……、」
「ほら、お前も来るんだよ。行くよ」
「……。」


それからあまりの寒さに自販機を目指して、一度公園を出た。

外はもうとっくに公園なんかで遊びたくないほどに寒いのに、それでも年が明けても私はまたこの公園に来ることになるんだろう。



「……おれ、ココアがいい。」
「ん、ココアね。はいはい」


まぁ別に言われなくてもそうするつもりだったけど。


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