最近大分寒くなってきて、寝る時なんかはベッドに入るとシーツが冷えていて温まるまで少し時間がかかる。
そして朝になると今度はベッドが温まっているからそこから出るのが億劫になる。冬というものは、どうしてこんなに寒いものなんだろうか。




「気合いだ。気合いが足りてねぇんだよ。」
「そういう問題?寒さは気合いでどうにかなるものじゃないと思うんだけど」
「なら腹筋でもして体を温めろ」
「だとしても、体が温まるまでが結局寒いでしょ?」
「だったら黙って耐えろ。」
「……あのね。こういう時は、あれだよ?…黙って抱き締めたりするもんじゃない?」
「…あ?」
「俺が温めてやる的な」
「何だそりゃ。」
「リヴァイはデレが足りないよ。」
「知るか。そういう返しがほしいなら他を当たれ。」
「あ、いいんだ。私が他を当たってもいいんだ?」
「お前がそうしたいのなら、俺は止めん。」
「………。本当に、デレが足りん。慢性的なデレ不足だよ。」


リヴァイの執務室の暖炉で温まりながら、紅茶の入ったカップを両手で包み込みリヴァイと話す。仕事中のリヴァイに対し、私は今日休みだ。どうだ羨ましいだろう。昨日そう言えば、執務室に来いと返された。しかし私は最初からそのつもりだったのでその言葉には普通に頷いた。

こくりと紅茶を一口飲んで、それを置きリヴァイへと近づく。


「…で、デレがないリヴァイさん。」
「……。」
「私は何を手伝えばいい?」
「……あ?」


机でお仕事をするリヴァイにそう言えば私を瞳に映す。


「何を手伝うってんだ」
「なにって別に何でもいいよ?私が出来ることなら。」
「…何でだよ。お前は何もしなくていい。紅茶でも飲んで適当に座ってろ。」
「……ん?手伝ってほしくて呼んだんじゃないの?」
「………」


てっきりそう思っていたのに。するとリヴァイは呆れた顔をして、仕事の書類へと視線を落とす。


「ちげぇよ。」


違うんですか。


「…なんだ。いつも散々手伝わされるから、休日も手伝えってことかと。」
「んなわけねぇだろ」
「あっ そう。 じゃー私は休日を満喫しますね。」


そう言って離れまたカップを手に取りソファへと腰を下ろす。

そしてリヴァイが口を開く一時間後まで、私はそこから動かずに一言も発することはなかった。



「……お前、それのどこが休日を満喫しているんだ?」


静かな部屋に見兼ねたのか私を見ながらそう言ってきて、私もそっちへゆっくりと視線をやる。


「…んー?」
「じっと黙ってる事が休日を満喫する秘訣なのか?」
「……違うよ?」
「ならせめて本を読むとか何かしろよ。」
「休日を満喫する秘訣はね、」
「あ?」
「好きな人と、こうして同じ空間で過ごすことだよ。」
「………、」


わざとらしい笑顔でにこりと笑うと、リヴァイは眉間にシワを寄せる。


「…そりゃあどうりで楽しそうな面してるわけだ。」
「でしょ?リヴァイも見習ったら?」
「俺は今日休みじゃねぇ。」
「でも、好きな女がずっと部屋に居たら嬉しいでしょ?」
「……は、何言ってやがる。」
「自分で呼んでおいてその反応?…あ、それとも嬉しすぎて仕事に集中出来ないとか?」
「…バカ言え。」
「……ふ、」


するとリヴァイは少し黙ってからふうと息を漏らし、立ち上がった。


「そんなことより、買出しに行くぞ。」
「……え、うそ?外出るの?」
「ああ。」
「……何買いに行くの?」
「掃除道具だ。」
「……仕事はいいの?」
「今日は比較的やる事が少ない。」
「……外は寒いよ?」
「だから何だ」
「………、」
「コートを取ってこい。」
「……。」


ちらりと窓から外を見てみれば、今日は曇り空で余計に寒そう。


「ナマエ、早くしろ。」
「………」


マジか、と心で呟き、外の寒さを想像しながら重い腰を上げて、仕方なく自分の部屋にコートとマフラーを取りに行った。





「さむっ」
「…まだそんなに寒くねぇよ。」
「いやいや寒いよ……」
「軟弱だな」


久しぶりに二人で街へ出て歩いていると、ひゅうと風が吹き体はぶるりと震える。


「いや寒いな…!」


本当に寒くて、思わずリヴァイの方へと体を寄せて腕を掴むと、ちらりと横目で見られた。


「………あ、ダメだった?」


なんとなく察してぱっと手を離せば、視線が外れる。


「…ダメって事はないが……」
「……や、でも誰かに見られたらよくないしね。」
「……。」


リヴァイは一般の人にも顔が知られているし、それに兵団の誰かにもこういうところを見られるのはあまりよくないだろう。
本部の中でだってもちろん部下の前でそんな行為は当たり前だがしないし、仕事の時はたとえ部屋に二人きりだったとしてもそういう雰囲気になる事はない。

……こう考えるとデレ不足どころか慢性的ないちゃつき不足じゃないか。どうりでベッドが冷えるわけだよ。


「……。」


私の手は何も握れず、寂しそうに冷たい風だけが指をすり抜けた。
そんな両手に息を吹きかけてそこを少しでも温めようと自分の手を重ね合わせる。


「……てか、掃除道具って何買うの?まさかまた箒じゃないよね?」
「…あぁ…。まぁ、適当に。」
「適当ってなにそれ」


それから、それなりに店を回って掃除道具やら何やらを見て回った。だけどリヴァイは見るだけで特に何も買わずに店を出るもんだから、どんだけ吟味するんだよと思った。

そしてまた店を出て街を歩く。


「…お前、行きたい店とかあるか」
「え?行きたいお店?」
「ああ。少しなら時間がある」
「……うーん。…いや、いいよ私は別に。」
「なぜ」
「だってリヴァイ掃除道具見たいんでしょ?まだ買ってないって事はいいのが見つかってないんでしょ?なら探そうよ」
「……。それは、ただの口実みたいなものなんだが。」
「………ん、…え?」


リヴァイは足を止め、私は振り返る。


「休みはお前もあまりないだろ。だったらたまには好きなもんでも買えばいい。いや、というか俺が買ってやる。だから欲しいもんがあったら言え。」
「………、」


唐突なそのプランに、私は目を丸くする。


「…俺も休みはそんなにとれねぇし、とれたとしてもお前と被るか分からねぇ。だからこうして二人で過ごすのは貴重な時間だ。」


そして私のマフラーに手を伸ばしてきてそれを解いたかと思えば、私の襟足にそれを回したまま両手でマフラーをくっと引っ張り私を引き寄せ、外からは見えないようにマフラーで左右を隠すと触れるくらいのキスをしてきた。


「……っ、!」


一瞬だけ出来上がった二人だけの空間と、なんだか久しぶりに感じるリヴァイの唇の感触に、心臓がどきりと跳ねる。

だけど酔いしれる暇も与えずにすぐ唇は離れ、そしてそのまま目が合うとリヴァイはふっと表情を緩める。


「……せっかくの休日なのに手も繋げないが、これで許せ。」


そしてそう言って何事もなかったかのようにまた私の首へとマフラーを巻きつけた。


「………、」


そんな街中でのリヴァイらしくない大胆な行動に、次第に顔が熱くなっていく。


「…ほら、行くぞ。もたもたしてる時間はない。何か買うならさっさとしろ」


私の胸はリヴァイのデレを溜めていく。そこはどんどん温かくなっていって、自然と口元が緩んだ。


「……許すも何も、そもそも別に怒ってないんですけど。」


そして足を踏み出した。私はリヴァイの隣へとまた並ぶ。


「寂しそうにしてたくせにか」
「それとこれとは別でしょ?」
「ふ、……で、結局どこへ行く」
「…うーんそうだなぁ……。欲しいものは、…あれだね。あったかいものなんだけど。」
「何だ、服か?」
「ううん、違う。」
「じゃあ何だ」
「それよりも、今夜リヴァイと一緒に眠れる権利が欲しいかな。ベッドに温もりが欲しいです。」
「………、」
「…ふふ。」
「……何だ、そりゃ。」


何よりもそれが欲しい。そう言って笑いかけると、呆れ顔が見えた。


「その権利は、お前はとっくに持ってるだろ。」
「……ふは。そうだけど。でも、最近はなかなか行使出来てなかったし」
「…確かにな。……仕方ねぇ。今日はなるべく早く仕事を終わらせるか。」
「 ほんとっ?」
「ああ。」
「…やった、嬉しい。ありがとう」
「ただ、すぐには寝かせねぇぞ。」
「……ふふ、それは、もちろん。」



街には変わらず冷たい風が吹き抜けているのに、いつの間にか冬の寒さなんて気にならなくなっていて、その上休日をこれ以上ないかたちで締めくくれそうだ。


冬というものは、こんなにもあったかいものだっただろうか。私の胸の中はぽかぽかと春のように温まっている。


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