リヴァイさんがようやくお店に来てくれて安心はしたけれど、それでもあんまり表情に出しすぎないようにしなければ。気をつけよう。最低限の距離感は、保っていないと。

…それはリヴァイさんにとっては居心地の悪いものかもしれないけど。



「……、」


だんだんとお店が混んできて、リヴァイさんと話せずにいながらもちらりとその姿を遠目から確認すれば、なんとなくいつもと違う雰囲気を感じた。


「(……あれ…もしかして、元気ない…?)」


いつもとは微かに違うリヴァイさんの横顔に私は小さく首を傾げる。


「……。」


そしてあとで時間が作れたら行ってみようと、店内の混み具合を密かに見渡した。





「…リヴァイさん、今日はよく飲むね。」
「……、」


そう言って隣のイスを引いてそこに座れば、ちらりとこっちを見るリヴァイさん。


「…サボりか。」
「なに、人聞き悪いわね…サボりじゃないです。」


いつもは立ったまま話をしているから、座った事に対して言っているんだろう。


「いいのか」
「うん。お客さんも引いてきたし。」


リヴァイさんは、そうか…と零してお酒を口に含む。今日はいつもより飲んでいるみたいだ。
コップを置くとその中のお酒に視線を落とし、静かに息を漏らす。


「…酔ってる?」
「…いや。」
「リヴァイさんって、酔うことはあるの?」
「ねぇな」
「強そうだよね。」
「…お前は、どうなんだ」
「私?…私はまぁ弱くはないと思うけど…普通かなぁ。」


話をしながらもちらりとその顔色を窺ってみれば、目が合った。


「……何だ。」
「ん、なにが?」
「……。」


考えてみれば彼は壁外調査に行っていたのだから、もしかしたらそのせいで元気がないのかもしれない。壁外へ行くのは精神的にも肉体的にも消耗するだろうし。リヴァイさんが無事に帰ってきてくれたからといって他の調査兵の人たちも全員無事だったなんて、そんなはずはきっとないだろうから。

顔を見れたことに安心して気づかなかったけど、よく見るといつもより疲れた顔をしているかもしれない。


「リヴァイさん、あなたちゃんと休んでる?」
「…あ?」
「前に休日もあまり休んでないみたいなこと言っていたけど、休める時に休んでおかないと本当いつか体調崩すよ?」
「何だ、心配してるのか」
「……うん、そうね。心配、してる。」


そう言うと、リヴァイさんは黙って、私から顔を逸らしコップを手に取る。


「…はッ…、今日はやけに素直だな…」
「……何言ってるの。壁の外に出て行ってる人達のことを心配しない人なんて、そうそう居ないでしょう。」
「あぁそうだな。そうだろうな。」
「……。とにかく、ちゃんと休んで下さいね。リヴァイさんってなんか無理ばっかしてるイメージあるし。」
「…何だ、そりゃ。」
「怪我とかもさ。してない?」
「してねぇよ。ガキか俺は」
「っ、ふ……」


いつもこうして来てくれるのは嬉しいけど、たまには誰かと一緒に来てくれたらいいのに。兵団でちゃんと馴染めているのだろうかと気になってしまう。


「大人だって怪我くらいするでしょう」
「それくらいの事でいちいち心配する必要はねぇ。」


リヴァイさんはお酒を飲み干し、テーブルにそれを置く。私はそれをちらりと見てからリヴァイさんを見る。


「…もう一杯飲みます?」
「……、」
「それとも今日はもうやめとく?」
「……お前が、居てくれるなら飲む。」
「………、」


その言葉に思わず動きが止まる。

そう言ってリヴァイさんは私の顔を見てきて、黙った。その視線に何とも言えない気持ちになる。

そして店内を見渡してから、口を開いた。


「…少し、だけなら。」


リヴァイさんに元気がないことを考えそう返せば、顔を逸らされた。


「……お前は、優しいんだか優しくないんだか、いまいち分かんねぇな。」


そう言って呆れたようにまた私を見てコップを渡してくる。


「……、」


それを受け取り、私は何も返すことが出来ずにそのままお酒を取りに立ち上がった。





「リヴァイさん、帰り道気をつけて下さいね。今日はいつもより飲んでたから」
「これくらい大した事ない。」
「そう?途中で喧嘩とか吹っかけたりしない?」
「しねぇよ。バカか」
「ふは、ならいいけど。」


今日の分とツケの分も払ってもらい、私はリヴァイさんに手を振る。


「じゃあ、お気をつけて。」
「ああ。」


その姿を見送り、リヴァイさんが見えなくなるとふうと息を漏らす。


「………。」


─優しいんだか優しくないんだかいまいち分かんねぇな。

リヴァイさんの言葉を思い出して、目を伏せる。
私はいつも彼に曖昧な態度ばかりをとっているくせに、突き放すことも出来ずに思わせぶりなことばかり。リヴァイさんが店に来てくれて、こんなふうにたまに話が出来たらそれでいいと、そう思っているのはきっと私だけで。
リヴァイさんがここへ来てくれている理由は、一応分かってはいるくせに、そ知らぬふりをして接している。私の優しさは多分優しさじゃない。むしろ逆のものだ。

いつまでも、こんなんじゃダメなんだろうな。そう、思った。



「………、(ていうか、もしかして、)」


もしかして今日リヴァイさんの元気がなかったのって、私のせいだったりするのかな。


「(まさか、いや、でもありえる)」


一杯目を運んだ時にまたいつものように何のことだか分からないみたいなこと言っちゃったし。


「………。」


うわ。そのせいでテンション下がっていたんだとしたら、どうしよう。

いや、でも、リヴァイさんもリヴァイさんでもうそんなの慣れてるよね?今更そんなことで落ち込まないよね?いやそれはそれで申し訳ないけども……


「……。(あーあ…もう…。いつまで、こんなこと)」


どっちつかずのままじゃ、いられないんだろうなぁ。

私はもうリヴァイの事を傷つけたくはない。


「……」


私は小さく頭を横に振り、思考を切り替える。仕事中に関係のない事を考えていたらダメだ。

顔を上げて、それから仕事に戻った。


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