じゃあねと言って友達に手を振り、歩き出す。

学校を終えた私はどこにも寄ることなく真っ直ぐ帰り道を辿り、そして家には帰らず近所の公園に立ち寄った。



「……。」


そこには一人で遊んでいるリヴァイの姿があって、私は静かに息を漏らしその小さな背中に近づいた。


「…リヴァイ。」
「 …… 、」


名前を呼べば振り返り、つまんなそうな瞳と目が合う。


「また一人で遊んでんの?」
「……誰か居るように見えんのか?」
「うん、見えないね。寂しそうに遊んでるお前しか見えないね。」
「 は?別におれ寂しくねーんだけど。」


この可愛くないのは、リヴァイ。園児。ガキ。友達は居ない模様。近所に住んでいる私の遠い親戚。ちなみにクソガキ。

リヴァイはいつも静かで誰も居ないこの公園で一人で遊んでいる。私はベンチに腰を下ろし、足を組んだ。


「ていうか、もっと広い公園で遊べば?何でお前わざわざこんな殺風景な公園で遊んでんの」
「うるせぇ。」
「こんなとこで一人遊んでたら誘拐して下さいって言ってるようなもんだよ?」
「おれ誘拐とかされねーし。ぶっ殺すし。」
「他の公園行けば遊んでる子だってたくさん居るだろうに。てかこの公園は何でいつも誰も居ないんだよ。心霊スポットか何かなの?」
「……そんなこと、言われなくても分かってる。」
「…え、?なに?」
「……うるせえ。別に、いいだろ。誰も居ない方がせいせいするし。」
「……清々、ねぇ…。」


そんなつまんなそうな顔で言われても。


「…まーいいや。そんなことよりリヴァイ、買ってきてやったぞ。」
「……何を」
「 ほら、お砂場セット。」


カバンからそれを出してリヴァイに見せると、目の前のガキはぴたりと動きを止めた。


「………え、」
「……え?」


そして驚いたような声を出した。


「……、」
「え、なに。どしたの」
「……なん、だよ、それ。何で…」
「は?いや何でって。この前買ってやるって言ったじゃん。聞いてなかったの?」
「……、」


この前リヴァイと砂場で山を作った時、お砂場セットも持ってないと拗ねていたから、買ってやるって言ったはずなんだけど。
だから昨日これを買って、わざわざ今日学校まで持って行ったんだからね。帰りにそのままここで渡せるように。しかもこれ学校で友達に見られて笑われたんだからね。そこまでして持ってきてやったんだぞ。

なのにリヴァイはそれを見て顔を顰めた。


「…何だよ。いらないの?」
「…………」
「……。あの、リヴァイくん?聞いてる?」
「………」
「いやいや。せめて返事しろって。いらないんか?」
「…………いる。」
「いるんかい。だったらそんな顔するなよ。」
「……。」


ほら、と差し出してやるとおずおずとそれを受け取り、また黙る。


「何なの。違うのが欲しかったの?」
「……」


黙ったままそれを見つめるリヴァイにそう聞けば首を横に振った。


「いやだったら喜べよ。何でそんな顔すんの。」
「……」
「リヴァイ?」
「……本当に、買うと思わなかった」
「は?」
「…あんなの、適当に言っただけかと思った。」
「……は」
「……。」
「……い、いや… お砂場セットくらい…。別に…買ってやるよ…。」


え、何?本当に買ってきたことに驚いてんの?は、これくらいのことで?

その言葉に私は呆気にとられて、体の力が抜ける。


「……。」
「…いや、いやいやいや。リヴァイ?何なの?これ欲しかったんでしょ?だったら素直に喜んでいいんだよ?ガキらしく無邪気に喜べばいいじゃん。ぴょんぴょん跳ねて喜べよ。喜びを体で表現しろよ。こんな変な空気になるとか聞いてないんだけど。」
「………だって、ケニーはいつも適当なことばっか言いやがって…、すぐ忘れて、こんなふうに買ってくれねぇし…」
「……あぁ…。あの人はね……。」


確かにあの人は適当っぽいけど。

ケニーというのはリヴァイの叔父さんだ。リヴァイを育てている、リヴァイの叔父さん。


「……」
「…何、私も適当に言ってるだけだと思ったの?」
「……。」
「……。」


黙りこくるリヴァイに、思わず出そうになったため息を我慢してベンチから腰を上げ、リヴァイのすぐ前に腰を落とした。


「あのさ、リヴァイ。別に私はお前に何でも買ってあげられるわけじゃないけど、でもこれくらいのもんなら私でも全然買えるし、だから何か欲しいもんがあったら遠慮しないで言っていい。…お前の我儘は、私が聞いてやるよ。」
「……、」
「ていうかガキは普通もっと貪欲なもんでしょ。何でもいいからもっと甘えてみればいいじゃん。私に出来ることなら何でもやってやるし。」
「……何で」
「…何ででも。だからとりあえずお前は、もっと嬉しそうな顔をしやがれ。」
「…っ、」


そう言ってリヴァイの両頬を指で引っ張ると、嫌そうに身じろぎして一歩下がった。


「っやめろバカ、」
「はいはい笑って笑ってー。」
「 おま、っウザい、」
「それとお前はもっと協調性を養うべきだな。」
「は、?なんの話、だよ」
「……まぁいいや。とにかく、せっかく買ってきたんだからそれ使って遊ぶぞ。」
「……あ、」


リヴァイの手からお砂場セットを取り、砂場へと歩き出す。するとついてくる様子のないリヴァイの気配に、足を止め振り返れば目を逸らされた。


「……どした。」
「………。」


何も言わないリヴァイに、軽く首を傾げ、ただ待った。すると静かに口を開いて、目を伏せながら言った。


「………ナマエ、」
「ん、なに?」
「………あり、が、と…」
「…… 、」


ぎゅっと自分の服を握って消え入りそうな声でそう言うもんだから、思わず私も何て返したらいいのかが分からなくなって、だけどとりあえず側に寄ってその頭をポンポンと撫でてやった。


「…はいはい。どういたしまして。」
「……。」


すると何とも言えない顔をしながら私を見上げ、そしてまた目を逸らして砂場へと走り出した。


「……。 ハァ…」


私はため息を吐いて、ゆっくりとその姿を追った。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -