「おい、ビッチ」
「誰がビッチだよ。このクソガキ。」


公園のベンチに座りながらスマホをいじっていると、両手を砂まみれにした目つきの悪い子供にビッチ呼ばわりされたので画面から目を離さないまま口を開きすぐさま言い返した。


「何で公園にまで来てそんなもん見てんだよ。」
「…何、構ってほしいの?」
「……ちげーよ。」
「私にお前と一緒に砂場で山を作れと?JKの私に?」
「じぇいけー?何だそりゃ。ビッチのことか?」
「ちげぇよ。どの頭文字とったらJKがビッチの略称になるんだよ。」
「何でもいいから、黙っておれと一緒に山を作れ。」
「しかも結局作らされんのかよ。…ていうかお前、服汚れてんじゃん。汚すなよ。怒られるじゃん。」
「…うるせぇ」
「私が。」
「お前がかよ。自分の心配してんのかよ」
「そりゃあ一緒に居る私が注意されるでしょ?こういう場合。ガキの面倒は側に居る大人がちゃんと見なきゃいけないんだよ。」
「…大人って。ナマエまだ学生じゃねーか」
「リヴァイからしたら私はもう大人みたいなもんでしょ?つまりそういう事。」
「は?どういうことだよ。」


スマホをポケットにしまいリヴァイの前にしゃがみ込んで汚れた服を払ってやる。それから小さくため息を吐いて、立ち上がると仕方なく砂場へと足を向かわせた。


「…ほら、リヴァイ水汲んで来い。砂を固めて最強の山を作るぞ。」
「……やる気まんまんじゃねーか。」


腕を捲くり、リヴァイを見るとそう言いながらもどことなく嬉しそうに水道へと駆けていった。


「……。」


私は砂場へ腰を下ろし、さっきまでリヴァイが一人で作っていた山を見つめる。


「……(あいつ、幼稚園に友達居ないのかな)」


目つき悪いし口も悪いし、態度も悪いし。
それに誰かと遊んでるところなんて見たことないしなぁ。



「ナマエ」


ぼーっとしていると名前を呼ばれ、そっちを見るとリヴァイが突っ立っていた。


「…どした」
「そもそも水を運ぶバケツがねぇよ。」
「…は?お前、園児のくせしてお砂場セットも持ってねーのかよ?」
「…ねぇよ。見たら分かるだろ。」
「……じゃあ何であんなノリノリで水道の方へスキップして行ったんだよ。」
「スキップとかおれしてねーんだけど。」
「ハァ…。…じゃあ、私のペットボトル使うか。」
「持ってんなら最初からそれ出せよ。」
「……。リヴァイくん、生意気だよ?てめぇ。」
「いいからさっさと出せよビッチ」
「………。」


こいつ絶対友達居ないわ。

私はそう確信しながら、カバンの中から飲みかけのペットボトルを取り出した。そしてその残りを飲み干そうと蓋を開ける。


「…リヴァイ、飲む?」


一口飲んで、リヴァイを見ると黙って近づいてきた。小さなその手にペットボトルを渡してやると、そのままごくりと飲んだ。


「全部飲んでもいいよ。飲んだらそれ洗ってバケツ代わりに使おう。」
「……」
「そうだ、穴も掘って山にトンネルも作るか。」
「……」
「……ん?リヴァイ、もういらないの?喉渇いてないんか?」
「………どうせおれは、砂場セットも買ってもらえねーよ。」
「…あ?なんて?」
「……なんでも、ない。」
「………。」


リヴァイは少し拗ねたような顔でペットボトルを握り締め、目を伏せる。


「(…あぁもう。めんどくさいな…。)」


私は息を漏らしその手からペットボトルを取り、残りを一気に飲み干し水道へと向かう。


「リヴァイ、お前の山を作るんだろ?手伝え。」
「……。」
「お砂場セットなら、今度私が買ってやるから。」
「………、は」
「だから今日はこれで我慢しろ。」


洗って、中に水を入れてそれを押し付ければ顔を上げた。


「…ほら、最強の山を作るんだろ?トンネルも、開通させるんでしょ?」


くしゃりと頭を撫でてやれば、黙ったまま私の顔を見つめ、それから微かに表情を和らげた。


「…それは、ナマエが勝手に言ったことだろ」


憎まれ口をたたきながら、それでも一緒に歩き出した。

こうして今日もまた私は貴重な放課後を近所の子供と共に過ごすのだった。



「ナマエ、制服汚れてるぞ。」
「…あーもういいよ。あとで払えば落ちる。」


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