「やあ!暫くぶり!」


テーブルの片付けをしていると後ろから肩を叩かれ、振り向けば懐かしい顔がそこにはあった。


「…ハンジさん!」


私は思わず笑顔になり、その名前を呼ぶ。最近顔を見なくなっていたハンジさんがお店に来てくれたのだ。


「久しぶりだね〜元気だった?」
「元気元気!ハンジさんも相変わらず?」
「うん!変わらずだよ」
「そっか良かった。ハンジさんたち最近来てくれないからさ〜」
「ごめんごめん。でもリヴァイが来てるだろ?」
「まぁリヴァイさんは来てくれてるけど…でも他の人たちが誰も来ないんだもの。寂しい」
「っはは、悪いね。でもここはもうリヴァイの店になっちゃってるからさ」
「ふは…何それ?別に他の調査兵の方々も来てくれて全然いいんですけど?」
「まぁそうなんだけどさ。私達が居たら邪魔かなーってね。」


そんなことを言いながらハンジさんは席に座る。私は曖昧に笑顔を返し、お酒を取りに一度席を離れた。


「はい、どうぞ。」
「ありがとう」
「今日は一人なの?」
「うん。」
「みんな…元気?」
「うん、元気だよ!」
「そっか。でも本当たまには顔出しに来てよ?寂しいから」
「だって私達が来たらリヴァイが嫌がりそうだし。」
「もう、何なのさっきから。別にここはリヴァイさん専用酒場じゃないんですが?むしろハンジさん達の方が長いでしょ?」
「いや、酒場というより…… ねえ?」
「……ねぇ?って。何よそれ」
「ふは、分かるだろ?」
「……何のことだか。」


ハンジさんはちらりと私を見て、笑いながらお酒を流し込む。


「気づいてないわけじゃないだろう?」
「知りませんよ、私は何も。」
「へえ〜それはまた鈍感なことで。」
「…もう、本当に何なのよハンジさん。久しぶりに来たかと思えば」


眉を寄せてじろりと視線を送ればハンジさんはコップを置いて、声のトーンをひとつ下げた。


「いやさ……リヴァイは調査兵団に入ってから環境が変わって、他にもいろいろあっただろうからさ。こういう場所が出来て良かったなって思ってるんだよ。」
「こういう場所?」
「うん。きっとここはリヴァイにとって憩いの場なんだろうさ」
「……そう?それなら、嬉しいけど。」
「だからこれからも相手してやってよ。まぁ私が言うのもおかしいけど。」


ハンジさんがリヴァイさんをここへ連れて来たのは、入団したばかりのリヴァイさんをみんなと馴染ませようとしたからなんだと思う。だからそれからリヴァイさんがこの店にも慣れて一人で足を運ぶようになった事が嬉しいんだろう。ハンジさんは、仲間想いの素敵な人だ。

だけど私はその思いとは裏腹に、口を開く。


「それはもちろん…リヴァイさんは大事なお客様の一人ですから。これからも精一杯接客させて頂きますよ?」
「……うわあ。何その意地の悪い言い回し。」
「んー?何が?」
「好きじゃないなぁ。そういうの。」
「どういうの?」
「……。相変わらず何でそんな態度なのかは分からないけど、まぁ、追求はしないよ。私がしゃしゃり出るようなことでもないだろうし。 ……ただ、」
「…ただ?」


ハンジさんは少し呆れてるような顔で眉を下げ、私を見る。


「リヴァイと話してる時の君は、相手が客だからとかじゃなく素直に穏やかな顔をして笑ってると思うけどね。」
「………、」



リヴァイさんがここへ一人で来るようになるまでは普通にハンジさん達とも何度か一緒に来ていた。私はその頃からリヴァイさんとも普通に話をしていたけど、来てくれるお客さんには誰にだって同じように接しているつもりだ。

その言葉に私は何も返さずくるりと体の向きを変え髪を揺らし、ハンジさんに笑顔を向ける。


「ゆっくりしていって下さいね、ハンジさん。」
「……っふ、 …そうさせてもらうよ。」





それから数日後、いつものようにリヴァイさんがお店に姿を現した。

店に入ってきた彼に気づくと私は無意識のうちに思わず口元を緩め、空のコップを下げてからそのままゆっくりと足を向かわせる。



「 リヴァイさん、いらっしゃい。」
「…ああ。」


そして笑顔を作りそれを彼に向けた。


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