「あ、リヴァイさん。いらっしゃい」 彼はいつも同じ席に座る。 「いつものでいい?」 「ああ。」 そしていつも同じお酒を頼む。 「…はい、どうぞ。ゆっくりしていって下さいね。」 「お前が相手してくれるのか?」 「ん?お相手がほしいの?なら、そういうお店へどうぞ。」 「……お前が居るなら、行ってもいいかもな。」 「何それ。もう酔ってる?」 「バカ言え。仕事中は一滴も飲んでねぇよ。」 「それはお疲れ様です。兵士さん。」 彼、リヴァイさんは調査兵団の兵士だ。そしてよくこの店に飲みに来る。私が働いている、この酒場に。 「リヴァイさんは調査兵団に遊んでくれる女の一人や二人…居ないの?」 「居たらわざわざ一人で飲みに来ねぇよ。」 「そっかー。寂しいねぇ。」 「うるせぇ。てめぇこそ人のこと言えるのか?」 「さぁ…、どうだろうね?」 「…どうせ居ないんだろうが。そういう男は」 「まぁ、居ないけど」 「……寂しい女だな。」 「あ、いいの?そういう口を利いてると、リヴァイさんのお酒に何入れるか分かったもんじゃないよ?」 「何だ、毒でも入れるってのか。死人でも出たらこの店はお終いだぞ?そうなるとお前も他の働き口を探さなきゃならなくなる。」 「私はリヴァイさんのせいで職をなくすの?それは勘弁被りたいわね。」 「なら大人しく俺の相手をするんだな。」 「…はいはい。だからいつもこうしてちゃーんと真摯にお相手してあげてるじゃないですか?お客様。」 「は… よく言う。」 こうして私はいつも空いている時間にリヴァイさんとよく話をしている。別に他のお客さんと話す事も普通にあるけど、それでもリヴァイさんと話す事が一番多い。彼がいつも一人で来ているという事もあって。 「お前、髪、伸びたな。」 「え、あぁ……そうね。大分伸びたよね。」 「伸ばしてるのか?」 「うん。久しぶりに伸ばしてるの。似合う?」 「……キレイな髪ではある。」 「何それ、髪だけ?」 「んなもんいちいち言わせるな。」 「っふ、 ありがとう。」 「……どうして伸ばそうと思ったんだ」 「え?…うーん。 それは……髪を伸ばしたら、気づいてもらえるかなって思って」 「…あ? 誰に、何を」 私はひとつに結んでいる伸びた髪を指で触りながら、目を伏せる。 「……それは内緒。」 リヴァイさんが初めてこの店に来たのは、私の髪がまだ短かった頃。リヴァイさんが調査兵団に入って少し経ってからの事だったらしい。 『さぁさぁ、今日は飲もう!皆で腹を割って!』 『…なぜてめぇと腹を割らなきゃならない』 『何だよつれないなぁ。せっかく来たというのに!』 『てめぇが無理やり連れてきたんだろうが。』 『そうだっけ?まぁ細かい事はいいじゃないか!』 『…チッ……』 『まぁとりあえず飲もうよ、 リヴァイ 』 その姿と名前を聞いた瞬間、私は運んでいたお酒を床に落としてしまった。 『……リ…ヴァ イ…?』 頭に響き渡るその名前に、床を汚してしまった事も気にせずこっちを見るその人の顔から目を離せなくなった。 『……あ?』 私は目を見開き、眉根を寄せるその顔に心臓がドクンと大きく音を立てた。 「…何だ、そりゃあ。」 内緒、と言って人差し指を持ってきて口角を上げればリヴァイさんはそれが気に食わないとでもいうような顔をする。 「…っふ、」 「……。」 「リヴァイさん、そろそろ私は仕事に戻るね。怒られちゃう。」 「……、ああ」 にこりと微笑み、私は背中を向ける。 「……。」 気づいてほしいけど、気づいてほしくない。 気づいてほしくないけど、気づいてほしい。 今日も言いたい事を言えずに私は兵士のリヴァイさんと普通に会話をする。 |