「という事でリヴァイさん」
「ん。」
「遊園地に来ましたよ!!」
「あぁ」


動物園の翌日、私達は遊園地に来た。


「まずはやっぱりジェットコースターですよね!よっしゃ行きましょー!」
「オイガキ、ちゃんと前見て歩け。」
「ほら早くはやく〜う!」
「……(聞いてねぇ)。」


着いてさっそく私は笑顔でリヴァイさんを手招きしながら、ジェットコースターに向かって足早に歩き出した。





「ちょっとリヴァイさんっ!何なんですか!?私っ、自分の目を疑ったんですけど!?」
「…あ?何がだ?」
「何がっていやいや!何であなた乗ってる最中まであんな無表情なんですか?!なんかすっごいシュールだったんですけど!!」
「は?むしろお前らあれくらいで叫びすぎだろ。キャーキャー騒ぎやがって耳障りだったんだが」
「いやいやいや!ジェットコースターっていうのはそれも含めて醍醐味なんですよ!?キャーキャー言うのが楽しいんじゃないですか!むしろ全員がリヴァイさんみたいに無言で無表情だったら怖いでしょ!……っふ、ちょ、何それ想像したら面白いし」
「……」
「あははっ、やばい、もう……面白すぎでしょそんなの!やめて下さいよ」
「いや俺は何もしてねぇ」
「そんな静かなジェットコースター嫌ですよ!ぜんぜん楽しくないでしょ!」
「…むしろ今のは楽しいものなのか?」
「え?いや楽しいでしょ?もしかしてまたリヴァイさん楽しめなかったんですか?」
「今ので何を楽しめば良かったんだ?」
「え、何をって……壮快感とか…?上がったり下がったりする感じ、とか…速さとか…?」
「……ふうん。」
「ふーんって。ふーんってリヴァイさん。何なんですか、今回は表情に出せなかったんじゃなくて、単に楽しくなかったんですか?」
「…正直、よく分からない。」
「マジか。怖かったとかでもなくて?」
「怖い?…あれが?あれのどこに恐怖を感じるんだ?」
「え、いや落ちる感じとかに…?」
「あんなもん、立体機動と同じようなもんじゃねぇか。むしろあの感覚はなんだか懐かしかったな。」
「………えっ、立体機動って……あの装置のことですよね?え、あれってあんな感じで動くんですか?」
「近いもんはある。」
「そうなの!?あれってあんなに激しく動くんですか?すごいですね。」


リヴァイさんはまた遊園地の楽しみ方が分からないと言う。とことんここの人間とズレてるな。


「まぁいいや、とはいえ来たからにはいろいろ乗りまくりますよ?楽しみ方は自分で見つけて下さい!」
「…分かった。」


だけどもう気にしない。何をするかよりも、リヴァイさんと二人で何かをするという事の方が大事なのだから。


「よし、行きましょう!」
「……、」


私はリヴァイさんの手を取り、笑顔でまた歩き出した。





「っう……気持ちわる…。」
「……大丈夫か」


あれからいろんな絶叫系に乗った。私は普通にはしゃいで、リヴァイさんは相変わらず無表情だった。だけど並んでいる最中や歩いてる時に、二人でいつもみたいな他愛のない話をしたりどうでもいいような事で軽く言い合ったり、なんだかんだでそういう時のリヴァイさんの表情は悪くなかったと思う。

そしてそんな中次はティーカップに乗ったら、気持ち悪くなりました。


「だってリヴァイさん…回すの速すぎです…首もっていかれるかと思った…。」
「お前が回せと言ったんだろうが。」
「いくらなんでも回しすぎ……。」
「……」
「もう周りが何も見えませんでしたよ…高速すぎて…」
「…そうか?俺は回してる最中に向こうの方で鳥のクソが落ちてきたのが見えてそっちが気になったが」
「見えたの!?リヴァイさんあの速さの中鳥のフンが落ちてきたの見えたの!??」
「ああ」
「何それすごくない!?どういう視力してんの!?いやそれは視力なのか!?ていうかそもそもあんなに回ってたのに止まった時も普通な顔してたし!しかも全くフラフラせずに歩けてたし!何なの!?どういう事なの!?」


地面にしゃがみ込みながら若干涙目でリヴァイさんに詰め寄る。リヴァイさんは隣にしゃがみ込み全く普通の表情で、私の背中を擦ってくれている。


「落ち着け。それより、少し休むか?」
「……。そう、ですね…。ちょっと休憩しましょう…」


全く顔色の変わっていないリヴァイさんの手を借りながら立ち上がり、それから飲み物を買ってベンチに移動した。
少し休んで、静かにしているとだんだんと気分がよくなってくる。


「……はぁ。落ち着いてきた」
「苦手ならやめておけばいいものを」
「いや苦手じゃないですよ!何なら好きですよ!ただリヴァイさんが回しすぎなんですって!そのままティーカップ飛んでいくかと思いましたよ!?」
「そうか?」
「そうですよ…ていうか私もマジで吹っ飛びそうでしたし」
「なってねぇな。もっと鍛えろ」
「いやいや鍛えろと言われても…どこを?」
「あれくらいで顔色悪くなってたんじゃ、やってけねぇぞ。」
「この世界ではやっていけますよ。リヴァイさんが凄いんです。それとも調査兵団の人たちはみんなこんな感じなんですか?」
「さぁな。」
「なんかもう、世界というか次元が違いますよね。」


私は飲み物を一口飲み、息をこぼし周りを見渡す。


「…次はどうしましょうか」
「まだ乗るのか?けっこう乗ったと思うんだが」
「ですね…何気に。他には……あ、そうだ。まだあそこ行ってないじゃん。」
「…何だ?」
「えっと……実はちょっと苦手なんですけど、でもせっかく来たから、行ってみようかな…」
「……。」


少し悩みながらも次の行き先を決めて、私は腰を上げる。


「…よし。行きましょう、リヴァイさん」
「…大丈夫なのか?気分は」
「あ、はい。大丈夫です。でもこれから行くところでは私今まで以上に騒いじゃうかもなので、そこんとこ分かっといて下さい。」
「…今まで以上にって、お前どんだけはしゃぐんだよ。見てられねぇぞ」
「いやはしゃぐっていうか……まぁいいや。行けば分かりますよ。行きましょ。」
「……。」


私は気合を入れて、そこへ向かって歩き出した。







「イヤぁあああッ!!?ビックリしたあ!!!!やめて!!!」
「………。」


突然出てくるお化けや演出に怯えながら、リヴァイさんの腕にしがみつき体をビクつかせまくる。リヴァイさんはそんな私を見て顔を顰めまくる。


「リヴァイさん、きますよ!!!絶対きますよ!!?」
「……。」
「ひっ……うわ、こわいこわいこわい!!!」
「……。」
「やだやめて!!!くるのこないの!!?」
「…やめてほしいのはこっちの方なんだが。」
「だって、うわっ!?……あ、なんだ何もなかっ…キャアアアア!!?」
「っうるせぇ…」
「ひっ……そんなこと、言われてもうわあ!!?」
「てめぇ耳元で騒ぐんじゃねぇ、」
「キャアッ!?!」
「…オイ、」
「うわああああでた!!!!」
「ナマエ、」
「エッ!?うわあ!?」
「……オイ、離せ、うるせぇ」
「キャーーーー!!?」
「いやだからうるせぇよ!!」
「うわこっちも怖い!!ごめんなさい!!!」
「これくらいでいちいち騒ぐんじゃねぇ!」
「いやだって怖いじゃないですか!?」
「もううるせぇから引っ付くな、離れろ!」
「そんな殺生な!!無茶言わないで下さい!!お願いだから離れないで!!」
「うるせぇ黙れ!そもそも何なんだこの状況は!何をしているんだ!?」
「お化け屋敷ですよお化け屋敷!!大人が全力でおどかしてくるんですよ!!」
「何でだよ!何の為にだよ!」
「何でと言われてもそういうものなんです……ひっ、」
「……意味が分からねぇ…。」
「うわはぁ〜…こわい……」
「これの楽しみ方が本当に俺には分からない。」
「…これは、こういう楽しみ方なんデスヨ…!」
「入ってからずっと苛立つ一方なんだが。いきなり出てくる奴は殴ってもいいのか?」
「いやダメですよ!!」
「このままだと反射的に殴っちまいそうだ……」
「いやマジでそれだけはやめて下さいね!?」


舌打ちをするリヴァイさんを宥めながらもまた出てくるお化けに絶叫し、その度にリヴァイさんをイラつかせながら私達は進んでいった。

リヴァイさんとのお化け屋敷は、いろんな意味で怖かった。





「リヴァイさん、ごめんね?」
「……。」
「いやほんとに。悪かったと思ってます。」
「……。」
「機嫌直して下さいよ…」
「……もう少しで、お前の事も殴りそうだったぞ。俺は。」
「…うん。ごめんて。」
「……。」


お化け屋敷から出ると、リヴァイさんのテンションがガタ落ちだった。いやガタ落ちどころか怒ってた。途中からすでに怒ってたけど。
とにかくすごい機嫌悪そうだ。眉間のシワがそれを物語っている。


「ハァ、」
「でも私、楽しかったです。今となっては」
「嘘つけよ」
「いやほんとに。もちろん怖かったですけど」
「……。」
「…あの……すみませんでした。ちょっと、叫びすぎましたよね。」
「ちょっとじゃねぇ。」
「はい。かなり、ですね。ごめんなさい。」
「………まぁ、いい。そういう楽しみ方なんだろ…あれは。理解出来ないが。」
「…ありがとうございます。リヴァイさん、全然怖がってなかったですしね。」
「イラッとしただけだったな。」
「うん……だって、お化けが出てきた時のリヴァイさんの顔、殺し屋みたいでしたもん。多分相手の方がビックリしてたと思いますよ。怖すぎて成仏した可能性ありますよ」


そんなことを話しながら、お化け屋敷も入ったところでなんだかんだで夕暮れ時だ。私は時計を見る。あまり遅くなるのも嫌だから、ここらへんでそろそろ最後にした方がいいかも。


「……じゃあリヴァイさん、そろそろ最後の乗り物行きますか。」
「まだ何か乗るのか?これ以上お前の叫び声を聞いたらさすがにキレるぞ?」
「いやキレないで下さい……でもまぁ安心して下さいよ。最後のは叫ぶ系じゃないので。」
「……。」


まだ少し眉根を寄せるリヴァイさんの肩に触れ、大丈夫ですと頷いてみせる。

最後はやっぱり、静かで落ち着けるものがいい。そこへ向かい、歩き出した。





「……」
「……」
「……」
「……」
「…静かだな。」
「……でしょ?」


やっぱり最後は観覧車だよねと一人で勝手に納得する。

向かいに座るリヴァイさんは頬杖をつきながら、景色を眺めている。


「……。」


さっきとは違い静かにゆっくりと動く観覧車。

私も遠くを眺めながら、今日のことを思い返してみた。
最初リヴァイさんがジェットコースターでも無表情だったのはビックリしたけど、今日一日ちゃんと楽しんでもらえただろうか。いい思い出にはなれたかな?それともさっきのお化け屋敷でうんざりしちゃったかな。……でも、記憶には残りそうだよね。あれはあれで。
少し反省しながらも、面白かったなと口元を緩める。

でも慣れない事を昨日と今日でさせてしまったけど、その分疲れていないかが気になるな。もう残りの時間が少ないかもしれないからと思って二日連続で出掛けちゃったけど、せわしなかったかもしれない。
それに本当はもっとリヴァイさんがちゃんと楽しめることをしたかったな。

結局それはあまり出来なかったように思える。



「…ありがとな。」


そんなことを思っているとリヴァイさんが静かにそう溢して、私は視線をリヴァイさんへと移す。すると彼は景色を見ながら、続けた。


「別にあのまま家に居てもそれはそれで良かったんだが…それでも外に出るとやっぱり気分が変わる。」
「………そう、ですか?」
「ああ。…だから、ありがとうな。連れ出してくれて。」
「……あ、いえ…そんな…全然。むしろなんか半ば強制的に付き合わせちゃって、私の方こそありがとうございました。」
「そんな事ねぇよ。…楽しめた、と思う」
「…本当ですか?」
「……いや、違うな…」
「え?」
「それよりも…それ以上に、お前がこうして俺の事を考えて行動してくれた事自体が…それが、有り難かった。」
「……。」


リヴァイさんの視線が、景色からゆっくりと私に移る。


「…お前は本当に、あきれるほどのお人好し馬鹿だ。」


そう言って、ふっと笑ったリヴァイさんの顔は夕日にキレイに照らされていて、その光景に私は胸の高鳴りを覚えた。


「………、」


するとまたすぐにリヴァイさんの瞳は外の景色を映す。

私はその横顔を見ながら、どうにもならないこの感情を閉じ込めるように両手をきゅっと握り締めた。そして夕日が眩しくて、目を伏せる。


「…そんなこと言いますけど…リヴァイさんだって、優しいじゃないですか?」
「……はッ…何言ってやがる…」
「…優しさは優しさで返ってくるものですよ?だから、です。」
「……、」
「まぁそのまま返ってこない場合だってあると思いますけど…でもリヴァイさんはそのまま返してくれるでしょ?…だから、リヴァイさんは普通に優しい人です。」
「………俺はそんなんじゃ、ねぇよ。」
「そんな事ないですよ」
「…俺はお前みたいな…出来た人間じゃない。ガキの頃からずっと、褒められた生き方はしてきてねぇしな。」
「……」
「だから、お前が思ってるような人間じゃねぇよ。俺は」
「……でもそれは、リヴァイさんの考えでしょう?」
「あ?」
「私はリヴァイさんのこと、普通に優しい人だと思ってますし…まぁ確かに皮肉っぽいし口も悪いところもありますが……でも、私が感じたリヴァイさんはそれだけの人じゃないです。…リヴァイさんは一見、冷たそうに見えて……でも、心はちゃんとあったかい人です。」
「……」
「少なくとも私は、そう思ってます。」
「…………馬鹿だな。」
「…それはリヴァイさんも同じでしょ?」
「……ふ、… そうかもな。」



観覧車は動きがゆっくりで、だけど確実に時間は進んでいて、終わりは必ずくる。

その当たり前の事が今の私には少し切なくて、終わりなんかこなければいいのにと思った。
だけど、時間が止まることはない。


「…リヴァイさん、そろそろ終わりですね」
「…ああ。意外と早いな…」


その中で過ごした日々を、リヴァイさんとの日々を、全部ちゃんと覚えていたいと思った。この感情も、オレンジ色に染まったこの空間も、一瞬一瞬をちゃんと胸に焼き付けておきたい。
そしてリヴァイさんにも、ずっとずっと忘れないでいてほしいと強く思った。


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