ナマエが部屋から出てこなくなって三日が経とうとしている。俺の怒りはとっくに収まっているんだが、アイツはまだ怒ってるのか何なのかただの意地なのかとにかくあまり顔を見てない。


「本当だ、ナマエがリビングに居ない。マジで自分の部屋に引きこもってんだねー。ちょっと様子見てきてもいい?」
「やめておいた方がいい。俺も昨日行ってみたがすごい機嫌悪かった。」


エルヴィンはハンジにそう言って止める。ていうかなぜハンジがここに居るんだ。


「何しに来たんだこのクソギャンブラーが。」
「うわ、リヴァイまで機嫌悪いじゃん。何だよ妹と喧嘩してるからって私に当たるなよ。」
「昨日あたりからリヴァイまで機嫌悪くなってきてな。多分リビングに一人で居るのが寂しいんだろう。」
「寂しくねぇよ死ね。」
「あれ?でもという事は、リヴァイと別々で寝てるってこと?ナマエ一人だと眠れないんじゃなかったの?」
「そういえばそうだな。リヴァイ、どうなっている?」
「チッ、知らねぇよ。俺に聞くな。」


そうだ。気になるのはそれだ。
ナマエは昔から俺が居ないと眠れない。はずなんだが。修学旅行の時もそれが嫌だと言って行くのを渋ってたくらいなのに。


「ていうか何で喧嘩したの?仲良かったんじゃなかったの」
「…確か、原作厨とアニメ組の派閥争いだったか?」
「ちげぇよ。アイツが俺の漫画の帯を踏んだのが原因だ。」
「それか。」
「え…それだけ?帯なんてどうせ捨てるんだから別に踏まれてもいいじゃん。」
「今すぐ俺の前から消え失せろこのクソメガネが。」
「っえ、」


コイツとは一生分かり合えないだろう事を悟り、俺は立ち上がりナマエの部屋に足を向かわせた。

そして部屋の前に立ち、声を掛ける。


「…ナマエ、いい加減部屋から出て来い。いつまでへそ曲げてるつもりだ?」


しかし中から返事はない。


「……。」


くだらない喧嘩だという自覚はある。だがナマエが部屋から出て来ないなら俺はそれを待つしかない。無理やり引っ張り出してまた拗れても面倒なだけだ。

俺はため息を吐いてそこから離れた。





「うっ……うぅっ…、っ」


夜中に、ベッドで一人寝ていると変な音が聞こえてきた。


「……あ…?」


ポタポタと顔に何かが落ちてきて、目を覚ますと。


「お、にい、ちゃぁん……っうぅ、」


ナマエが俺に跨り泣いていた。


「……な、何、してんだ…お前」
「帯、踏んじゃって、ごめんね……っ」
「……。」
「…やっぱり、お兄ちゃんが居ないと私、眠れない……一人じゃ眠れないよぉ…!」


俺に跨りながら暗闇で俯き泣いているその姿は正直ホラー映画のワンシーンかと思ったが、とりあえず体を起こし妹の涙を拭ってやった。


「…泣くな。」
「っう、 うぅっ…」
「帯のことなら気にしなくていい。あんなもん、エルヴィンにもう一冊買って来てもらえばいいだけの話だ。」
「でも私が悪かったのに、なのに……っ」
「いや、俺も言い過ぎた。ごめんな」
「お兄ちゃんは悪くないよっ!どう考えても私が悪いのに…っなのにキャラの声の事まで口出ししちゃって…!!」
「…もういいからとりあえず泣き止め。」
「っう、うわぁぁぁんっ」


一人で眠れないと言って泣きながら俺に謝ってくるハタチの妹。成人済みである。
そんな寝不足な妹が可愛くて宥めるように頭を撫でてやった。俺の方こそ一人で過ごしていたことがストレスになっていたのは、コイツには黙っておこう。





「……あれ?おかしい…ナマエがリビングに居る。俺はついに幻覚が見え始めたのか?」
「あ、おかえりエルヴィン。幻覚じゃないよ現実だよー」
「何だと!?ナマエやっと部屋から出て来たのか!?」
「見れば分かるだろ。」
「出てきましたー」
「それは良かった。仲直りしたんだな。……いや、でもちょっと待て。」
「なに?」
「何だ」
「何ってお前ら。俺にはお前らがかなり密着して座っているように見えるんだが…おかしくないか?」
「?なに言ってんのエルヴィン」
「見て分からないのか?」
「……、」
「別にただお兄ちゃんの足の間に座って一緒に漫画読んでるだけじゃん?」
「ただナマエを後ろから抱き締めるような感じで漫画を読んでるだけだろ。」
「いやそれがおかしいと思うんだが!仲直りのライン超えてるぞ!お前ら!何なんだそのカップルみたいな座り方は!」
「別に兄妹なんだからいいだろ。」
「そうだよエルヴィン。仲が良いことは素晴らしいことだよ?」
「いや兄妹だからおかしいんだろう!仲が良すぎてもそれはそれでおかしいだろう!」
「…まぁ確かに昨日の夜ナマエが俺に跨ってきた時は驚いたが…。」
「!?」
「だって我慢出来なくて…仕方ないじゃん。」
「なん…だと…!?お前ら、まさか……!」
「…あ?」
「どうしたの?」
「俺の知らないところでそんなコトを……!?」
「……何言ってんだ?」
「分かんない。」
「そんな関係だったのか!?」
「どんな関係だよ。」
「いくらお前らの仲が良かったとしても、ベッドでそんな行為をするのは許さないぞ!」
「……何考えてんだ?てめぇは。ナマエの前でおかしな事を口にするんじゃねぇ。殺すぞ」
「エルヴィン、何か勘違いしてるみたいだけど、それ違うからね。私たち何もやってないからね。ただいつもみたいに寝ただけだからね。」
「あ、そうなのか?なんだ。跨るとか言うから」
「…お兄ちゃん、もうあの人ほっといて次のページいこう。めくって」
「ああ、そうだな。そうするか。」
「……え、何この疎外感。」


兄妹喧嘩した結果、最終的にエルヴィンがハブられて終わった。


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