「リヴァイさん、寝ますよ」
「……。」


そう言って昨日も一緒にベッドに入った。そして二人で眠りについた。

だけど、これまで順調だったリヴァイさんの夢は見れなくて。目が覚めた時に脱力感を覚えた。


「………、」


朝になり隣のリヴァイさんの顔を覗き込むとまだ静かに寝ていて、起こさぬようゆっくりとベッドを抜け出した。ここのところ私の方が起きるのが早い。

なんとなくだけど、今回は見れないような気はしていた。本当になんとなくだけど。そもそも昨日はずっとろくに口も利いてなかったし、リヴァイさんはあれからもずっと拗ねているような感じだった。でも私も今回はちょっと…なんていうか、怒るまではいってないけど、こっちから謝るのもなんか……。みたいな気分で。

だって昨日のあれは、明らかにリヴァイさんが言い過ぎだと思うし。気持ちは分からないでもないけど、だからって私の友達を傷つけていい理由にはならないし。私に当たるならまだいいけど関係ない相手にあんな態度をとるのはダメだと思うし。


「………ハァ。」


なんか、もう、やだなぁ。

アルバムを見てた時は楽しかったはずなのに。なぜこうなってしまうのか。私がもっと配慮するべきだったのか。もっとちゃんと、リヴァイさんが嫌な思いをしないように出来たのかもしれない。そしたらトモくんだって変な感じにならなかったかも。

………いや、でも、さぁ…。昨日のあれはさぁ…仕方ないというか……。会っちゃったもんは仕方ないじゃんかぁ…。友達を蔑ろには出来ないしさぁ……。そりゃあリヴァイさんからしたら面白くなかったかもしれないけど、でも、だからって。

うん。やっぱり昨日のは、どうしようもないと思う。リヴァイさんが言い過ぎだと思う。

そんな事を思っているとリヴァイさんがようやく起きてきて、私は顔を上げる。


「……おはよう、ございます」
「………あぁ」


いつもよりも遅く気怠そうなリヴァイさんはこっちを見ずに返事をして、テーブルの前に腰を下ろす。私は一人でソファに座りながら、夢を見れなかった事を伝えた。それに対してリヴァイさんは「そうか」とだけ言って他には特に何も言わなかった。私を責めもせずにただ黙った。前にも夢が見れなかった時にもリヴァイさんは気にするなと言ってくれたけど、でもこのままだとまた見れるようになるのかが不安だ。こんな状態のまま夢まで見れなくなったら最悪だ。

だけど、こんな時大人になれたらいいのに私はそこまで割り切る事が出来ずに、私もそれ以上に何も言えなかった。

それからまた気まずさを感じながらお互い何も発せずに朝を過ごした。だけどそのうち私は重大な事に気づく。


「(あ…ヤバイどうしよ…)」


今日はバイトなのだ。そして最近リヴァイさんがお弁当を作ってくれていたのだ。その上帰りだって迎えに来てくれていたのだ。

こんな空気の中、お弁当を作らせ迎えに来てもらうとか、そんなことが出来るのだろうか?ていうかそもそもしてくれるだろうか?いやしてくれたとしてもどんな顔で私はお弁当を受け取り、迎えに来てもらえばいいんだ?


……ダメだ分からない。どうしよう。気まずい。最強に気まずい。


「………。」


あぁもう本当やだ。

思わず出そうになったため息を我慢し、黙ったままテレビを観ているリヴァイさんに近づいて、口を開く。


「…リヴァイさん、」
「……、」


声を掛けると、静かに振り返り、黙ったまま私を見上げる。


「あの……今日は私…自分でお昼作るので…、リヴァイさんの分も作っておきますので…お昼はそれを食べて下さい」


おずおずと、お弁当を自分で作る事を伝えた。


「……分かった」
「……。」


そして視線が私から外れる。彼の瞳に私が映らなくなる。


「………。」


うん。居心地が悪いね。こんなのすぐに仲直りできたらいいのにね。

私はまだまだ大人になれない。





ずっとモヤモヤとしながらもバイトが終わり、私は一人で空を見上げる。


「………暗い…。」


今日は月が雲に覆われていて見えない。明日は雨なのだろうか。

息を漏らし、一人で家路を歩き出す。
リヴァイさんには今日は迎えに来なくていいですよと出る時に言った。死ぬほど気まずかったけど、その事についてリヴァイさんも何も言ってこなかった。


「……。」


やっぱり、帰ったら仲直りしよう。もしかしたら時間もあまりないかもしれないのにこのまま何も話さず過ごすのはもったいない。ていうか普通に嫌だし。リヴァイさんだって楽しく過ごしたいだろうし。
帰ったらちゃんと話そう。それで仲直りして、仲良く一緒に寝て、ちゃんと夢を見よう。


……と、言いつつ帰るのが気まずくて近所の公園に寄り道し、ベンチに一人座りながら少しの間過ごす。


「(いやいや何してんの……。)」


帰りが遅いと心配させてしまうかも、と思いながらも体が動こうとしない。だって家に二人しか居ないのに口利かないとか本当に気まずい。あの空気やだ。耐えられない。

……いや、だから、だったらさっさと帰って仲直りすればいいじゃんか。


「……、」


重い腰を上げ、家に向かう。

でもまたリヴァイさんに睨まれたら嫌だなと、そんな事を思いながら家にすぐ着き、カギを取り出し玄関を開けた。そしてクツを脱ぎリビングに向かう。そして気づく。部屋の明かりがついていない事に。


「……え?」


一瞬で脳裏にリヴァイさんが前に居なくなっていた時の事が浮かび、焦って中に入り電気を点けた。


「リヴァイさんっ?!」


リビングが明るくなると、そこは静かで。


「………はっ?」


ソファで、リヴァイさんは横になり寝ていた。


「………。」


その姿が目に入ると体の力が抜けて、思わずその場に座り込む。


「なんだ……びっくりさせないで下さいよ……。」


すると明かりに気づいたのかリヴァイさんは目を覚ました。


「………あ…?ナマエ……?」


眉根を寄せ体を起こし、私を見る。


「……おはようございます。」
「………。ん…、今、何時だ……」
「もう夜ですよ。今帰ってきたところです。」
「は……いつの間に…。寝ちまってたのか…。」
「……みたいですね。」
「……悪い、メシ……作ってねぇ…。」
「…いいですよ別に。私適当に作るので待ってて下さい。」
「………、」


リヴァイさんは怠そうに息を漏らし、私は立ち上がってカバンと上着を部屋に置いてからキッチンに向かう。

それからまた何も言わないまま冷蔵庫にあるもので適当に夕飯を作り、テーブルに並べる。リヴァイさんも相変わらず黙ったままで、また気まずい空気が流れているのが分かった。その空気に呑まれ私もなんて切り出せばいいのか分からず、何も言えなくなってしまった。

夕飯を食べ終えるとリヴァイさんが片付けをしてくれて、それからお風呂に入り、リヴァイさんが私の次にお風呂に行って、私はソファに一人座りながら考える。


「どうしよう…。」


なんて言えばいいのだろうか。謝ればいいのだろうか。
でも私は、今回は、ちょっとだけ腑に落ちないのだ。私の友達に、キツイ言い方をした事が。許せないとかじゃないけど、そういうのはやっぱり良くないと思うのだ。私は。

一人考えているとリヴァイさんがお風呂から出てきて、私をチラリと見た。


「……、」
「……」


目が合い、なんとなくまた気まずくなる。謝った方がいいのか、と考えているとリヴァイさんの方が口を開いた。


「……ナマエ」
「っぅえ、は、はいっ?」
「………。」


名前を呼ばれ、リヴァイさんから何か言い出すとは思ってなかったから変な声が出て、だけどその目を見つめていると髪の水気をタオルで拭きながら、彼は言った。


「……暫く、別々で寝たいんだが。」
「…………え?」


そして思わず聞き返すような言葉が聞こえてきた。

ん?別々で寝たい?え?なんで?


「は……え、…何で、ですか…?」
「……。」
「え、だって、それじゃあ夢が見れないじゃないですか……」
「…どうせ見れなかったじゃねぇか」
「っ……そう、ですけど…でも、だからって別々に寝たら何も分からないじゃないですか」
「そうだが……。」


何でいきなりそんなこと言い出すんだろう。それとも記憶を取り戻す事よりも、私と寝る事の方がそんなにも嫌なのだろうか。

…そう思うと心がモヤモヤで覆われていくような感覚に陥る。


「……いやッ!!だからってそんな事!!」
「…はっ?」


私は思わず立ち上がり、リヴァイさんに近寄る。


「今回見れなかったからって別々で寝てたらそんなの見れるもんも余計見れなくなりますよっ!!」
「っちょ、待て、近づくな。」
「、えっ……?」


近づこうとすればリヴァイさんは手を伸ばし私に手のひらを向け、それ以上寄るなとでも言うように一歩体を引いた。


「……。」
「……な、何ですかそれは…」


近づくなって何?と思わずショックを受けていると、リヴァイさんはいきなりタオルで口を押さえ、咳き込んだ。


「………え?」
「…っ、」


その姿を見て、ショックは吹き飛びいろいろと考える前にすぐさまひとつの結論に至る。


「な…、リヴァイさんもしかして体調悪いんですか?」
「……いや、そんなんじゃ…、」
「…いやいや!だって、えっ風邪!?言われてみればなんか今日リヴァイさん怠そうにしてたような気がっ!」
「ちょ、待て…そこまで大袈裟なもんじゃ、っ、」


大袈裟なものじゃないと言い切る前に、リヴァイさんはくしゃみをした。


「………。」
「……っ、」
「うん!!これ完全に風邪引いてますね!?大丈夫ですかっ!?」
「っあぁ…大丈夫だから、っ寄るな。移る。」
「いや移りませんよ!!」
「いや分かんねぇだろそれは。」
「いいからとにかくリヴァイさんは髪を乾かして下さい!!私は薬をっ!」
「…いや落ち着けよ…。」


慌てて、買ってあった薬を棚から取り出しコップに水を入れテーブルに運ぶ。

するとリヴァイさんは床に座っていた。


「ちょっと!髪乾かして下さいよっ!冷えちゃうじゃないですかっ」
「…めんどくせぇ。いい。」
「よかねーですよ!そんなんだから風邪引いちゃうんですよ?!」
「うるせぇな……。」
「あぁっもう、じゃあとりあえずこの薬を飲んで下さい!」
「…ん……。」
「ちょっと待っててくださいっ」


私は洗面所に走り、ドライヤーを取ってリビングに戻りコンセントをぶっ差す。そして座っているリヴァイさんの後ろに回り込む。


「よし!リヴァイさん動かないで下さいね!」
「…いや、ちょっと待て。よし、じゃねぇよ……てめぇ何を…」
「だから髪乾かすんですよ!大丈夫ですリヴァイさん髪短いんですぐ終わります!」
「っいや、なぜてめぇにそんな事してもらわなきゃ……、」
「だってリヴァイさんが自分でやろうとしないから!もういいですよ私が乾かしてあげます!」
「ちょ、待て。いい。本当にいい。やめろ。乾かしてくれるな。」
「もうっうるさいなっいいから前向いて下さい!顔面に温風ぶっかけますよ?!」
「………。」


そう言うとリヴァイさんは嫌そうな顔をしながらも、前を向き黙った。私は電源を入れてその髪に触れながら乾かしてあげた。とは言え量もそんなにないのですぐに乾かし終えた。肩が少し痛んだのは内緒だ。


「はい!ほらすぐ終わったでしょう?」
「……そういう問題じゃねぇ…。」
「じゃあ寝ましょう!ベッドで寝て下さい!」
「……。ソファでいい。」
「いや何で!?ベッドでちゃんとあったかくして寝て下さい!」
「お前はどこで寝る?」
「え?…そうですね…私が居たら邪魔かもですし…。私がソファで寝ます。異論は認めません。」
「いや、だが、」
「いやもクソも認めません!リヴァイさんは黙ってベッドで寝て下さい!ていうか寝ろ!」
「……。」


それから無理やりリヴァイさんをベッドに寝かせ、熱を計ると37度以上あって、リヴァイさんの平熱は分からないけれどとりあえず顔も少し赤い気がするしやっぱり熱はあるみたいだった。


「大丈夫ですか?明日冷えぴた買ってきますね。」
「……何なんだそれは」
「おでこにぴたって貼り付く冷たいやつです。あれやると気持ち良いと思います。すみません今家になくて」
「……ふざけた名前だな、それは…。」


そのまま少しするとリヴァイさんは眠そうにうとうとし始めたので、私は静かに腰を上げる。


「…何かあったらすぐ呼んで下さい。すぐそこに居るんで。」
「……あぁ…。」


電気を消してドアを少しだけ開けて、その部屋をあとにする。

朝もいつもよりゆっくり起きてその上昼寝もしたというのにまだ眠れるという事は、やっぱり普通に風邪なんだろうな。怠いんだろうな。最近起きるのが私よりも遅かったのも体調があまり良くなかったからなのか?


「……。」


私はこの時、昨日の出来事が頭からすっかり抜けていて、忘れてしまっていた。
だからリヴァイさんの中にモヤモヤが残っている事も分からず、寂しい思いをさせてしまっている事にも気づけなかった。


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