「姉ちゃんっ!」


「…んっ!?」


私を呼ぶ可愛い声がして、振り返るとそこには可愛い可愛い弟が居た。


「エレン!!」


笑顔でこっちに向かってくるエレンに私も走り出し、そして思いっきり抱き締めてやった。


「うわっ、ちょっ…!」
「よーしよしよしエレン抱き締めてやろう!喜ぶがいい!」
「っな、姉ちゃんやめろよ恥ずかしいだろッ…!」
「何言ってんのその恥ずかしがる様子を見るのが好きなんだよ姉ちゃんは!」
「最低かよっ… うわ、バカ胸当たってるって!やめろよっ!!」
「当ててるんですーやめませんー!」
「ふざけんなって!!」
「姉ちゃんと離れて旧本部で過ごしてるとか寂しいでしょー?しかもまた地下室で寝てるんでしょ?可哀想に!久しぶりに姉ちゃんのお胸で癒されるがいい!ほれほれっ!」
「っ…くそッ…!っもう、…マジでやめろって!リヴァイ兵長も居るんだって…!」
「何ー?リヴァイへいちょーも来てるだってー?…あ、ほんとだ!見てエレン、あそこで私達を微笑ましい瞳で見つめてくれてるよ!」
「兵長がっ…!?マジかよ……って全然違う!まるでゴミクズを見るような目でこっちを見ている!」
「あはは、リヴァイへーちょーお疲れ様ー!エレンのこと、ちゃんと大事に扱ってくれてるー?」


嫌がるエレンを放さないまま笑顔で手を振ると、近づいてきたリヴァイへいちょーに舌打ちをされた。


「…朝から見苦しいものを見せ付けてくるんじゃねぇよ。」
「え?見苦しいのはリヴァイへいちょーの眉間のシワの方だと思うけど!」
「ね、姉ちゃんいい加減放せって…!無駄に力つえーよ!」
「何言ってんの当たり前でしょー?姉ちゃんは調査兵やってんだからね?もっと尊敬しろー?」
「っ…俺だってもう調査兵だよ!」
「あ、そうだっけ?もうエレンも調査兵だっけ?しかもリヴァイ班所属なんだっけー?」
「そうだよ!!姉ちゃんなんかすぐに追い抜いてやるっ!」
「……あはは、何この子面白いこと言ってる〜」
「いや冗談じゃねぇよ!」
「ほーう。姉ちゃんを追い抜く、ねぇ…。ですって、リヴァイへいちょー。この子、ちゃんと使えそうなの?」
「……さぁな。巨人化の能力さえ使いこなせれば、まぁまぁ使えるんじゃねぇか。」
「お、良かったねエレン。リヴァイへいちょーに褒められたよ。」
「褒めてねぇ。」
「……とっ、とにかく放せって!本当に!いてぇよ!」
「痛いのはエレンが暴れるからだよ?素直に抱かれていればいいものを…」
「ナマエ、いい加減見るに耐えない。そいつを放せ。」


リヴァイへいちょーに不機嫌そうに睨まれ、私は肩を竦める。


「…はいはい。仕方ないなー…」
「っ、(やっと解放された…!)」
「……このブラコンが。」
「あはは、何ならリヴァイへいちょーも抱き締めてあげようかー?」
「ふざけんな。……エレン、行くぞ」
「っえ、あ…はい!」
「あ、じゃあまたあとでね、エレン」
「……っああ、またな!姉ちゃん!」


笑顔でエレンに手を振り、その後姿を見送った。

私とエレンは姉弟で、調査兵団に所属している。一見どこにでも居る兵士に見えるけど、しかし久しぶりに会ったエレンはなぜか巨人化できる体質になっていて、しかもそのせいでエレンの処遇を決める審議が行われたりといろいろ大変だった。私も姉という立場だったから巨人化できる可能性があるとか言われエレンと一緒に地下牢に入れられたりして、最近は何かと慌ただしかった。
でも無事にエレンは調査兵団が預かる事になり、私も今まで通りに過ごす事が許された。

なぜエレンがいきなり巨人化できるようになったのかは謎で、どうやら父さんが関わっているらしいけど、その父さんも未だにどこに居るのかは分かっていない。
でもエレンが無事に生きているのなら、正直それだけでも今は安心できた。





「あ、エレン!逃げて!リヴァイへいちょーが来た!!」
「はっ?」
「また歯を折られる前に逃げるんだ!早く!」
「……何言ってんだよ姉ちゃん…。」


一日の仕事を終え、可愛い弟とお茶を飲んでいるとそこにリヴァイへいちょーが現れた。
ちなみにここは旧本部だ。エレンの側に居たいというのもあって私はエレン達と一緒にここまで来た。


「…その事を根に持つのはやめろ。」
「え?」
「いやー、正直エレンを目の前でボッコボコにされた事は、そういう作戦と分かっていても許せないよね。」
「あれは俺が望んでやった事じゃない。」
「分かってるけども。でも私あの時何も聞かされてなかったしさ」
「伝えるタイミングもなかったからな。」
「急にリヴァイが飛んできて目の前で弟を蹴りまくるとか、ショッキングすぎるからね普通に。止めなかった私を褒めてほしいくらいだよね。瞬時に察した私を褒め称えてほしいよ。」
「お前ならそうすると思っていた。」


私はエレンと一緒に地下牢に入れられたあと、それから審議所に連れて行かれた。そして拘束されるエレンの横に立たされた私も、手錠だけはさせられていた。
それからエレンが「黙って俺に投資しろ」という名言を残した時、憲兵がエレンに銃を向けた。私はそれを庇うように思わずエレンの前に立つと、次の瞬間リヴァイが飛んできて、私の目の前で私の大好きな弟を蹴り上げたのだ。
一瞬何が起きたのだと混乱したが、状況を察し、そのままその場に立ち尽くした。だけど爪が食い込むくらいに強く握り締めた両手からは血が滲んでいた。痛かった。いろいろと。


「…俺的には姉ちゃんが隣でただ見てるだけだったからちょっとショックだったけど…」
「え、本当に?ごめんエレン」
「いや別に今はそれで良かったと思ってるけど…。」
「…よしよし。憂さ晴らしはリヴァイへいちょーでしようね。」
「何でだよ」


向かいに座るエレンの頭を撫でると、リヴァイへいちょーが私の隣に座ったので、紅茶を淹れてあげた。


「(兵長も飲むのか…)」
「でもせっかくエレンが調査兵団に入ったのにあんまり一緒に居れないとか寂しいよ。」
「…仕方ねぇだろ。状況が状況だ。」
「そうだけどさ。…エレンも寂しいでしょ?」
「え……いや……べ、別に…?」
「何それ反抗期ッ!?姉ちゃんのこと大好きだったエレンはどこに行ったの!?」
「っな、だ、大好きとか言うんじゃねーよ!」
「いっつも同じベッドで寝てたじゃない!あの頃のエレンは可愛かったなあ!お姉ちゃん大好きーとか言ってきて!」
「っう、うるせぇよ!昔のことだろ!今はもう違うんだよ!(兵長の前でそんなこと言うなよ!)」
「何それ本気で言ってる?」
「っえ、………」
「今は大好きじゃないってこと?ねぇそういうこと?エレン」
「……そ、そうだよ…。もうガキじゃないんだよ、俺は……。」
「………だって。リヴァイへいちょー。どう思う?」
「俺に聞くな。姉弟喧嘩なら他所でやれ。」
「……ハァ。もう可愛いエレンは居なくなってしまったんだね…。」
「………。」
「いつの間にこんなに大きく……って大きくなりすぎだろ!巨人になれるとか何それ!?意味わかんないッ!」
「急に話が変わってるぞ。」
「い、意味わかんねぇのは俺も同じだし…。」
「姉ちゃんビックリだよもう。しかもリヴァイにはボコボコにされるし。」
「だからその事は忘れろ。」
「無理無理。あれトラウマレベルだから。」
「仕方ねぇだろ。」
「夢にまで出てきてるから。」
「……。」
「あんな光景、私には複雑すぎるでしょ。…目の前で…、大事な人が……、」
「……姉ちゃん?」
「……。」
「…んーん。何でもない。ていうかエレン、今日は姉ちゃんと一緒に寝る?」
「はっ!?何言って、」
「何言ってんだてめぇ。」
「…だってもう今から本部に戻るのめんどくさいしー。ここに泊まろうかなってーそしてエレンと寝ようかなってー」
「ふざけんな。」
「何でよ別にいいでしょー。ねぇ、エレン?」
「お、俺に聞くなよ…!」
「だって久しぶりに一緒に寝たいじゃん?」
「久しぶりもクソもてめぇら同じ地下牢に居ただろうが。」
「あーそうだっけー?でもまぁいいじゃん!また一緒に寝ようよエレン!」
「嫌だよ姉ちゃんと寝ると抱きついてくるから暑苦しいし……足絡めてくるし…。」
「当然でしょ姉なんだから!」
「普通はしねぇよそんなこと…。」
「……気持ち悪ぃな、お前ら…」
「えっ!?いや兵長俺はそんな事しないですよ!?姉ちゃんが勝手にしてくるんですよ!」
「当然でしょ姉なんだから!!」
「死ねブラコン。」
「ブラコンの何が悪い!」
「………。もう、姉ちゃん帰れよ…」
「やだよ。姉ちゃんは帰らないよ。」
「…っとにかく俺は一緒に寝るとかもう無理だからな!」
「無理って何よ!?」
「無理なもんは無理なんだよ!」
「一緒に寝るくらいいいじゃない!ミカサも居ないし寂しいでしょ!?」
「なっ何でミカサが出てくるんだよ!?」
「だってあんたらいつも一緒だったでしょ!」
「寂しくなんかねーよっ!いい加減ガキ扱いするのはやめろよ!」
「私からしたらエレンはまだ子供だよ!」
「俺はもうガキじゃないッ!!だから姉ちゃんとは寝ない!!」
「だったら大人でも何でもいいから一緒に寝よう!!」
「何でだよ!?」
「弟なんだから姉ちゃんがちょっと足を絡めてくる事くらい我慢しなさい!!」
「嫌だっての!そっちこそ姉ちゃんだからって調子に乗るんじゃねぇよ!!」
「弟のくせに口答えする気!?」
「あぁするね!口答えするね!ていうか現にしてるね!」
「(コイツらうるせぇな)」
「可愛くないっ!そんなエレン可愛くないよ!?」
「そうだよ!俺はもう姉ちゃんの知ってる俺じゃねぇんだよ!」
「じゃあ誰なのあんたは!?」
「俺はっ……俺は、調査兵団の、兵士だ!!」
「…………、」
「…っだから、もう、姉ちゃんに世話されなくてもやっていける!俺は三年間も訓練を積んできた!もう何も出来なかったガキじゃない!地下室のベッドでだって一人で寝れる!」
「……(そりゃあそうだろうな)。」
「………っあぁ、そう!!だったらさっさと寝てくれば!?地下室でもどこへでも行っちゃえばいいでしょ!!」
「あぁ、言われなくてもそうする!!姉ちゃんこそさっさと本部に帰れよ!?」
「姉ちゃんがどこに居ようがあんたには関係ないでしょ!さっさとクソして寝なさい!」
「うるせぇっ!バカ姉貴っ!」
「姉貴っ!?何その呼び方可愛くないっ!姉ちゃんって言いなさい!」
「う、うるせぇっ!…っバカ姉貴なんかそのうちすぐに実力で黙らせてやるから見てろよー!!」
「姉貴言うなコラっ!そんな簡単に追いつかれてたまるかー!!」


エレンは捨て台詞を吐いて、走って出て行ってしまった。


「………、」


急に静かになる部屋。リヴァイが紅茶を啜る音だけが響いた。


「…お前の言っていた通り、随分と仲が良い姉弟だな。」
「……っ、」


そして嫌味を言われた。


「ぅわあああー!エレンが姉離れしたーー!!」


思わずテーブルに拳を叩きつけ突っ伏すと、隣からはため息が聞こえてきた。


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