ただ目の前のやるべき事をこなし、その合間に少し寝て、目を覚ますとまた仕事に戻る。完全に前の生活スタイルに戻った。それに俺の心は寂しさを覚え、静かなことにも違和感を感じながらも、気にしないように過ごしている。

それでも夜になると部屋が静かすぎて、やはりどうにも慣れない。


「……。」


自分から離れる事を選んでおいてそれでもナマエを想ってしまう。アイツが俺のとこに戻ってこないかとそればかり考えてしまう。俺と違う想いのナマエとは居れないと今でも思ってはいるが、側に居れないのは落ち着かない。矛盾している。

未だにナマエの方も明らかに元気がないのは遠目からでも見れば分かった。アイツは現状をどう思っているのだろうか。まさかこのままでいいとでも思っているのか。あんなに嫌だ嫌だと駄々をこねていたというのに。

このまま、他に代わりを探してしまうのか?

……そう言って突き放したのは俺だが。


「…チッ」


やはりもっと、話すべきなんだろうか。

気持ちの整理が一向につかず一人でごちゃごちゃと考えていると、ドアをノックされる音が部屋に響いた。


「……、」


ドアの方を見つめ、こんな夜更けに誰だと考えながらも頭にはアイツが浮かぶ。


「……。」


俺はゆっくりと立ち上がり、返事もせずにドアを開ける。するとそこには案の定見慣れた姿があり、目が合うと何とも言えない緊張感が走る。


「…兵長…こんな時間に、いきなりすみません」
「………、」


俺を見上げ、ナマエは静かにそう言う。謝っているわりにその瞳は真っ直ぐで、なんだか目を逸らしたくなった。心が落ち着かない。ナマエが俺の部屋に来たのはあの日以来だ。


「…どうした」


そして俺も静かに口を開く。そのまま部屋に入れる事なく聞けばナマエは一度だけ目を伏せ、そしてまた俺を迷いなく見る。あれからそんなに経っていないのに、この距離で話すのはなんだか懐かしく感じる。


「…兵長、私……ずっと、考えてたんですけど、」
「……」
「あれから…、なんだか、毎日が息苦しくて…寂しくて、…だから、どうしたら兵長が考え直してくれるかなとか…そんな事ばかり考えていました」
「……、」
「私は自分本位で、いつも兵長に甘えてばかりで、…なのに最後まで我儘ばっか言って……」


最後、という言葉に、息が詰まる。


「結局私は、いつだって自分を守りたかっただけで…一人になるのが、怖かった…。兵長を都合よく利用していたのは、私の方です。兵長に甘えるだけ甘えて……ごめんなさい。」


コイツは、何を言いに、きたんだ。


「でも、今まで側に居てくれて…ありがとうございました」


どうしてそんなに吹っ切れたような、顔をしてやがる。

頭がついていかずにいるとナマエは自身の首元のスカーフを取り、俺に差し出す。


「……、」
「私、兵長と居られて本当に楽しかったです。兵長の犬で居れて、良かったです。だけどもう……これは、お返ししますね。」


そう言ってナマエは俺にそれを返し、されるがままに俺は受け取る。それが意味する事はひとつだった。


「でも、兵長はいつまでも、私の憧れ…なので!それに部下である事には変わりないと思いますし…だから、これからもよろしくお願いします。私も、これからも頑張りますので。」


どうしてそんなふうに笑うのか。


「……兵長、…私、本当に…」


なぜ俺は一言も返せずにいるのか。


「っだいすき、でしたよ」


そう言って泣きそうな顔で笑うから、俺はもう何も言えなかった。


「………、」
「これは…本当、です。」


一体、何が起きているのか。頭が分かろうとしない。目の前に居るのに、もう手が届かないような、そんな気になる。


「…それでは…夜分遅くに、申し訳ありませんでした。」


それからそれは真剣な顔つきに変わり、俺に敬礼をしてきた。


「失礼、します。」


そして頭を下げ、そのまま一度も振り返る事なくナマエは歩いて行った。


「…………」


俺は一人残され、しばらくそのまま動けず立ち尽くしていた。それからだんだんと状況を理解してくると力なくドアを閉め、そこに背中を預ける。


「……何だ…これ は……」


全身の力が抜けていき、ズルズルと床に座り込む。


「………。」


いや、これは、俺が仕向けた事だ。離れるという事は、つまり、こういう事じゃねぇか。何を今更。当然のことだ。分かっていたはずだ。こうなると。俺は自分でそう決めた。俺はナマエを求めたが、それはアイツに伝わらなかった。ただそれだけの事だ。

それを今更、強く思い知らされる。


「 っは……、ざまぁ ねぇ、な 」


俺は、一体、何を期待していたんだ?ナマエが俺を好きになり、俺のもとへ戻ってくるなんて。そんなこと。馬鹿みてぇに期待して。


「 …、っ 」


何考えてんだ。滑稽にも程がある。どこまで馬鹿なんだ俺は。何なんだ。クソ、情けねぇ。

自分の不甲斐なさに笑う気にもなれない。ただひどく胸が苦しい。本当に大事なものを失くしてしまったような、そんな感覚に陥る。


俺はナマエのスカーフを握り締め、一人の夜は長く、なかなか立ち上がる事が出来なかった。





「リヴァイ兵長、おはようございます。」
「……、」


翌日、後ろから声を掛けられ、振り向くとナマエが居た。


「……あ ぁ。」


久しぶりにこんなふうに話し掛けられ挨拶を交わしたというのに、あまりにも普通すぎるナマエにたじろぐ。だがそんな俺を気にする素振りも見せずナマエはそのまま横を通り過ぎて行く。俺はただそれを見送る。


「………。」


これは、なかなか。




「あ、リヴァイ。おはよ〜何してんの?」
「………。」
「そうだ、今度また飲みに行こうよ。もちろんまたリヴァイの奢りで!」
「………。」
「何だかんだで私の分も払ってくれるんだから優しいよねー!……って、ん?どうしたの?」
「……」
「ねぇリヴァイ、聞いてる?……ってあんたなんちゅー顔してんの!どうした!?大丈夫!?」
「……大丈夫、そうに…見えるか?」
「見えないね!全く見えないね!生気どこに置いてきた!?」
「………。」
「何!?ナマエと何があった!?」
「…声が、でけぇ…。」
「声ちっさ!!!」


メガネに顔を覗き込まれ、そしてすぐにナマエと何があったのかを聞かれる。


「…ほっとけ …」
「いやさすがにマジでほっとけないよね!!うん!!」
「……。」
「リヴァイがこんななってんの初めて見たよ!?」
「………。」
「何!?ナマエに愛想でも尽かされた!?」
「……そう、だな……。」


黙りそうにないハンジに、昨日の夜の事と今さっきの出来事を話した。


「…あー……。」
「……。」
「…それは、キツイかもね。」
「……さすがに、堪えた」
「だねぇ…。でも、そっか…という事は…」
「……。」
「ナマエ、別にリヴァイのことそこまで好きじゃなかったってこと?っ痛ァ!?」
「オイ…メガネ…世の中には言っていい事と悪い事ってのがあるんだが…知っていたか?」
「っご、ごめんごめん!!悪かったよ!だから足踏まないで!!グリグリしないで!」
「…チッ…」


ハンジの足を踏みつけ、歩き出す。


「っちょ、ちょっと待ってくれよリヴァイ!」
「……何だ」
「いや…。気持ちは分かるけどさ、でももうすぐ壁外調査もあるんだから…あんまり、落ち込み過ぎないようにね?」
「………分かってる。」


そうだ。もうすぐ、壁外調査がある。アイツの好きな壁外調査がある。

なのに、ナマエはあんなにも落ち着いているのか。


「……。」


胸がざわつく。
何も気にしていないような顔をしていたが、アイツは、本当に大丈夫なのか。このまま壁外に出て大丈夫なんだろうか。


「…クソ……」


今まで経験した事のない不安が、じわじわと広がっていくのを感じた。


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