「………ぁ、 れ… ?」 気がつくと、私は兵長のベッドで毛布をかぶり横になっていた。 「…起きたか。」 「ぅえ……兵長…?」 ゆっくりと体を起こし、本を閉じる兵長を見つめる。 私は、何をしていたんだっけ。 「……。」 「…何ボーっとしてんだ。」 「わたし……、」 あ、そうだ。あれから私、兵長の部屋で、兵長を待っていたんだ。…そうだ。一人で夕食を済ませお風呂に入り、自分の部屋で着替えてから一週間近くぶりに兵長の部屋に来た。そこは静かだったけど自分の部屋よりは寂しさを感じなくて少しだけ安心できた。そしてそれからベッドに座って……待っていたはずだった。 なのにいつの間に寝ちゃってたんだろう。まだ外は暗く、そんなには時間が経っていないことが分かった。 「す、すみません…」 「…疲れてたんだろ。気にするな」 「……、」 兵長はそう言ってイスから腰を上げ、私の隣に座った。 その顔を見ているといろいろと思い出し、思わず肩に力が入り顔を逸らす。 「ナマエ、」 なのに兵長は私から目を逸らさずに、見つめてくる。その目を見るのが怖い。 「……、」 「…単刀直入に言っていいか」 何だこれ。怖すぎて聞きたくない。早くこの寂しさから解放してほしいのに、でも兵長がどう思っているのかを聞くのが怖い。信じている、はずなのに。 私は声が出せず、だけどゆっくりと頷く。 「……。」 すると兵長は腰を上げ、私の目の前へと立つ。顔を上げると、兵長は私に手を伸ばし両手で頬を包み込む。 「…ナマエ、」 「……は、い… 。」 その瞳は真っ直ぐで、私は目を逸らせなかった。 「お前のことが好きだ。」 そしてそう告げた。 「……え、」 「…俺は、お前に惚れている。」 「………。」 「……」 「……」 「……。」 「………は い。私も、好き…です」 それは想像していたものと少し違っていて、私はすぐに呑み込めなかった。だけど思わず私もそう答える。 「私も…好き、ですよ?兵長…」 「………。」 そう伝えると、兵長は微かに寂しそうな表情になる。そしてするりと手を離した。私は首を傾げる。 「……お前のそれは、俺のとは違う」 「え……?」 静かにそう溢して目を逸らし、また隣に腰を下ろす。意味が分からなくて私は兵長を見つめる。 「……。」 「…あの…兵長…?」 「顔を見れば、分かる。お前のは、違う…」 「 それは、どういう……。何が、ですか…」 「……。」 何だろう。私の理解力が足りないのだろうか。兵長が何を言っているのか、思っているのか全然分からない。 「兵長…、」 「…お前のその好意は、ただの好意だろ?」 「え…?」 「憧れとか…そういう。」 「………私は確かに、兵長に憧れてはいますけど…。」 「……お前は、俺のことが好きでも、惚れているわけじゃねぇんだよ」 「…惚れて…?」 「だから、恋愛感情じゃねぇだろ?お前のは。」 「……何が、違うんですか?」 恋愛感情。…ハンジさんが前に言っていた、ラブとかライクとか…そういうこと?異性として、とかいう。 …でも、そんなの。 「同じこと…じゃないですか?好きな気持ちに、種類なんてあるんですか…?」 「……。」 「私は、兵長のことが好きです。これは嘘ではありません」 「…だろうな。」 「……だったら…、」 「だが、お前のは違う。」 「…っ」 私はその言葉に眉を顰める。 違うって、なに?どういうこと?兵長が何を言っているのかが分からない。まただ。また分からない。どうして分からないんだろう。何で全然、分からないんだろう。 「俺は…お前も俺のように想っていてくれたらと、思ったが……違う、みたいだ」 「な、なにが… 何が、ですか…」 何でそんな、そんなもう、無理、みたいな。言い方。 「待ってください…兵長、わたし、 私はっ…、」 そうじゃなくて、私はただ、兵長と、今までみたいに居たいだけで、好きとか、そんなの…違うとか、分からないけど、そんなのどうだって。ただ、兵長と居れたらそれだけで。それ以上は、なにも。 「…兵長は……兵長は、何を求めているんですか?」 兵長が望むなら私は、それを。 「……俺は、…お前の、心が…欲しい。」 その言葉を聞いて、また脳裏にハンジさんの言葉が浮かぶ。 ―リヴァイの心が欲しいとは、思わないの? ―つまり……愛してほしい、とか。 「………、」 兵長は、愛してほしい、と……そう、思っているの? 「……。」 心が欲しい、だなんて。そんなの。 「…私は、とっくに…兵長に捧げています。」 「……、」 「だって私は…兵長の、犬、ですから」 すると兵長は顔を上げ私を見る。 「……、」 「…そう、だったな。」 「…はい」 私はずっと、兵長の犬だ。今までもこれからも。 兵長だって、きっと。だって、スカーフをくれたあの日、そう、言ってくれた。 「……だから、違う…んだろうな。」 「えっ……?」 兵長は目を伏せる。 「…俺は従順な犬が欲しいわけじゃない。」 「……、」 「それじゃあ、今までと変わらない。」 「…変わら、ない…?」 「……俺はそれ以上を求めてるんだよ。」 「 それ 以上……?」 どんどん、思考力が低下していくのが分かる。だって分からない。兵長の言葉も、その思考も。理解できない。したくないと。 「俺は、今までみたいな関係はもう続けられない。」 私が望んでいるそれを、兵長はハッキリと拒否した。 「……っ、」 頭が真っ白になる。 「…俺は、ちゃんとした繋がりが欲しい。」 「………」 「曖昧な関係じゃもう満足出来ねぇ。」 「………」 どういう、ことなんだろうか。よく分からない。曖昧って、何だろう。ちゃんとした繋がりって何だろう。じゃあ今までのは……何だったんだろう。今までの日々は、何の意味もないものだったんだろうか。兵長にとってどうでもいいものになってしまったんだろうか。 「……へいちょう…」 私は、納得が出来ない。 「私……分から、ないんです……兵長の、言っていること…」 分からない。何もかもが分からない。 「…何で……。兵長は…私のこと…好き、って…」 「……ああ、そうだ。俺はお前のことが、好きだ。」 「じゃあ……何で、終わらせるんですか…?」 「…俺は新しく始めたいんだよ。」 「……何を……?」 「お前と…ちゃんと、始めたい。」 ちゃんと始めるって、何を?どうやって?どうしたら、いいの? 「私はどうしたらいいんですか…?どうしたら、始められるんですか」 「……お前が俺を想う気持ちが…本物になれたら…それで、いい」 「…っだから、好きですってば……大好きですよ…私は……。」 私は何で分からないんだろう。兵長は何で分かってくれないんだろう。何がこんなにも違うんだろう。 好きなのに。大好き、なのに。この気持ちの何がいけないんだろう?嘘なんかじゃないのに。 「…曖昧な関係も、従順な犬も、いらねぇ。俺はただ、お前が欲しい。」 私はどうすれば兵長の求めているものになれるんだろう。言っている意味が分からない。だって、何が変わるというのだろう。 「お前がそれを理解できないのなら…俺はもう、お前とは居れない。」 どうしてそんなこと、言うんだろう。 「……へいちょう、」 私はこんなにも離れたくないと思っているのに。 「…私は……」 今までの事をいろいろと思い出し、それが私の中で音を立てて崩れていく。壊されていく。 私は拳をギュッと握り締め息を吸った。 「……っ私は、そんなの、嫌ですッ!!」 「………。」 そして心から叫ぶ。 何が何だか、何もかもが分からないけど、でも私はそれでも兵長と離れる事だけは絶対に、したくない。 すると兵長は、顔を顰めた。 |