「とにかく巨人を削ぎ倒しまくりたい……。」


自分の部屋の窓から流れる雲を見つめ、一人呟く。

兵長の部屋を出てから三日が経った。今日は休日で、何もすることがない。窓辺に腰掛けボーっとしている。だけど暇だという感覚もない。


「………。」


兵長から離れると、一気に私は空っぽになってしまった。兵長と出会うまで私は毎日をどんなふうに過ごしてただろう。もはや分からない。とにかく今は兵長のことばかり考えている。兵長と居た時もよく考えてたと思うけど、今の方が分刻みで考えてる気がする。
夜になるともう寂しすぎてこのまま暗闇に呑まれて消えてしまうんじゃないかと思いながら一人毛布に包まっている。

ていうか、距離を置くというのは、大体、どのくらいの日数が必要なんだろうか。

その間私は何をするべきなんだろう。私も私でいろいろと考えた方がいいのかな。
例えば、兵長が私をいらないと判断した時、私はどうするべきなんだろう。嫌ですと泣き喚けばいいのかな。ていうか考えるだけでのたうち回りたくなってくる。やだ。そんなの嫌だ。

でも、兵長は今までの関係じゃダメだと思ったから行動に移したわけで。という事は終止符を打つというのが普通の流れだよね。………嫌すぎる。嫌すぎて吐き気がする。


「…へーちょう……。」


私は、どうすればいいですか。





「俺はどうしたらいい……」
「どうしたの?」


あれから三日が経った。ちゃんと考えたいからと言ってもずっとナマエのことばかりは考えていられない。仕事が最優先になってしまう。そこに私情を挟む気はない。だが休憩中の紅茶を飲みながらふと思い出し、つい口から言葉が零れてしまった。しかもそれをメガネに聞かれた。


「ていうかさ、ナマエと何かあった?」
「……」
「いやていうか……私のせい?」
「…ああ。」
「え!やっぱり?!」
「……いや。違う。」
「えっ!?」
「…どのみち、こうなっていたはずだ。」


誰のせいでもない。結局は俺とナマエの問題だ。コイツが口を出した事に今更後ろめたさを感じる必要はない。
察した様子のハンジは俺の向かいに座り、俺は紅茶を啜る。


「どうなったの?」
「……。」


周りに人の気配がない事を確認して、カップを置く。


「…とりあえず、少し距離を置くことにした。」
「へぇー。それはまた何で?」
「アイツが側に居るとどうも判断が鈍る。」
「…リヴァイってナマエが関わると急にらしくなくなるんだね。」
「……うるせぇ。」
「で?何か分かったの?」
「……アイツが居ないと、部屋が静かだ。」
「いやそりゃそうだろうね。普通に」
「ベッドも使う気になんねぇ。」
「え、それってどういう意味?」
「それに……」
「……それに?」
「………何か、物足りねぇ。」


ナマエと離れて過ごす事で、少しは落ち着いて考えられるようになると思った。
だがそれよりも、静かすぎる部屋と、後ろから騒がしく駆け寄って来られない現実が、何より俺の心を寒くしている。自分が言い出した事に自分でダメージを受けている。馬鹿なのか。


「一体俺は何がしたいんだ…?」
「何がしたいの?」
「分かんねぇ。」
「リヴァイはナマエとどうなりたいの?」
「……分かんねぇ。」
「いや何で?何がそんなに分からないの?」
「何もかも分かんねぇ。」
「何でよ。…もっと単純なことだと思うけどなぁ。無駄に考えすぎなんじゃないの?」
「……。」


俺は、多分、間違えた。最初から、全部。ナマエを抱いたこと自体が間違っていた。だが俺の間違いを、アイツは受け入れてくれた。そしてそこに甘えてしまった。俺だって誰彼構わずそんな事しようとは思わない。ナマエだったから、だから出来たことだ。


「ま、悩むだけ悩みなよ。分かりたいと思ってるんだろ?」


ハンジは立ち上がり、俺の肩を叩きひらひらと手を振り歩いて行く。


「チッ…。」


眉を顰め、頬杖をつく。

そして考える。

俺はナマエとこのまま曖昧な関係を続けていいのか分からなくなった。一般的に褒められた関係じゃない事くらいは分かってる。だからこうしてどうしたらいいのか考えようとしている。そんなもん、最初から分かっていたのにも関わらず。

…そうだ。どうして今更、ここまでして考えようとしているのか。つい最近まで俺はナマエの考えとそう変わらなかった。ハンジに言われた事もあるが、そんなもん気にしなければそれで済んだはずだ。それなのに俺は引っかかった。もっとちゃんと考えた方がいいような気がした。考えたいと思った。
ナマエとの関係を、このまま曖昧に続ける事に疑問を感じた。

アイツは、それでいいと思っているのに。


「……。」


ナマエが「嫌だ」と言った時の顔が、頭に浮かんで離れない。


「……意味ねぇな…。」


何の為に距離を置いたのか。
それでも、ナマエを切り離せないでいる。

ため息を吐いて、カップを呷り紅茶を飲み干した。





「やだな……やだ…絶対やだ…。」


ベッドの上で膝を抱え、顔を埋めボソボソと独り言を溢す。

兵長は私のことが大事だからこそちゃんと考えたいとか言っていたけど、私はそれが分からない。だったら別に今まで通りで何も問題はないんじゃないの?どうして変えようとするんだろう。兵長だって嫌じゃなかったはずなのに。
深く考える必要なんてないじゃないか。何の為に深く考えるの?その結果、本当にもう終わりになってしまったら、それはどんな理由なんだろう。私はそれを理解する事が出来るのかな。出来ない気がする。分からない気がする。兵長が何を言ってきたって、きっと分からない。私はそれを望んでないから。兵長がこんな行動をとった理由ですら私は分かっていないんだから。

でも、そうなったら、私はどうなるんだろう。兵長は、私が嫌だと縋りつけばまた受け入れてくれるのかな。それとももう無理なのかな。ダメなのかな。もう追いかけることすら許されないのかな。


「…なんで…?」


だって兵長は、私のことが大事だ、って。

なのに、どうして離れなきゃいけないの?それが分からない。本当に分からない。何でなの?
何で今までのままじゃ、ダメなの?


「分かんない… 分かんない、です……。」


いくら考えても分からない。答えのない疑問ばかりが出てきてずっと同じことばっか。

兵長はもう、私の頭を撫でてくれないのかな。もう、抱きついたり、一緒に寝たり、お風呂入ったり、出来なくなっちゃうのかな。
兵長が私に優しく触れてくれる事は、もうないの?

だって兵長は、この件で私が兵長を嫌いになるならそれは仕方のない事だって、そう言った。それって、もう私が居なくても兵長はそれでも大丈夫って事でしょ?兵長は私と居れなくても、平気、なんだ。

私はそんなの嫌なのに。

兵長は、何がしたいんだろう。
「大事」って……何なんだろう…。

私には分からない。

私は、今までみたいに兵長と居れたらそれ以上は何も望まないのに。それだけでいいのに。


「……寂しい…。」


胸が苦しくて、おかしくなりそうだ。


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