ナマエがリヴァイを大好きだなんて事は、普段のあの二人を見ていれば誰だって分かる事で、本来なら驚くところではないんだとは思う。だけど二人の本当の関係を知ってしまった私としてはけっこう驚いた。だって、ちゃんと自覚しているのに今のままでいい、なんて。
そんな事はないだろう。二人がこのままでいいと思っていても私はやっぱりダメだと思うんだよね。


「という事で、ちょっとノートに纏めてみたんだけど…」
「てめぇ働けよ。」


私なりの考えを書き纏めた。それをリヴァイに渡すと心底嫌そうな顔をされる。


「俺らの事は放っておけと言っているだろうが。」
「だからそれは無理だって」
「…ナマエにちょっかい出すんじゃねぇ。何吹き込みやがった?」
「だから何も言ってないって。二人の関係の事も言ってないし。」


話しながら適当に私のノートへ目を通すリヴァイ。
内容は、どうすれば二人が今よりも良い関係になれるかというもの。私の考えはこうだ。

まず考え方を少し変えてみる。二人は現状に不満がないようだけど、それが一番の問題だ。お互いに依存し合って甘えている。だけどもし、相手に他に好きな人が出来た場合は?「このままでいい」なんていうのは今以上も以下も求めないということ。じゃあもしナマエに好きな人が出来てリヴァイから離れたら?
それは有り得ない事ではないはず。そうなった時、リヴァイはどう思うのか。そういう視点から考えてみる。


「ナマエがリヴァイに甘えなくなって、他の人にしっぽ振ってたらどう思う?」
「そんなもん、気に食わねぇに決まってんだろ。あれは俺の犬だぞ。」
「だから、ナマエがリヴァイの犬じゃなくなったら、の話。リヴァイに飽きる可能性だってないとは言い切れないだろ?」
「……。」


二人はきっと今の関係がこれからもずっと続くと思ってる。だから、好きとかの感情はどうでもいいと思っているんだ。そんなのわざわざ考えなくても今までやってこれたから。だから余計な気持ちはいらないと思ってる。
でもそんなの、やっぱり寂しい。心から通じ合えたら、それが一番幸せだと思うから。


「お互い、少なからず好意は持ってるんだから、それにもっと気づくべきだよ。」
「…気づいて、どうなる」
「だからちゃんと向き合って付き合うんだよ。」


リヴァイはため息混じりに私のノートを投げ返す。


「こんなの書く暇があったら巨人の実験でもしてろ。」
「っあ、ちょっと」
「付き合ってられん。」
「質問に答えてよ!」
「…あ?」
「ナマエがリヴァイから離れたら、どう思うのさ?」
「……、」
「その時…リヴァイはどうするの?」
「……ハンジ。余計な、お世話だ。」


その時の気持ちが、本当の想いのはず。


「…それとも、ナマエがリヴァイをただの憧れとしか見てないから、深く踏み込めないの?」
「…っ、」


ナマエのあの憧れは、本物だと思う。だけどあれはもはや愛に繋がっているんじゃないか。
リヴァイの側に居たい。何かしてあげたい。応えたい。しかもそれだけで幸せときてる。もうそれは愛と同じなんじゃないだろうか。それに、何よりナマエは誰にでもそうなわけじゃなくリヴァイにだけ甘えている。これがそこに繋がっているはずだ。だから。


「ナマエもきっと、リヴァイのこと……」
「ハンジ、黙れ。」


低い声が響き、リヴァイは私を睨む。


「てめぇには関係ねぇだろ…好き勝手に口出すんじゃねぇよ。迷惑だ。」
「……まぁ、だろうね。」
「分かってんならこれ以上首を突っ込んでくるな。」
「だが断る!」
「……てめぇ…。」
「リヴァイが私にあんなもの見せるからいけないんだよ。半裸のナマエをさ。あんなの見ちゃったらもう気になって仕方がないよね!突っ込まずにはいられないよね!だから諦めてほしい」
「……好きで見せたわけじゃねぇよ。てめぇが勝手に見たんだろ。」
「リヴァイとナマエがさ…本当に心から想い合って、一緒に居てくれたら私も嬉しいよ。…こんな殺伐とした世界で、愛を育むだなんてこんなに素敵なことはない。」
「……、」
「だから、見せてくれよ。」
「……そんなに見たいんなら、自分で育め。俺らを巻き込むな。」
「生憎私にはそういう相手が居ないもんでね。」
「…チッ」


ついに背中を向け、歩いて行ってしまうリヴァイ。
仕方なくそれを見送った。


「…ちゃんと考えてくれるかなぁ…。」


余計なお世話な事は分かってる。だけど、ちゃんと向き合ってほしい。


「…さて、仕事に戻るか。」





「あ、兵長っ!お疲れ様です!遅かったですねー」
「……。ああ」


仕事を終え、一人で無駄に長く紅茶を飲んでいた。だから部屋に戻るのが遅くなってしまった。メガネがおかしな事ばかり言ってきやがるから、柄にもなく脳内がその事でいっぱいになる。アイツにバレたことは本当に不覚だった。

俺ら自身がこのままでいいと判断しているというのに、なぜ部外者のアイツにいろいろ言われなきゃならねぇんだ。なぜ、こんなにも考えさせられなきゃならないんだ。


「何かする事はありますかっ?」
「ない。…ナマエ。ちょっとそこに座れ。」
「 あ、はい」


ジャケットを脱ぎ、イスに座る。そしてナマエも向かいに座らす。

コイツは俺の犬だ。それはコイツ自身が望んだ事で、そして俺もそれを受け入れた。互いに自分勝手な部分も甘えている部分もある。それでも問題なくやってきた。それで良かったはずだ。


「ナマエ。」
「はい?」
「…お前は、これから先もずっと俺の側に居ろと命令すれば、それに従うか?」
「……ん、え?」
「一生俺だけの犬でいろと言えば、そうするか?」


ナマエの気持ちを無視して、ただ従わせたい。そんなふうに思った事はなかった。


「もちろん、私はずっと兵長の側に居ますし、一生兵長の犬ですよ?」
「……、」


コイツは俺の望むようにしていいと言った。その為に居るのだと。キスをさせろと言えば頷くし、何でも俺の言う通りにしたがる。従う事に喜びを感じている。俺は俺のしたい事をして、ナマエはそれに応える事を望んでいる。だから今までやってこれた。

何の不満もなかったはず。


「…お前は…、俺が死ねと言えば、死ぬのか?」



だが俺は、ただ俺に従うだけのナマエに、苛立ちを覚えた事も正直なところあった。



「……あ、はは…兵長、いきなりどうしたんですか?」
「…答えろ。」
「え、だって、そんなこと……兵長が言うわけじゃないですか?」
「…言ったら、の話だ」
「言わないですよ、兵長は」
「あ?」
「兵長はそんなこと、言いません。」
「……、」
「そういう人じゃないです。だから側に居るんですよ、私は。」
「……。」
「…でももし、本当に言ったとしたら、それは多分他にはどうしようもない理由があるとか…作戦上それしか道がないとか…そういう時かもしれないですよね。そうなったらその時は従うかもしれません。私は、兵士なので。…でも兵長、勘違いしてますよ。」
「…何がだ」
「そりゃ私は兵長の犬ですし、従うのが好きですけど、でもそれは例え殺されてもいいとかそういう事じゃないですよ?兵長にだったら殴られてもいいとか、何されてもいいとかそういう事じゃなくて、私は兵長が兵長だから側に居たいと思ったんです。分かりますか?」
「……、」
「兵長が私の気持ちを弄ぶような、そんな人だったらこうして毎日一緒には居ないはずです。」


初めて抱いた時、何も気にしていないような顔をしているナマエに苛立ちを覚えたのはきっと、コイツは俺にだったら何をされてもいいのかと、それでいいのかと、そう思ったからだ。俺が言えた事ではないがもっと自分の気持ちも大事にしてほしいと多分どこかで思っていた。でも考えないようにした。これでいいんだと思い込んだ。手放したくないと思ったから。

だけどナマエは、俺が俺であるのなら、その上で何をされても言われてもそれでいいのだと、そう言っている。


「私は兵長を信じているんです。兵長は私が本気で嫌がる事とか何もしないじゃないですか?」


なぜ今になって、こんなにも、何もかも間違えているような気分になる。


「……お前は…」


ずっと側に居れたらそれでいい。それ以外の事は考えた事がなかった。考える必要なんてないと思っていた。


「俺の事が、好きなのか?」


…ナマエが俺以外の男に気持ちが移るのを想像するだけで、心底嫌気が差す。


「……え?」


そう聞けば、ナマエは意外そうな顔をした。


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