「リヴァイさん、安眠グッズ買いにいきますか?」
「どんなものなんだ。それは。」
「分からないですけど…安眠できる何かですよ。ないよりはあった方が良さそうじゃないですか?」
「……いらない。」
「いらないんですか?」
「ああ。」
「そうですか…じゃあまぁいっか。」


ソファに二人で座り紅茶を飲みながら話す。朝寝ちゃってせっかく淹れてくれた紅茶を飲めなかったことはちゃんと謝っておいた。


「あの…リヴァイさん」
「ん、」
「…さっきは、叫んじゃってすみませんでした。私ちょっと理不尽でしたよね…。そもそもは私が眠れなかったのがいけなかったのに。」
「……そんな事ねぇよ。」
「…いつまでもリヴァイさんに、気を遣わせてばかりじゃダメですよね」
「……。」


そう言うと、リヴァイさんは黙ったままゆっくりと私に顔を向ける。つられるように私もリヴァイさんを見ると、わりと距離が近かった。だけど昨日同じベッドで横になっていた免疫もありそこまで驚かない。数秒そのまま見つめられる。


「…なんかお前、いい奴すぎてムカついてくんな。」
「……はい?」
「逆に腹立たしくなってきた。」
「な、なんすかそれ」


ため息混じりにそう言われ顔を逸らされた。何それ。


「何なんだ?一体どこからくるんだ?お前のその、優しさは。」
「…どうしたんですか。別に賞賛されるほど優しくはないと思いますけど」
「もう意味が分からない。怖ぇよ。」
「は?」
「何でお前は俺みたいなのに優しくできるんだ?何で無償で優しくしてくれるんだ?……もはや意味分からねぇよ…。」
「…リヴァイさん。どうしたんですか。」
「……お前みたいな奴、見た事ねぇ。俺の周りにもバカな奴らは居たがお前は本当にダントツでバカだ。」
「……」
「お前が俺に家事を全て任せて何も手伝おうとしないのも、それをやらせる事で俺の後ろめたさをなくさせる為なんだろ?全部分かってんだよ。クソが。」
「クソって。」
「分かるからムカつくんだよ。」
「…リヴァイさん、深く考えすぎですよ。そこまで考えないで下さいよ。」
「あぁもう…お前何なの?」
「…ただの平凡なフリーター女子ですが。」


リヴァイさんがこんなふうに思ってしまうのは、きっと私のやり方がうまくないからだ。もっと自然に、リヴァイさんが気を遣わないように、できたらいいのに。


「…私だって、別に誰にでも無条件で見返りを求めず何かしてあげたいだなんて思いませんよ?」
「いや、嘘だ。お前は誰にでもこんなだろ。絶対。」
「いや違いますって…買い被りすぎですよ。ただ私は、リヴァイさんを初めて見た時…ほっとけない、って思っただけです。どうしてあの時明らかに不審者のリヴァイさんに話しかけたのか、自分でも分かりません。でも、話しかけちゃいました。正直怖かったし、言ってる事も意味分からないし…でも、この人はきっと変な人じゃないって…手助けしたいって、話していて思えたんです。私はその自分の直感を信じただけです。これが他の人だったらそうは思わなかったはずです。きっとリヴァイさんだったから、ですよ。」
「……お前は人の脳内を覗く能力でも持っているのか?」
「いやないですけどでもなんとなくあるじゃないですか。この人ヤバイなーとか、大丈夫そうだなー、とか。」
「…あの時の俺は確実にヤバイ方に分類されると思うんだが。」
「ふっ、…そうですね。それは否定しませんが。…でも、結果的にリヴァイさんはヤバイ奴じゃなかったじゃないですか。前にも言いましたが、リヴァイさんは悪い人に見えないんですよ。そしてそれは実際その通りでした。つまり私は間違ってなかったって事ですね。」


私が夢を見ることでリヴァイさんが帰れるヒントが得られるかもしれないという状況で、無理やりそれをしなかったリヴァイさんだってなかなかだと思う。普通必死になりそうなのに、一睡も出来なかった私を責めもせず、しかも邪魔にならないようにと一人で寝かせてくれた。リヴァイさんだって十分優しいよ。


「……俺は、何をすればお前に恩を返せるんだ?」
「別に……私がしたいからしてるだけですから。何もいらないですよ。」
「どう考えてもそういうわけにはいかねぇだろ。」
「えー…でも…、リヴァイさんが無事に帰る事が出来れば、それでいいです。」
「お前………いい奴すぎかよ。」
「…うるさいな…」


むず痒いリヴァイさんの視線を無視してテーブルのカップに手を伸ばす。それを一口飲んで、背もたれにボフッと背中を預ける。


「もうリヴァイさんは黙ってテレビでも見ていて下さいよ。」


うるさいリヴァイさんにそう言って、それからは何も話さずお互い黙ったままただテレビに視線をやり続けた。だけど気まずさは全くなくソファに座る私たちの距離はいつも以上に近くて、その距離の居心地は悪くなかった。







 『え、兵長訓練見ていてくれるんですか?』
 『ああ。俺も参加する。お前らが今どれくらい動けているのか確認も込めて見ておこう。』
 『な、なんかそれは緊張しますね…』
 『今更何言ってんだ。』
 『…そうですよね。リヴァイ兵長、壁外でもいつもよく見てくれていますもんね。』
 『そりゃあ部下の実力を知っておくのは大事な事だからな。』
 『はい…私、頑張ります!』
 『…張り切りすぎて怪我するんじゃねぇぞ。』
 『はい!』



「………、」


目を開くと視界がぼやけていた。何度か瞬きをして、頭を働かせようとする。

どうやらいつの間にかソファに座ったまま寝てしまっていたみたいだ。それに気づき横に少し斜めになっていた体を動かすと、いきなり私の肩に重みがかかった。何も考えずにそのままそれを見ると、そこには私に寄りかかり目を閉じているリヴァイさんが居た。


「………。」


その光景に思わず息が止まる。

(………リヴァイさん!?は、え!?どうした!?……えっ、ちょ、リヴァイさん、寝て…る?え、なんで?どうして?え、てか、私も今リヴァイさんに寄りかかって寝てたってこと?うそ何それマジか。全然分からなかったんですけど。ていうかこれはリヴァイさんも気づいてない…んだよね?)

一瞬でいろいろと考える。そしてスヤスヤと眠るリヴァイさんを起こしてしまっては可哀想だと考える事も出来て、そのまま動かず静かに息を吐いた。


「(…いつの間に寝ちゃってたんだろう……)」


リヴァイさんから視線を外し前を向いてボーッとしていると、重要な事を思い出した。


「あーーーーっ!!!!?」
「……っ、!?」


思わず叫んでリヴァイさんを見る。


「うわあ!!リ、リヴァイ、さんっ!!!私、今、夢見ました!!!!リヴァイさんの夢!!!見ました!!!!」
「っな、うる、せ………って何だと!見れたのかっ?!」
「はい!!!!えっと、えっとなんか!!!リヴァイさんが!!!なんかっ!!!」
「ちょ、待て!落ち着け!一旦落ち着け!」
「はっ、はいっ…!!」


軽くパニクっているとリヴァイさんも起きて私の言葉を聞き少しだけ取り乱しながら落ち着けと言う。
そしてゆっくりと呼吸をして自分を落ち着かせたあと、リヴァイさんとソファで向かい合いながら、口を開いた。夢の会話や相手の人や光景のことをちゃんと説明する。


「それは…。……ッ、」
「……えっ、リヴァイ…さん…?」
「…チッ……クソッ……、なん、だ…ッ」
「な、ちょ、だ、大丈夫ですかっ?!」


すると突然リヴァイさんが顔を歪め頭を抱えだした。苦しそうで、どうしたらいいか分からず焦っていると少ししてからゆっくりと顔を上げた。


「………っ」
「…リヴァイさん…?」


そしてリヴァイさん自身も何が何だか分かっていないような顔で、言った。


「…思い出した…。」
「えっ?……えっ!?」
「……。」
「な、何をですか!?ここにどうやって来たのかですかっ?!」
「…いや、違う…。その…お前が夢に見た、記憶の部分だけ…思い、出した。」
「……えっ」
「…そうだ…俺は、アイツらの訓練を…見ようと、してた。」
「あ、そう、なんですか…?」
「ああ……。」
「……それ以外の事は、思い出せないんですか?」


そう聞くとまた少し顔を歪め、俯いて首を横に振った。


「……そう、ですか…。」
「……チッ」


全く理解は出来ないがきっと私の夢を通して、今まで思い出せなかったリヴァイさんの“その日”の記憶が、恐らく見えたんだろう。やっぱり一緒に眠る事が条件なのか?

しかし何とも体力を使う思い出し方に、私はなんだか少しだけ不安になった。でも、これで全ての記憶を思い出す事が出来たら、そしたらきっとリヴァイさんは……帰れるのかもしれない。


「大丈夫ですか…?」
「……ああ。」


リヴァイさんは息を吐いて私を見る。


「…お前のおかげで、一歩近づいた。はずだ。」


そう言われ、いつの間にか入っていた肩の力がゆっくりと抜けていく。


「……良かった、です」


だけど、見つめ合っているのに、真っ直ぐにリヴァイさんは私を見ていてくれているのに、私たちの距離がさっきよりもやけに離れているように、思えた。


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