「リヴァイとナマエは、付き合っていない、って…言っていたよね?」 「…そうだが。」 「本当に?」 「ああ…だからそう見えるか?」 少し呆れたようにそう言うリヴァイは、いつもと変わらない様子。 だけど私は見てしまった。アレを見てしまったのだ。きっと見てはいけないものを見てしまった。なら黙っておくべきか?見なかったフリを決め込むか? いや、そんなのは、無理だ。 「…ていうか、そうでないと困るというか…」 「あ?」 「だからさ……別に隠さなくてもいいじゃないか!付き合っているのならそう言ってくれよ!」 「……何言ってんだ?」 だって、そうじゃないとおかしい。 「だって…だって、私、見てしまったんだよ」 「は?何を」 眉根を寄せるリヴァイに私はついに我慢出来なくなり息を吸い込んだ。 「……リヴァイの部屋で半裸姿で寝ているナマエをさあッ!!!」 思わず力んでそう叫ぶと、リヴァイはピタリと動きを止める。 「全部は見てないけどあれは完全に裸だった!!はだけてて見えちゃったんだもん!!あれって確実に情事ゴッ!??」 「黙れ。叫ぶな。言うな。ハンジ、それ以上言うな。」 リヴァイは珍しく少し焦った様子で私を黙らせる。そして不機嫌そうに舌打ちをしたあと周りを確認してから、人気のない場所へとつれていかれた。 「………で、どうすればてめぇの記憶を消せる?」 「ちょっそんな物騒な顔で変なこと言わないでくれるかな!」 「チッ……クソ、何でよりによってお前に……。いつだ?いつ見た?」 「え……今日の朝だけど……。リヴァイに用があって部屋に行ったらナマエが寝てて…ビックリして思わずドア閉めちゃったんだけど…。」 「……あぁ……アイツが言ってたのはてめぇか……というかノックくらいしろよ。勝手に入るんじゃねぇよクソが。」 「ていうかリヴァイこそあんな姿の女が部屋で寝てるならカギくらい閉めてよ!」 「チッ……普段はかけてる。今日は…たまたま、忘れただけだ。」 「普段って事はしょっちゅうしてるの!?」 「………してねぇよ…。あぁ…クソ…」 「……。」 リヴァイは頭を抱える。いや、抱えたいのはこっちも同じなんだけどね。 「…ねぇ、リヴァイ」 「……何だよ…」 「これでも、ナマエとは付き合ってないって…言うの?」 「……、」 別に悪い事じゃないんだから、隠す必要なんてないじゃないか。どうして、そんな気まずそうに目を逸らすんだよ。 「……付き合っては、……ねぇよ。」 正直、ショックだった。 「何……それ……。」 そういう行為はお互いが想い合っている仲の二人がするものだと思うんだけど。付き合ってもいないのにそんな事をするような、君らはそんな関係だったの? 「嘘、でしょ!?」 「……」 「ていうかこれってそういう話だったの!?もっと穏やかな話だと思ってたんだけど!!何なんだよその爛れた関係!!?やだなんかコワイ!嫌なんですけど!もっと無邪気な関係だったんじゃないのかよー!!!!」 「……。」 「ヒドイよリヴァイ!!ナマエが可哀想じゃないか!?何でそんな事になってるんだよ!?」 「…お前には関係ねぇだろ…。それに、無理やりヤッてるわけじゃ…」 「合意の上なら尚更どうして付き合ってないのさ!?好き同士ってことなんだろ!?あぁもう意味が分からない!」 「……好き…?」 「そうだよ!リヴァイはナマエが好きなんでしょ!?じゃなきゃ君がそんなコトするわけないじゃん!?」 「………。」 「いやいや何考え込んでるの!?これで好きでもなかったら本当に最低だよあんた!」 リヴァイは黙って考え込む。何なのそれ。自覚してないの?それにナマエだってあんなに懐いてるんだから好きに決まってるじゃないか。君ら両想いなんだよ。そうだよ。何でそれが分かってないの? 「…よく分かんねぇ。」 「は?何で?バカなの?」 「あ?」 「だって好きじゃなかったら普通しないよ…。いやまぁ気持ちがなくてもやっちゃう人もそりゃあ居るだろうけど、リヴァイとナマエにはそんな事して欲しくないというか…。」 「……」 「…何でこんなことになっちゃったの?」 「……。」 ◇ 兵長と初めて体を重ねたのは一年半前くらいの事だった。 私が兵長の部屋によく行くようになり、ベッドをあまり使わない兵長の代わりに私がそこで寝るようになっていて、それまでは兵長と一緒に寝た事もなく私が勝手にベッドを使わせてもらっているだけだった。 その日も私は一人が嫌で夜になると兵長の部屋に行った。確か壁外調査から戻ってきて二日経ったくらいで、その時の兵長は珍しくベッドに腰掛けていてどことなく寂しげな感じがした。それに近寄り様子を窺うと、不安げな瞳と目が合い思わず私は兵長に手を伸ばした。そしてそのまま抱き締められ、ベッドへと倒れ込んだ。 それが、初めてだった。 兵長は次の日謝ってきたけど、私は全然平気だった。私は兵長の犬だから、兵長がしたいようにしてくれていい。別に嫌じゃない。それにあんな寂しげな顔をする兵長を放ってはおけないという気持ちも大きかった。 それからたまに、本当にたまに、私と兵長は行為に及ぶようになったのだ。 「…今日は天気がいいな〜」 お風呂に入り兵服に着替え、窓から空を見上げると雲ひとつない青空。 「気持ちいいなぁ…」 それを見ながら、兵長の心もこんなふうに晴れていればいいなぁと思った。 ◇ 「ねぇリヴァイ…気持ちは分からないでもないけどさぁ…やり切れない気持ちをナマエで発散するって…それってどうなの?」 「うるせぇな。アイツも嫌がってねぇんだからいいだろ別に。」 「うわ、開き直ってるし!絶対よくないと思うけど!」 「あぁもううるせぇ。とにかく他の奴に言うんじゃねぇぞ?」 「言わないよ!ていうか言えないよ!みんな絶対リヴァイに懐いてるナマエのこと微笑ましい気持ちで見てるのに、こんな事実知っちゃったらもう気まずくて見ていられないよ!」 「とにかく放っておいてくれ。」 「えーそれは無理!」 「何でだよ殺すぞ…」 「全然放っておけない!もっとちゃんと向き合って欲しいよ!」 「…向き合うって何だよ。」 「だからさ…もっとちゃんと愛してあげなよってこと。今のままじゃリヴァイだって辛くなっていくに決まってる。」 「……愛すも何も…俺は、」 「…だったら、もうそんな事はやめた方がいい。ナマエが可哀想だよ。」 「……。」 初めて抱いた時、アイツは何も気にしていないような顔で謝らないで下さいと言った。俺はそれに少しだけイラついた。俺は、ナマエをただの言う事の聞く犬として見ていたわけじゃない。従わせたいと思ったわけでもなかった。なのにアイツは嫌な顔せず俺がした事を簡単に受け入れた。それが少しだけ腹立たしかった。ナマエにも、自分にも。だがナマエに触れ満たされている気持ちの方が大きく、一度越えてしまった境界線から戻る事はもう出来なかった。それは俺の弱さだ。 ナマエは俺のそういう部分を受け入れてくれている。好きとかそういう感情の前に、ただ俺はナマエを求め、ナマエも俺を受け入れた。後ろめたい気持ちももちろんあったが、その関係が居心地良かった。ナマエも俺に纏わりついていたし、問題はないと思っていた。 “ナマエが可哀想”? そうなんだろうか。こんな関係は、可哀想なんだろうか。 「……分かんねぇ。」 「いや分かるでしょ!何でだよ!普通に考えてみてよ!」 「……。」 「リヴァイにとってナマエはそれだけの存在なの?」 「……。」 「もっとこう…大事なものがあるだろ?」 「……。」 「愛のないそんな行為は…虚しいだけだよ」 「……。」 「…ちょっと、聞いてる?」 「…聞いてる。」 「……あのさ、お節介かもしれないけど、君の友人として言わせてもらう。やめた方がいいよ。よくないよ。絶対。」 「………。」 ハンジが言っている事は、分かる。 だが、今の関係を手放したくないとその気持ちの方が勝ってしまっている。 「……二人がいいと思ってるのなら、いいのかもしれない、けど……でも私は、賛成出来ないな。」 そう言ってハンジは歩いて行った。 「……。」 今まで見ないようにしていたものを突きつけられたようで、少し居心地が悪かった。 |