自分の部屋に戻り、気持ちを落ち着かせる。


「……ふぅ。」


何で兵長と居ると落ち着くのか。居心地がいいのか?その答えにたどり着く前に私は考えるのをやめた。いや、きっと考えたって分からないのだ。どうせ私は。そうだ。分からないのに考えたって意味がないじゃないか。
だから、考えるのをやめた。私は別にそれを分かりたくはない。


「…あ、……カップ、洗ってない…」


そこでカップとクッキーをそのままにして出てきた事を思い出す。
思考を切り替えて、その事について頭を抱えた。





「あ、……」


次の日部屋を出ると、壁に背中を預け私を待つ兵長の姿があった。


「……」
「お、おはようございます」
「…昨日の態度は何だ。」
「………」


兵長が、なかった事にしてくれるはずがなかった。
日付が変わり勝手にリセットされているような気分に少しだけなっていたが、もちろんそんなことはなかった。

でも、多分こうして時間を置いて待ってくれたこと自体がきっと優しさなんだろう。


「えと……、申し訳ありませんでした。私、自分のカップもそのままで…その、すみません。」
「……それだけか?」


兵長はカップの事以上に何故いきなり部屋を出たのかを聞いてるんだ。それは分かるのに、考えたくない。


「…兵長、あの…その……私、」
「……俺は前に、お前が自分で分かるまで待つと言ったな」
「……、」
「お前のペースで理解していけ、と」
「はい…」
「だが……お前は分かろうとしていないだろう」


核心を、衝かれた気がした。


「…なぜだ?」


私が、兵長の側に居たいと思ったり、でもそれが時に落ち着かなかったり、なのにそこがやっぱり居心地よかったりするのは、どうしてなのか。

兵長が待つと言ってくれたのは何故なのか。

それが全部繋がりそうで、考えたくない。私は。



「……すみません」
「俺は何故かと聞いている」
「………すみま せん 。」
「…お前はそこまで馬鹿じゃないと思っていたが」
「……すみません…。」


こんな言葉は兵長の求めているものじゃないと、それは分かっているのに。でも。

顔を見ることすら出来ない。


「オイ、ナマエ。俺を見ろ」


すると近づいてきた兵長の両手が私の頬を包み込み、顔を上げさせられる。


「……っ、」
「もっと俺をちゃんと見ろ。」


瞳が気持ちが、揺れる。

この距離で居られる事に胸が苦しくなる。追及されたくない。嫌だ、こわい。


「…っへい、ちょう……」


涙が出そうになる。なんだか息苦しい。分からない。分かりたくない。知りたくない。



「……そんな顔するんじゃねぇよ」



静かな声が聞こえて、兵長は私から離れた。


「……へいちょ、う」


そして背中を向けられる。


「……俺はこれから会議に出なくちゃならない。その間、エレンはお前達に任せる。いいな」
「え……」
「ずっと見ていろとは言わない。だが気にはかけとけ。俺は遅くなる。」
「………」
「……分かったら返事をしろ。」
「……… 了解、です。」


兵長は振り向かずに歩いて行き、そのまま姿が見えなくなった。


「………、」


何でこんなに胸が締めつけられるんだ。これは自業自得のことなのに。
だけど見えた兵長の顔が少し切なく見えて、胸が痛くなった。


「……ごめんなさい…」


言葉は届かず静寂に消えていった。





「ナマエさん?」
「……」
「あの、ナマエさん、?」
「っぅえ、……え?」
「大丈夫ですか?何かあったんですか?というかきっとあったんですよね?大丈夫ですか?」
「あ、う、……えと…ごめんねペトラ。大丈夫だよ」


気づけば、ペトラが隣に座り私を心配そうに見つめていた。

あれから兵長は居なくなり残された私達は訓練をすることにした。もちろんエレンも一緒に。


「もしかして兵長と何かあったんですか?」
「っえ、……」
「…そうなんですか?」


ぺトラは少し心配そうな瞳を私に向ける。
ぼーっとして後輩にも心配をかけて、私は何をしているんだ。


「ごめんね、ペトラ。」
「…え?」


私は立ち上がり謝ってペトラへ笑顔を向ける。


「ありがとね。」
「えっと……い、いえ。」
「…ごめんね。訓練、しないとね」
「……ナマエさん、」


今はなぜかぺトラにも深くは聞かれたくない。振り切るように歩き出し、エレン達のもとへと向かう。



「あ、ナマエさん。聞いてもいいですか?」
「…ん?どうしたの」
「立体機動で、もっと上手く動けるようになりたいんですけど…」
「オイ エレン。何で俺らに聞かずナマエに聞くんだ?確かにナマエは立体機動が上手いが、俺だってそれくらい教えてやれるぞ?」
「…えっと…」
「オルオ、立体機動なら何も言わずにナマエに任せたらいいじゃないか。」
「そうだぞ。教わるならナマエが一番だろ?」
「……確かにわたし、立体機動だけは自信あるよ」
「それ自分で言うのかよ…」
「ふは、ごめんねオルオ。」
「謝るな!」
「……オルオあんた、ナマエさんに変な絡み方しないでよね。」
「何だペトラ、また妬いているのか?全く仕方ないな……」
「ねえ殴っていい?」
「…あはは、」


それからは、エレンに立体機動を教えながら訓練だけに集中をし過ごした。

夜になるとみんなで夕食をとり、そして兵長は帰りが遅く、私は顔を合わせる事なくその日を終えた。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -