私は壁外調査が好き。それは巨人が居て、それを倒すのが好きだから。壁外にある自由な風を感じるのが好きだから。 初めて壁外に出た時の感動は今でも忘れてない。もちろん恐怖もあったけどそれ以上に私はドキドキしていた。今でもそれは残っているし、だから壁外調査が好きだ。 でも、壁外は仲間を失ってしまう場所でもある。 調査を終えて帰ってきた時のその喪失感は、今でも慣れない。 「……兵長?」 今回も私はいつも通り好き勝手動いて自由にさせてもらった。壁外調査を終え、また先に兵長の部屋に帰ってきた。だけど今回は、いつもより損失がひどかった気がする。悪天候に見舞われ視界が悪くなり戦闘が不利になってしまったのだ。そのせいで、班員も減ってしまった。 やっぱり、どうしてもやりきれない気持ちになる。意味がない事じゃないっていうのは分かってる。前に進む為には何かを犠牲にしなくちゃいけない時もある。でも、どうしても。 こんなのはきっとずっと慣れないけど、でもひたすらやるしかないとそう言い聞かせていくしかない。 そしていつもより遅く、兵長が部屋に戻ってきた。どことなく雰囲気がいつもと違うような気がする。兵長はたまに、こういう顔をする時がある。兵長だってやりきれない気持ちになる時がある。 声を掛けるとチラリと私を見た。 「……来い。」 そしていつものように私を呼んでくれる。その腕の中に飛び込むと、いつもよりもギュッと密着して抱き締められる。 私は兵長の心臓の音を聞いて落ち着いたあと、そのままゆっくり顔を上げた。 「へいちょう…?」 「……。」 兵長は私に顔をうずめたまま動かない。いつもと違う事を察して、私は兵長の背中をゆっくりと擦る。 そしてお互いに生きている温もりを感じながら、そのまま何も言わずにベッドに倒れ込んだ。 ◇ 「………、」 バタンと大きな音を立ててドアが閉まる音が聞こえ、目が覚めた。 横になったまま部屋を見渡せば誰も居なくて、ゆっくりと瞬きをしながら息を漏らす。まだ体が気怠い。 「……んん…。」 太陽の光が窓から穏やかに入り込んできている。少しはだけている毛布を肩まで掛け直し、また目をつぶる。 一人まどろんでいると少ししてからドアが開き、兵長が戻ってきた。 「…起きたか。」 「ぁ……おはよう、ございます。」 髪を濡らした兵長は私を見るとベッドに腰掛ける。そして髪を撫でてくれた。 「珍しいな。いつもはなかなか起きねぇくせにな。」 「…だってへいちょう、さっきドアおもいっきし閉めて出て行きましたよね?それで、目が覚めました…」 「あ?…そんなバタついて出て行った覚えはないんだが。」 「え…?でも、さっき、大きな音聞こえましたよ…」 「…寝惚けてたんじゃねぇのか」 「えぇ…気のせい?」 「だろうな。」 「…ていうか…兵長、お風呂いってきたんですか?」 「ああ。」 「…何で起こしてくれなかったんですかぁ…」 「…お前、熟睡してただろうが。」 「……。」 「それより…まだ寝ててもいいんだぞ」 「…ん……はい」 そう言われ午前中は何もない事を思い出し、もう少し眠る事にしてそのまま目をつぶった。 ◇ 「…ナマエ、そろそろ起きろ。」 「……はひ…?」 兵長の声がしてまた目が覚める。そこにはすでに仕事モードの兵長の姿があった。 「……あれ、今、何時ですか…」 「11時前だ。」 「ふあー……起きなきゃ、ですね…。」 むくりと起き上がると兵長に服を投げられる。 「わ、ありがとうございます」 「もう寝るなよ。」 「は〜い……あ、兵長、わざわざ起こしに来てくれたんですか?」 「お前放っておいたら夕方まで寝ちまいそうだからな。」 「あはは、それはさすがにないですよ〜」 「どうだかな。」 話しながら服を着て、そのまま出て行こうとする兵長にお礼を言ってからその背中を見送った。 私は一人部屋に残される。 「はーぁ……さて、私もお風呂いこう…。」 昨日の夜の兵長はいつもと様子が違っていたけど、今日は普通だった。 「……」 昨日の兵長が頭に浮かぶ。 たまに見せる兵長の弱い部分は、私の中で消化する。私が受け入れる。そうやって吐き出す事で、触れ合う事で、兵長の中の何かが少しでも満たせたら嬉しい。だから私はいつだってそれを受け入れる。 「んー…、よしっ!」 今日はいつも通りの兵長で、良かった。 頭を切り替え、グっと伸びをし深呼吸をしてから立ち上がった。 ◇ 「ねぇ、リヴァイ。」 「何だ」 「………ちょっと、聞きたい事があるんだけど…」 「……、」 兵長が私を受け入れてくれているみたいに、私もどんな兵長だって受け止めたい。そのやり方が正しいのか間違っているのかなんていうのは、考えた事はない。 |