「不束者ですが、よろしくお願いします。」 「初夜か。」 夜も更け、いよいよリヴァイさんと一緒に寝ることになった。ベッドに入りそう言うとちゃんとツッコミを入れてくれるリヴァイさん。そして彼もベッドに入ってきた。 「………。」 「………。」 横になり、お互い背中を向け合う。 「……お、おやすみなさい」 「…ああ…。」 静かになる部屋。毛布がすれる音ですらやけに気になる。 しかし、これでリヴァイさんの記憶を見る事が出来るのだ。何か分かるかもしれないんだ。頑張れ、私。自分にそう言い聞かせ早く寝てしまおうとぎゅっと目をつぶった。 ――二時間後。 「(いや眠れねーわ)」 どうしよう。全然眠れない。睡魔さんがやってこない。どうしよう。マジでこれ眠れない。 困った。寝ないと夢が見れないのに。これじゃあお手伝いが出来ない。眠らなきゃ何も始まらないのに。でもなんか…難しい。今までこんなに夢を見るぞと意気込んで寝たことなんてないし。 「…………リ、リヴァイ…さん、?」 もう寝てるだろうかと、静かに名前を呼んでみる。 「………早く寝ろよ。」 起きてるんだ。うん、だよね。 「いやっ、なんかこれっ、難しいんですけど!!」 思わずガバッと起き上がり隣を見る。 「……。」 「ていうかリヴァイさんも眠れないですよね?もう眠くなるまでお話でもしましょうよ。」 「…何を話すってんだ」 「ピロートークしましょう。」 「ピロートーク言うな。」 「でも私このままじゃ絶対眠れません…」 「…話してたら余計目が覚めちまうだろ。」 こっちに背中を向けたままのリヴァイさん。どうやら起き上がって話す気はなさそうだ。 「……。」 仕方ないので私もまた横になる。 「じゃあ…おやすみ、なさい…」 「…ああ。」 「………」 しかし私はこのままちゃんと眠れるのだろうか。眠れたとしてもちゃんと夢は見れるだろうか。 リヴァイさんがすぐ横に居るってのもあるし、あの夢を見なければならないという謎のプレッシャーもあって落ち着かない。ていうかリヴァイさんだってまだ起きているけど、これはお互いに寝てないと記憶は流れてこないのだろうか。…あぁもう分からない。何なのこのシステム。 思わず出そうになったため息を我慢し、落ち着かないまままた目をつぶった。 ◇ 朝日が昇り、部屋の中も明るくなってゆく。 「………あの、リヴァイ…さん……。」 「………何だ…」 朝になってしまった。 「……おはよう、ございます……。」 「……おはよう。」 いや、一睡もしてないんだけどね。 朝の挨拶を交わしむくりと起き上がって、リヴァイさんを見る。するとリヴァイさんもこちらをチラリと見る。 「……」 「……」 なんとも微妙な空気が流れる。 「…えっと…。」 「……。」 「……安眠グッズでも、買いに行きましょうか…」 「……ハァ…。」 お互いにヒドイ顔をしている。ベッドで横になっているのに眠れないとか地獄すぎた。 そのまま黙っているとゆっくりとリヴァイさんも起き上がり、紅茶飲むか?とため息混じりに聞いてきたのでそれに頷き、立ち上がるリヴァイさんを見送る。 「……はぁ…」 なんだか脱力し、私はまたベッドに倒れる。 「(…疲れた…。)」 リヴァイさんがお茶を用意してくれている音を聞きながら、目をつぶった。 ◇ 「ナマエ、出来た…ぞ………。」 紅茶の用意が出来て呼びに来ると、ナマエはベッドで眠っていた。今になって静かに寝息を立てるその姿に、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。 ナマエがずっとソワソワしているのが気になって結局俺も眠れなかった。しかし今なら、先にコイツが寝ている状態なら俺も眠れるかもしれない。ただ、隣で眠るだけ。それだけで俺の記憶がナマエに流れ込むはず。そこから何か分かるかもしれない。今はそれだけが希望だ。 だから、寝込みを襲うわけでもないのだから、別に気にせず隣に行けばいい。 「……。」 なんとなく少し考えてから、ナマエに近づき毛布に手を伸ばした。 ◇ 「………ん……、あれ……?」 気がつくと、ベッドで眠っていた。毛布がかけられている。 「……えっ?!あれっ?」 意識がハッキリしてきてガバッと起き上がった。隣にリヴァイさんの姿はない。 「寝ちゃってた…!?」 なんてこった。せっかく寝れたのにリヴァイさんが居ない!夢も見てない! 軽くショックを受けながらベッドから出てリビングに行くと、そこにはもっとショックな光景が広がっていた。 「な、なんで……!?」 リヴァイさんが、ソファで寝ている。ソファで眠っている。 思わずその姿に駆け寄り床に膝をついて声をかけた。 「リヴァイさん!リヴァイさんっ!」 「………あぁ…?……何、だよ…」 「何で寝てるんですか!!」 「…あ…?先に寝てたのは、お前だろうが…。」 「だから!!何でソファで寝てるんですか!?」 「…うるせぇな…。」 「だって一緒に寝ないと意味ないじゃないですか!!」 「………。」 「なのに何でソファで……!」 起こされたのが嫌だったのか、リヴァイさんは不機嫌そうな目つきで私を見る。 でもだって。せっかくのチャンスを。 「うるせぇな。別に寝るだけならいくらでもチャンスはあるだろ…」 「いやそうですけど!だからってわざわざ棒に振らなくても!」 意味が分からない。何を考えてんだリヴァイさん。 軽く困惑していると、舌打ちが聞こえてきた。 「……仕方ねぇだろ…」 「はい!?何が!?」 リヴァイさんは体を起こし、眠いのか伏し目がちに話す。 「なんとなく、気が引けたんだよ。」 「え?気が引けた?何で?何に?どゆこと?え?」 「……俺が居ると、お前がちゃんと眠れねぇじゃねぇか。」 「…え?なにが?」 「…だから…、お前がアホ面で寝てたから、そのまま放っておいただけだ。」 「………。」 「…というか……お前の睡眠時間まで俺に使わせちまう事に、気が引けたんだよ」 「………。」 そっか…… リヴァイさんは、私の為を思って………… 「ってアホかーーーい!!」 「!?」 思わずツッコミを入れながら立ち上がる。 「アホか!?リヴァイさんはアホなのか!?」 「………っ、」 そしてリヴァイさんの両肩に手を置いてその体を軽く揺さぶる。 「私はリヴァイさんがちゃんと帰れるようにお手伝いがしたいんです!!協力したいんです!!言いましたよね!?今更そんなことで気を遣わないで下さい!!リヴァイさんのその気持ちは嬉しいですけど、それで結果的に苦しむのはあなたなんですよ!?早く帰りたいのなら、一秒でも早く方法を探しましょうよ!!私は全然大丈夫ですから!!ほんと!!マジで!!」 「………。」 目をぱちくりさせるリヴァイさんに、捲し立てるように言い聞かす。 「…ぁっ、 イッ、タ……。」 「……ナマエ?」 すると思い出したように肩が痛みだして、手を離し痛む肩を押さえながらリヴァイさんの前に座り込んだ。 「オイ、何やってんだ…大丈夫か、」 「…だい、じょうぶです。肩のこと、忘れてました」 「馬鹿か…無理、すんな」 「……はい」 顔を上げると、心配そうな目をしたリヴァイさんと目が合う。 大丈夫だと、少し微笑んでみせた。そして彼の両手に手を伸ばしそっと触れる。するとリヴァイさんはその手に視線を落とす。 「…リヴァイさん。私は、協力できる事が嬉しいんですよ。ちゃんと力になりたいんです。昨日はなんか…いろいろ変に考えちゃって眠れなかったですけど…嫌なわけじゃないんです。リヴァイさんが自分の世界にちゃんと帰れるよう、出来る限りの事はしたいんです。」 「……」 「あ、別に早く追い出したいとかじゃないんですよ?私はリヴァイさんと居て楽しいし、いくらでも居てもらって構わないんですが…でも、リヴァイさんは違うでしょう?やるべき事があるんでしょう?だったら、早く帰らなきゃじゃないですか。私は本当に、その為に何かしたいんですよ。」 「……。」 「だから、気にしないで下さい。…私は、リヴァイさんにもっと頼られたいです。」 そう言ってぎゅっと手を握る。すると少ししてからリヴァイさんも握り返してくれた。 「…ここに来てから、お前に諭されっぱなしで……情けねぇな。」 「…そんな事、ないです。ていうか私がリヴァイさんの立場だったら、不安で毎晩泣いてますよ。それに多分、自分のことで精一杯で周りのことなんて考えられないと思いますし。」 この世界にリヴァイさんが頼れる人間は私しか居ない。私がなんとかしないと。してあげたい。 「…なんか私、今日の夜は、ちゃんと眠れる気がします。」 でもとりあえず、安眠グッズは買っておいた方がいいかもしれない。リヴァイさんと一緒に見に行こうかな。 そんな事を思いながら、申し訳なさそうに表情を和らげるリヴァイさんに、笑顔を向けた。 |